裏切者の共犯者
『すばらしい! やはりキミは最高だ! その強さはまさに神懸っていると言えるだろう――!!』
万雷の拍手が1人の男の手によって送られる。
矢倉を蹴破り登場したのは、幻魔を模した仮面を被り黒装束を身に纏う男。
幻魔教。
灰騎士と紅騎士の決戦を引き起こした首謀者――その1人だ。
『……悠乃、あいつはなんだ?』
漆黒の鎧殻を纏ったままのルダージュは後方へと下がり、セルティアと悠乃を護るように立ちはだかる。周囲にはいつでも防御と反撃を行えるように魔装も展開していた。
「彼は……幻魔教でリーダーって呼ばれてた男の人。先輩と私の戦いを見守るために隠れてたの。まさか自分から出てくるとは思わなかった」
『……そうか』
幻魔教のリーダーが身を隠したのは紅騎士がゴブリン掃除をしている途中のことだ。『見学するよ』とまるで闘技場の観戦客のようにフランクな挨拶を交わした後、特等席で灰騎士対紅騎士の試合を味わっていたのだ。
姿を現すことが無ければ折を見て先制攻撃を仕掛けようと考えていた悠乃は完全に出端を挫かれた形だ。
『おやおや、せっかく私が登場したというのにつれないなぁ。もっとお話をしようじゃないか』
男の声は仮面の影響なのかくぐもっていた。
敵同士だというのに、それはまるで旧知のよしみに話しかけるように馴れ馴れしい。
『お前と話すことなんて何もない。それに、わかっているのか? この状況を』
男の周囲に魔装が出現し、彼を拘束するように巻き付く。
魔装に余裕がある今、ルダージュの行動に際限はなく、捕縛も一瞬だった。
『痛い痛い、酷いなー。私はキミたちと違って普通の人間なんだから丁寧に扱ってくれないと困るよー』
『もう逃げられないぞ。幻魔教。お前たちのことを洗い浚い吐いてもらう。たとえ抵抗しても無駄――』
『いいよ』
『――なに?』
思わず聞き返すルダージュに男は可笑しそうに身体を震わせた。
『だからいいよって言ったんだ。私の目的を……いいや、私たち幻魔教の目的をキミたちに教えよう。そのために私はここで待ってたんだ』
『……』
戯言だと、ルダージュは思った。
男の言葉が事実であるならば、彼は捕まることも覚悟して姿を現したことになる。そこに何の意味があるというのか。
『……とりあえず学園に引き渡す。学園長ならあんたらの身柄を正しいところに預けてくれるだろう』
幻魔教は人型精霊の秘密を知っている可能性が高い。
悠乃を強制召喚してすぐに記憶を忘れさせたのなら人型精霊と勘違いしたままだろう。だが、悠乃から魔界の話を聞いていた場合は危険だ。幻魔教が世界の秘密を握る一団ということになってしまう。
安全のためには法的組織に突きだす前にルダージュの秘密を知っている学園長を経由する必要があった。
『セルティア、悠乃、立てるか? もし無理そうなら久しぶりに魔装のバイクに乗せていくけど』
「バイク?」
「えー先輩のアレに乗ると酔っちゃうんですよねー私……」
聞きなれない単語を耳にしてセルティアは首を傾げるが、悠乃は遠い目で二輪駆動の魔装型車輪を思い出していた。移動手段も自前で用意できるルダージュは最早“なんでもあり”な状態になっていたのだが、それにセルティアが気付くのはもう少し後の話だ。
『……あれ? おーい、無視しないでくれー知りたくないのかーい』
幻魔教に興味を無くしたように学園へと踵を返そうするルダージュたちを、男は引き止める。
だが、
『後でたっぷりと聞かせてもらうさ。今はお前に構っている暇などない』
ルダージュは男の軽薄な態度に対抗するように冷徹に接する。
