灰と紅 3
紅騎士は逃げた。
草原を駆け、あるいは空を翔る。
強靭な肉体と魔装を駆使し、セルティア・アンヴリューという召喚士の少女から逃げ回る。
(なんで……! どうして!?)
紅騎士が逃げても逃げてもセルティアは追いつき、攻撃もせずにただ紅騎士に触れて優しい笑顔を残していく。
ずっとその繰り返しだった。
セルティアの言葉通り永遠の追いかけっこが始まっていたのだ。
(……なぜ――!)
彼女を襲ったのは疑問と恐怖だった。
セルティアと相対してからというもの黒い塵――騎士が一向に姿を見せなくなってしまったのだ。まるで幻であったかのように消えてしまい、護ってくれようとはしない。
(どこにいったの……? 私を護って……! あなたがいたから私は今まで戦うことができた……あの後だって――……あの後? いつ?)
いったい自分はいつの話を思い出しているのだろう。
さっきの灰騎士戦か、闘技場の奇襲のことか、仲間たちと仕事に行った時のことか、それとももっと前の――記憶を失う前の話なのか。
そもそもあなたとは誰なのか。黒い塵はどう見ても人ではない。じゃあ自分は誰のことを考えたのか。
わからない。
思い出せない。
怖い。
『怖い……!』
感情が口から零れる。
騎士を見失った自分はこんなにも脆い人間だったのかと愕然とする。
ただ追いかけられているだけなのに護られていないことがどうしようもなく不安を煽る。
『……?』
突然、セルティアの動きが止まったため、紅騎士は距離を保ちつつ立ち止まる。
攻撃を受けたわけでもないのに彼女は膝をつき地面に顔を伏せていた。
(なにかあったのかな……?)
少しだけ余裕を取り戻した紅騎士が様子を窺っていると、心配するように駆け寄ったルダージュとの会話が聞こえてきた。
「どうしたセルティア!?」
「う、ぅ、ルダージュ……」
「なんだ? どこか怪我でも――」
「怖いって言われてしまいました……」
「……は?」
『……え?』
ルダージュと彼らの会話に耳を澄ませていた紅騎士が素っ頓狂な声をあげた。
「やっぱりシュールなのでしょうか……私としては誰も傷つかない最高の作戦だと思ってるんですけど」
「俺は好きだぞ……! これはセルティアにしかできない作戦だからな」
『あの……別にあなたのことを怖いって言ったわけじゃ……確かに笑顔で追いかけられたのは怖かったような気がしないでも――』
「やっぱり怖いんじゃないですか! うっ……どうして私は自分の召喚獣さんとの初コンタクトは上手くいかないのでしょう……」
「落ち込むなって、俺はそんな真っ直ぐなセルティアが好きだからさ。……おい! 紅騎士!? 事実でも言って良いことと悪いことが――って違うんだセルティア。今のは言葉の綾で……そんな泣きそうな顔をしないでくれ!」
『……なんなの』
彼らといると調子が狂う。
戦闘中だというのに聞こえてくるのは「お詫びになんでもする」だの「ダブル抱き枕」だのとよくわからないものばかり。
ただ、
『ふふ……』
このわからないは怖くない。
楽しそうだ、と思わず羨望してしまう。
記憶が戻ればこのわからないものの正体を全部、知ることができるのだろうか?