体力的にはまだまだ余裕はあるのだが、セルティアと悠乃を一刻も早く休ませてあげたいというのが本音だ。両者の精神的疲労は計り知れないし、悠乃に至っては過去の記憶が戻ったばかり。感動の再会を喜ぶ前に心身共に休息することが大事だ。
しかし、男はそんなルダージュの思惑を考慮するかのようにうんうんと頷き、
『わかる。わかるよー。武闘大会の準備に連日の戦闘。早く家に帰って休みたいという気持ち、私にもよくわかる。だけど……幻魔教の目的がキミたちには公表できないほどの大罪だとしたらどうする?』
理解を示した上で、釣り人のように撒き餌を放つ。
『……どういう意味だ?』
『ふふ、気になるだろ?』
『……』
ルダージュは釣られているということを自覚していた。
しかし、男の言葉が本当だった場合、蟠りを残したまま今回の騒動が終着を迎えてしまう。
『今、この場で、聞いておかなければチャンスを逃してしまうかもしれないよ? いいのかい? 私たちの手によって翻弄されたキミたち3人が、真相を知らずに生きていけるのかな?』
男の台詞は甘言に近い。
一連の事件の隠された真相を、刑事ドラマのラストのように犯人が自白してくれるというのだ。知る権利はあるとルダージュは感じた。
男の様子から悠乃は今回の戦闘の目的すら聞かされていない可能性も高く、男の身柄を預けてしまったら情報を得る機会がなくなってしまう可能性もあった。
それに、
(ララのこともある)
幼い獣人のお姫様を思い出す。
彼女はまだノイシスの加護持ちだ。幻魔教に狙われる理由をルダージュは個人的に知っておきたかった。
たとえ人型精霊と嘘をついたことで嫌われようと関係ない。軟禁生活から解放する糸口を見つけるためにも情報収集は必須だ。
『そう怖い顔をしないでくれよ、灰騎士くん』
『顔は見えないだろ』
鎧殻を解除する予定はなく、常に警戒状態のルダージュ。
表情が表に出ることはない。だが――
『見える。見えるさ。怒っているキミの顔が……キミは態度が顔に出やすいから私にはわかる』
『……っ!』
こいつは、やはり……!
男の正体に気付きつつあるルダージュだったが、指摘はしない。
そんな無駄話をするぐらいだったら、幻魔教の目的とやらを聞いたほうがましだと思った。
『……セルティアはどうする?』
自分は聞く準備はできているが、召喚士の意向も無視できない。
魔装を操り、男の口を封じることもできる――と訴えるが、
「聞きます。……それに彼は、私たちが耳を塞いでも勝手に喋ってしまいそうですし」
セルティアが男を睨みつけると彼は仮面の下で薄ら笑いを浮かべた。
『それでいい。では教えよう。幻魔教の崇高なる目的を――!』
まるで自分に酔い痴れた役者のように振る舞う男だが、その声とは裏腹に身体は未だに拘束されたままなので体裁は滑稽だ。
だが、そんな見た目の話などまったく気にした様子もなく、男は語る。
『幻魔が世界を蹂躙した時代。世界は破滅へと導かれようとしていた。そこに現れたのが後に救世主と謳われるようになった魔法使いの少女――ノイシス。彼女は召喚魔法を編み出し、世界初の召喚士として精霊王の召喚に成功する』
「……」
アリアストラの住人であれば知らぬ者はいない。
大召喚士ノイシスの伝説。
それが今、何の関係があるというのか。
セルティアたちにはわからなかった。
『ノイシス様は精霊王と共に仲間を率い救済の旅へ。召喚魔法を流布し、精霊を使役する召喚士を育成し、幻魔を討伐していった』
『……おい』
ルダージュが苛ついたようにツッコミを入れるが男は止まらない。
『そして最後にはノイシス様と精霊王の活躍により、幻魔は一度滅ぼされ、世界は平和になってしまったのです』
『その話にお前たち――』
『さあ、ここで問題だ』
男はわざとらしく大声をあげ、ルダージュの言葉を遮る。
『なぜ、幻魔は負けてしまったのだろうか。魔法も効かない凶暴で凶悪な化物たち。世界を滅ぼせる力も数もあった。なのになぜ、幻魔は負けたのか……答えは簡単だ』
「……」
『ノイシス様に有り、幻魔には無かった存在。――それはね、王様だ』
「……まさか」
セルティアたちは男が言わんとする次の言葉がわかった。回りくどい台詞は幻魔教が誕生する切っ掛けを話しているのだと。
『“精霊に王がいたから”幻魔は敗北してしまったのだ。だけどそうじゃない。逆だ。“幻魔に王がいなかったから”勝てなかったんだ』
『……くだらん』
ルダージュは幻魔教の考えを吐き捨てる。
そこまで聞いてしまえば、男の次の台詞など嫌でもわかってしまうから。
つまり、
『幻魔教とは幻魔の王――幻魔王の降臨を目論む宗教だ。幻魔王を降臨させ、また世界を破滅へと導くことこそ、幻魔教の宿願なのだよ』
「……」
セルティアは絶句し、ルダージュと悠乃は少しだけ呆れた。
言うに事を欠いて幻魔の王――魔王とはありきたりな話だ。異世界にトリップしファンタジーな世界を堪能させられていたら、今度は元の世界では聞きなれた魔王という単語。呆れるなという方が無理な話だ。
しかし、男の演説はまだ終わらなかった。
『だが1つ問題があった。幻魔教の信徒たちが研究し、調査し、捜索をしても幻魔王の影すら見つからなかった。いなかったのさ、幻魔の王なんて』
『……』
ここは笑うところなのだろうか。
ルダージュたちが反応に困っていると男は『でもね』と陽気に声を上げる。
『最近になって見つけたんだよ。幻魔の王という名に相応しい力を持った最強の化物を』
「……最近? ――っ!?」
『お、さすがだアンヴリューくん。気付いたようだね? そう、キミの召喚獣だよ。異世界からの来訪者。『灰騎士』のルダージュ』
『……』
セルティアと悠乃がルダージュの背中を見つめる。
彼はただ静かに佇み、反論を口にはしない。
『数多の幻魔を食べ、幻魔をも凌駕する力を手に入れた元人間。一撃で幻魔を屠り、闇の支配者のような漆黒のその姿は正に幻魔王の名に相応しい。だから――』
『だから俺を騙してたのか、クレイゼル先生……いや、幻魔教クレイゼル・ブライト』
『……はは』
魔装を操り、否定しない男から仮面を弾き飛ばす。
そこにはルダージュが唯一自らの事情を直接話し、全てを教えていた男――魔導都市学園の教師クレイゼル・ブライトがいた。
「なんだ、気づいてたのか」
愉しそうに笑うクレイゼル。
そこにはもちろん罪悪感などは存在しない。ただ少し、感心したように目を細め、薄く笑う唇があるだけだった。
『学園長が昨日言っていた。クレイゼルが逃亡した、もしかしたら幻魔教の一味かもしれない、と。昨日のお前の行動は不可解なことが多すぎた。正直、幻魔教とわかった今もよくわからない』
「そうだろうね。でも、そうだな……今、教えてあげるとしたら――覚えているかい? 私と話したこと。幻魔教が彼女を誘拐した時“目的とは異なるモノ”が手に入ったと私の仲間から聞いたんだろ? アレはね、人型精霊を手に入れようとしたら幻魔が手に入った、じゃなくて、幻魔を手に入れようとしたら紅騎士を手に入れたって意味だったんだよ。私たちは最初から幻魔を召喚するつもりでセルティア・アンヴリューを誘拐し、偶然にもそこにいるタカマキ・ユノを召喚してしまったのさ」
人型精霊を欲していた、とそう思っていた幻魔教が悠乃の召喚に成功していた。