『召喚士セルティア・アンヴリュー』
「……!」
『立って。そして私の我が儘に付き合って』
紅騎士が紅剣を構えると示し合わせたようにセルティアがゆっくりと立ち上がり、ルダージュはそんな彼女たちを見守るように一歩下がった。
『追いかけられてばかりじゃ埒が明かない。次は、反撃する』
紅騎士の周りを円を描くように十数本の紅剣が立ち並ぶ。
本気で迎撃するための武器だ。
『これを突破できたのなら、私の負けでいい』
「……その我が儘、乗ります」
言葉と共にセルティアが駆ける。
何の捻りもない一点突破。的にしてくださいと言っているようなものだった。
『……!』
宙に浮いていた紅剣の剣先がセルティアの方に向けられ射出された。
それは腕をや足を狙った動きを封じるための攻撃。
だが――
『!? 弾かれた!?』
いったい何の力が働いたというのだろうか。
放たれた紅剣は確かにセルティアの身体を狙っていたのだが、斬りつける直前に弾かれたよう軌道が屈折したのだ。
撃ち続けても結果は変わらない。
紅騎士の攻撃はセルティアに届かず、彼女はそれが当然のように迷うことなく走り続ける。
(まるで……騎士に護られていた私みたい)
紅騎士はもはや寸前にまで迫ったセルティアを握り締めた紅剣を振るう。
そして――
『――“灰”の塵?』
彼女を護っていた正体を見た。
黒ではなく灰。紅騎士が黒い塵に護られていたようにセルティアは灰の魔装によって護られていたのだ。
譲渡されたのはハイタッチを交した瞬間から。あの時からすでにセルティアはルダージュによって護られていたのだ。
「さすが私の召喚獣です、ルダージュ」
それがまるでゴールかのように、セルティアは紅騎士に正面から抱き付き、そう呟いた。
『なん、で……どうして……? 怖く、なかったの?』
紅騎士の疑問はセルティアがまったく臆することなく自分に向かってきたことに対してだ。
自分は灰騎士との戦いで反射的に身構えてしまった。たとえ“騎士”が護ってくれるとわかっていても、体は勝手に動いてしまっていた。
しかし、目の前にいる召喚士の少女は違う。
紅騎士がどんなに攻撃しても避けもせず目も背けない。
答えは簡単だ。
「信じていましたから。彼のことを」
『彼――?』
「ルダージュのことをです」
抱き締めてくるセルティアの肩越しから見えたのは自分と同じ色の髪と目をした青年の姿。
彼は召喚士の少女だけではなく、敵である自分のことも心配するように見つめていた。
そして紅騎士と視線が合ったことを感じたのか、安堵したような微笑みを浮かべている。
「きっとあなたも、自分が誰に護られていたのかを思い出すことができれば……きっと怖くなくなります」
紅騎士の耳元でセルティアは囁く。
『な!? 気付いて――!?』
どうやらこの少女、本当は紅騎士の言葉の意味に気付いて一芝居打っていたらしい。
『……嘘つき』
「ふふ、私も言われてしまいました。ルダージュとお揃いですね」
嘘つきを呼ばれたことを心底喜んでいるのかセルティアの笑い声が紅騎士の耳をくすぐった。
『……私の負け。これからどうすればいいの?』
「ではそのままじっとしていてください。解呪魔法というもので貴女にかけられた禁呪を解きます」
『鎧の上からじゃ魔法は効かないけど……大丈夫?』
「やっぱり気付いていなかったんですね」
『?』
「鎧の首元……ルダージュとの戦闘から崩れていたんですよ?」
『……え?』
「追いかけ回したおかげで今では丸見えです」
そういえば少しだけヒヤリとした感覚があったが、あれは悪寒ではなくただ肌寒くなっただけだったのかと納得する。
(なんだ……)
負けでいいと偉そうな口を利いておきながら、とっくに負ける準備は整えられてしまっていた。
最初のルダージュの言葉通り、紅騎士は彼らに負けてしまったのだ。
『……最後に確認していい?』
「なんですか?」
『私の記憶が戻ったら今の記憶はどうなるの?』
「……」