それはつまり“目的のモノ”を召喚したことになる。悠乃もルダージュと同じ能力を持っているのだから人型精霊と呼べたはずだ。しかし、幻魔教は最初から幻魔を召喚する予定だった。幻魔を召喚できると知っていたのだ。その事実をルダージュから聞かされていたクレイゼルが幻魔教の一員であったために。
ルダージュが気付いたのはクレイゼルが行方をくらました後だったためどうすることもできなかった。
『今頃、学園の仲間がお前を捜し回っている。幻魔教に悠乃がいることで俺はお前を疑うべきだった』
「それをさせないためにキミの正体をバラしたんだけどね。良い時間稼ぎにはなったよ」
それでも幻魔教――クレイゼルには不可解な行動が多すぎた。
幻魔教とばれたくないのであればそもそも紅騎士を闘技場に寄越す必要はない。
まだ何か隠している。
ルダージュたちが真相に辿り着くためにはまだピースが足りない。
「私たちは感謝したよ、この巡り合わせに。キミとの出会いに。まさに信じる者は救われるのだとキミを崇めた」
『……俺はお前たちの王様になるつもりはない』
「存じているよ。私たちもキミを説得するのは無理だと判断した。キミは真面目すぎるし自分と紅騎士を救ったセルティア・アンヴリューを裏切ることは絶対にない、この世界を憎まない、と出会った時から思っていた。だから――」
クレイゼルが顔に皺を作り、見たこともない満面の笑みを浮かべる。
「一から創ることにしたんだ。我々の王様を! 最初からこの世界を憎んでいる人間を“依代”にすることで、世界の敵を誕生させるのさ!」
クレイゼルの嗤い声が草原に広がる。
「狂ってます……」
『……』
彼の語った幻魔教の存在意義が幻魔王の誕生だとしたら、それは世界を揺るがす災厄となり得るだろう。
「――ところで、キミたちは裏切者とはどういった人間のことを指すと思う?」
突然、嗤うのを止めたクレイゼルは生徒に問題を投げかける教師のような態度を取り始めた。
『……お前のようなやつのことじゃないのか』
ふざけた内容だと思いつつ、ルダージュは律儀に答えた。
答えなければ先に進まないと悟ったからだ。
そして、そんな彼を嘲笑うかのようにクレイゼルは当然のように否定する。
「不正解。大間違いだよ、ルダージュくん。勘違いしてもらっては困るが、学園の教師とは言わば私の表の姿に過ぎない。元々幻魔教であった私が、教員という仕事をしていただけなんだよ」
『だからお前は裏切ってはいないと? 最初から幻魔教として行動していただけなんだ、と言い張るのか?』
「その通りさ。裏切者は私ではない。本当の裏切者はね、アンヴリューくん。今まで普通に接してきたのに、ある時突然心変わりをしてしまい、同じ道を歩んでいたと思ったら、いつの間にか背を向けて別の道を選んでしまった人間のことを言うんだよ」
「……」
ルダージュとの応答から唐突に話題を振られたセルティア。
クレイゼルに返事をしなかったのは無視をしたからではない。彼が今から口にしようとしている言葉にとてつもなく嫌な予感というものを感じ取ったからだ。
「私が裏切者ではないと証明しよう。キミたちにとって本当は誰が裏切者だったのか、その姿を見せてあげるよ」
「なに、を……言って……」
拘束されたクレイゼルに近づく影があった。
幻魔教の象徴である黒装束と口だけを露出した三日月のような仮面。透明化の魔法インビジブルを解きながら姿を現したその男は、学園の制服の上に黒装束を羽織っていた。
『嘘、だろ……』
彼の両手には肉片が握られている。
確認するまでもない。ルダージュが倒した幻魔の肉だ。
すでに口元は血で汚れており、もう何度目かの食事を済ませていたことを物語る。
そして――
「はぐっ」
ルダージュたちに見せつけるように幻魔の肉を頬張り始める。