『短い間だったけど、妹のように思っていた子がいるの。その子のこと……忘れたくない』
「ユノさん……だから貴女は……」
記憶を取り戻せると説得しても紅騎士が素直に応じなかった理由。
それはもちろん義理立ての意味もあったが、それ以上に世話好きな貴族の少女のことを忘れたくなかった。
過去の記憶のほとんどを禁呪により封印された悠乃。それを解呪した反動で今の記憶を忘れてしまう可能性が無いとは言い切れない。
「もしかしたら……忘れてしまうかもしれません」
セルティアはとしてはその少女との思い出の時間は本来、自分とユノの時間になるはずのものだった。気分は正直複雑だ。だけど、
「でもきっと大丈夫です。この魔法は忘れてしまった記憶を思い出すだけの魔法だから。だからきっと大丈夫」
言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
それは根拠のない願いのようなものだったが、
『……どうしてだろう。なぜか知らないけど、そう言ってもらえるとすごく安心できる。これも思い出せればわかるのかな?』
「はい、絶対に」
セルティアが力強く頷くと紅騎士はそんな彼女を抱き締め返し、『ありがとう』と囁いた。
それが合意の合図だった。
「……」
セルティアが左手の魔法陣にマナを送り、解呪魔法を発動させる。
紅騎士の首にゆっくりと当てると、彼女はぴくりと身動ぎをして動かなくなった。
解呪魔法は視覚的反応が見られないため、魔法そのものでは効き目は判別できない。
しかし、
「……ぁ」
変化が訪れた。
紅騎士の鎧が陽炎のように揺らめき、徐々に灰燼に帰していく。
粒子状になった紅色の魔装は再び顔を現した太陽の光を浴びて、細氷のようにきらきらと輝き始めた。
それはまるで禁呪の楔から彼女を解き放つように、儚くも幻想的な光景だった。
「……ユノ、さん?」
紅色の魔装が見えなくなり、残されたのは黒髪の少女。
紅騎士の中身とは思えないほど華奢で少々童顔な女の子。
高牧悠乃。
セルティアの二柱目の召喚獣。
「え? わ、ちょっ……!」
救えたことで気が抜けていたのだろう。
眠ったように目を閉じたユノにセルティアは押し倒され、仲良く倒れ込んでしまう2人を自然の絨毯が包み込み衝撃を和らげた。
セルティアは上半身だけを起こし、ユノを抱きかかえた。
「……ずっと、ずっとこの日を待っていました」
誘拐犯の正体を探り、文献を漁り、幻魔教を追った日々。
短いようで長い、長いようで短い期間。彼女のことを想わなかった日はなかった。
「……!」
もう離したくはない。
泣きそうな顔を堪えるようにセルティアは顔を伏せ、さらに強く抱き着く。
「怪我はないか、2人とも」
後方からルダージュの声がする。
彼はセルティアの背後から回り込むように正面に居座ると「大丈夫か、セルティア?」と召喚士に声を掛けた。
「ルダージュ……」
召喚士の嬉し泣きを見て、彼女の想いを察したルダージュは、
「頑張ったな、セルティア。君はすごく頑張った」
くしゃくしゃと頭を撫で、自分に顔を見せなくても済むように俯かせた。
セルティアはただルダージュの言葉に無言で頷き、右手の甲で顔を拭っていく。
「……悠乃の様子はどうだ?」
落ち着いたころ、後輩の少女に視線を落としながらルダージュは問う。
解呪魔法が成功したはずの悠乃は眠ったように目を瞑り、起きる気配がなかった。
あの時と変わらない姿を見せられるとどうしても不安になってしまう。
「生きてる……よな?」
「……ルダージュ、頭」
「頭――? って! うお!?」
首を傾げたルダージュの後頭部に指を引っかけ、強引に悠乃の胸へと導くセルティア。
いったいなんの真似かと思ったが、セルティアの次の一言で謎は解けた。
「聞こえますか?」
「……」
ルダージュの耳には悠乃の鼓動が届いていた。
トクン、トクンと穏やかでありながら力強い心臓の音。