幻魔の肉を食べる。それが意味することを理解していると証明するように。
依代とは裏切者の学園生のことだったのだ。
「ルダージュくん、彼から聞いていたよ? 本当は幻魔の肉って美味しいんだってね? まずいなんて強がりを言っちゃってぇ、本当にキミは嘘つきなんだから」
『……いつの話をしている』
「ずっと、前の話さ」
『っ!』
それはつまりルダージュたちを裏切っていた学園の男子生徒がずっと前から幻魔教に与していたということだ。
「先輩」
悠乃が何かに気付いたようにルダージュに声を掛けた。
「あの人、たぶん私を記憶喪失にさせた張本人です。魔法をかけられた記憶があります。あと、一応寝床とか用意してくれました」
複雑な顔をする悠乃。
彼の妹とは仲良しだったため感情が上手く制御できない。衣食住は保障され、干渉もしてこない淡泊な関係。記憶が無いときは恩人だと思っていた。だが今は先輩との記憶を忘れさせた敵だ。許すことはできない。
『……そうか』
ルダージュ自身は敵意しか湧いてこなかった。
悠乃を弄び、セルティアを悲しませた相手がすぐ目の前にいる。それはルダージュにとって殺意すら生み出してしまう相手。
だが、そんな単純に手を出すわけにもいかなかった。
「どうして、ですか……? なぜ学園の生徒が幻魔教の仲間に……」
セルティアが生徒会長として答えを求めていたからだ。
同じ学び舎の仲間が道を踏み外した理由が彼女にはわからない。
断罪は全てを明らかにした後だ。
もう1人の裏切者を束縛するために魔装を操り、黒い濃霧が今にも学園生を包みこもうとしたその瞬間――
「ちなみに彼が幻魔教に入ったのはルダージュくんが原因だよ」
『……なに?』
思わず魔装を止め、クレイゼルを仰ぎ見る。
彼はほくそ笑むわけでも馬鹿にするわけもなく、ただ呆れたようにルダージュを見つめ返した。
『どういう意味だ』
「どういう意味も何も……キミが彼に自分のことを喋ってしまったから彼は魔装に興味を持ち幻魔教に入ったんだよ?」
ルダージュは混乱した。
クレイゼルの言葉の意味がわからない。そんなことをした覚えなどないからだ。
出鱈目なことを言って掻き乱そうとしているとしか思えなかった。
だから、
『嘘だ』
『嘘じゃないよ、キミじゃあるまいし』
『……』
言い返せないルダージュの横を氷の刃が通り抜け、クレイゼルの身体を掠める。
セルティアの魔法だ。
「それ以上、私の召喚獣を侮辱することは許しません」
怒気を帯びた顔を隠そうともせず、セルティアはクレイゼルを睨みつける。
「理不尽だねー嘘つきは褒め言葉じゃなかったのかい?」
「……ルダージュたちの秘密を知っていたのはあなたと幻魔教のみ。他は私を含め、昨日知ったばかりの生徒しかいません。つまらない嘘は吐かないでください」
「はははは、いいや、本当のことだよ、これは」
なぜなら、
「彼は私と一緒にキミの話を聞いてしまったんだからね」
「……」
『……』
セルティアはもちろん、ルダージュもクレイゼルの言葉の意味を上手く飲み込むことはできなかった。
(あいつと一緒に聞いていた……? 俺が異世界について話したのはこの世界に来てすぐ、クレイゼルの保健室で目が覚めた後のことだ……。――っ!! まさか!?)
『あの時、あの場に……そいつがいたっていうのか!? 俺がお前に身の上話をしているときに! そいつが近くで聞いていたって言いたいのか!!』
「うん、そうだよ。彼はたまたま体調が悪くてね、キミの隣のベッドで休んでたんだ」
『な……』
クレイゼルはそう言って「気付かないのも無理はないよ。カーテンで仕切ってたから」と軽快に