地獄では聞こえなくなってしまった命の音が、世界を飛び越えて聞こえてくる。
悠乃が生きていた、と現実が教えてくれる。
「……っ」
洟を啜り、耐えられなくなりそうだったルダージュ。
そんな感傷を台無しにするように、彼の鼓膜を震わす声が届いた。
「……いつまで人の胸にダイブしてるんですか、へんたい」
「!? 悠乃……!」
半眼になりながらルダージュを見つめる悠乃。
意識が戻ったばかりなため彼女は気怠そうに頭を傾け、ルダージュを見つめる。
「しかも、寝込みの女の子の臭いを嗅ぐなんて……ドン引きです」
「お、お前なぁ、やっと再会できたのにそれはないだろう」
「知りません」
ふん、とそっぽを向く悠乃に対し、ルダージュは参ったな……と頭を掻いた。
でもセルティアは知っていた。2人の様子を見ていたからわかる。
悠乃の悪口は全部照れ隠しだと。
ルダージュが心臓の音を聞いているときに意識が戻った彼女は、彼を抱き締めようと最初は腕を伸ばしていた。でも、セルティアに見られていると気づいた瞬間、慌ててその手を引っ込めてしまったのだ。頬を紅色に染めながら。
「もう少し素直に――」
邪魔をしてしまった本人が言うのも変な話だが、素直になった方がいいとそうセルティアがアドバイスをしようとした瞬間、それはやってきた。
「……化物に空気は読めないか」
セルティアと悠乃を庇うように立ち上がるルダージュ。
彼の視線の先には四翼の幻魔――アメザラシ。
グリフォンのような肢体に漆黒の羽毛と骨の鎧を引っ提げた化物が、暴風を巻き起こし元ゴブリンの棲み処の上へと着地する。
「ルダージュ」
セルティアが彼の名を呼び、拳を突き付けた。
それは借りたものを返すための簡単な儀式。本当は拳を握るのではなく、手の甲を差し出して騎士らしく口づけをしてもらいたい……なんて浮ついたことを考えてしまうが、それは召喚士と召喚獣という立場を堪能した後にとっておきたい。
「……」
拳を突き合わせ、魔装が返還されたルダージュは瞬時に灰騎士へと変身した。
そして幻魔に立ち向かおうとしたその時、
「先輩」
元青年が聞きたかったもう一つの彼の呼び名で呼び止められる。
「忘れものですよ」
悠乃もまたセルティアに倣うように拳を突き付けた。
「さっさと片付けてください」
『……あぁ』
悠乃と灰騎士が拳を突き合わせた。
その瞬間、ルダージュが持っていた全ての魔装が返還され――
――世界は闇に包まれた。
そう錯覚してしまうほどの漆黒の魔装の粒子が辺り一帯に濃霧となって顕現したのだ。
そして灰騎士の体が闇に侵食されるように灰から黒へと鎧の色が移り変わっていく。
セルティアの前に現れたのは、灰色の騎士ではなく漆黒の鎧殻を纏ったルダージュの姿だった。
「……それが、ルダージュの本当の姿なんですね」
『そうだ』
漆黒の騎士は静かに頷き、背を向ける。
『セルティア、見ていてくれ』
悠乃から返還された魔装を操り、本来の力を取り戻したルダージュはそう言って少しだけ照れくさそうにしながら言葉を続ける。
『かっこつけてくる』
「……!? はい――!!」
それは出会ってまだ間もない頃のやり取りを思い出させるには十分な言い回しだった。
しかし、それでも不安な気持ちは拭いきれないのかセルティアはずっとルダージュの背中を見つめている。悠乃はそんな彼女を見上げ、安心させるように語り始めた。
「先輩はね、バカなんですよ」
「……え?」
唐突な悪態にセルティアは目を丸くした。
「魔装が灰色になるまで譲渡するなんて……ただの自殺行為。よくあんな弱っちい状態で生きてましたね」
彼といた異世界での生活を思い出しながら、棘のある物言いを続ける悠乃。そんな彼女の顔は口の悪さとは程遠い優しい笑みを浮かべている。
セルティアはもちろん、彼女の言葉の裏にはルダージュに対する信頼が隠れているのだと理解できた。だが、それを踏まえても看過できないことはある。
「ルダージュは弱くありません」
たとえ相手がルダージュの後輩であり、自分の召喚獣であってもルダージュに対する不当な評価は許容できない。彼は強い。今までだって沢山の人を護ってきたのだから。
でも、
「弱いよ」
悠乃は否定する。なぜなら――
「だって今の先輩なら、あんな小っちゃい化物なんて一捻りだから」
「小っちゃ――え? 小さい?」
セルティアは改めて敵の幻魔アメザラシを見た。
人を丸のみにしてしまいそうなクチバシを持つ巨体の幻魔。それが小さいとはどういう意味なのかセルティアにはわからない。
しかし悠乃にしてみればアメザラシは小さいのだ。最後に戦った幻魔が規格外な大きさであったため、それに比べれば今まで“食料にしてきた程度の化物”なんて“小さく感じてしまう”部類なのだ。
『……』
セルティアの困惑の視線を背に受けてるとも知らず、漆黒の騎士は黒い魔装を展開する。
草原が闇に染まり、アメザラシをも飲み込もうとした瞬間――ルダージュの振り上げた腕と連動するように漆黒の槍が剣山の様に飛び出て幻魔を襲った。
そして――
パチン
腕を振り下ろし、指を鳴らした瞬間、幻魔が絶命した。
破裂したのだ。
突き刺さった槍の痛みにもがき苦しむ暇もなく、風船が割れたように幻魔が爆発四散してしまったのだ。まるで魔装を体内に入れられて、膨らんだ体を維持できなくなったような破裂の仕方。それはルダージュが“対”対策会議で口にしていた必殺技だった。
「……強すぎ、ですよ……ルダージュ」
会議中の言葉を思い出す。
あの時はまだ彼は控えめに言っていたのだ。
口を開けさせる必要もない。魔装の武器を敵に突き刺し、体内に送り込める量があれば勝ちなのだ。むしろルダージュが展開した闇の中に一度迷い込んでしまえば、魔装が体内に侵入し内側から幻魔を蝕んでしまう。
まさに一捻り。
幻魔ですらそこら辺にいる魔物と同じように倒してしまう力。それができる魔装を、ルダージュは取り戻したのだ。
「ぁ……」
そしてセルティアは見えてしまった。
あれほどの力を発揮できる量の魔装を譲渡してしまうほど悠乃のことが大切だったのだと。
そして、なりよりもまず召喚士として、
「やっと隣に並んだと……そう思えたんですけどね……」
強すぎる彼は自分よりずっと先にいる。
漆黒の鎧を纏うその背中が、また遠いところにあるように見えてしまう。
「……召喚士さん」
そんな寂しそうに笑うセルティアに自分の過去を見たのか、悠乃はセルティアを見上げそう呼んだ。
「私のこと、先輩から聞いてる?」
「ぇ……あ、はい。一通りは……」
「そう。……じゃあ、わかるよね?」
「?」
「私は諦めてしまった」
「……、っ!?」
セルティアは気付いた。
悠乃が『諦めたこと』とは『生きる』こと。ルダージュの隣で生きることだと。
「けど、あなたは諦めなかった。諦めず、先輩と一緒に紅騎士である私と戦い、勝ってくれた。それだけで十分だと、私は思う。少なくとも私はそう思うよ」
「ユノ、さん……」
「先輩のこと、隣で支えてくれてありがとう。召喚士さん」
「わ、わたしは……わたしはずっと、ずっと――!」
「ほらほら泣かないで。胸を貸してあげるから」
ルダージュの召喚士であることを証明したかったセルティア。
彼女は今この瞬間に初めて自分のことを認めることができたのだった。
悠乃自身はセルティアたちの事情を知っているわけではない。だが、しきりに涙を流し、静かに泣いている召喚士の少女を見詰めていると、自分の言葉が間違っていなかったのだと思えた。
ポンポン、とセルティアの頭を撫で回していると、いつの日かの先輩との記憶を思い出してしまい、少し気恥ずかしい。
「やっと光を見つけた」
太陽を仰ぎ見て、悠乃は呟く。
「やっと空が眩しい……って、思い出すことができたよ」
記憶を思い出してもなお、忘れなかった紅騎士としての記憶。
妹のように可愛がっていた少女に伝えたかった報告は青い空へと向けられ、またも悠乃を馳せらせた。




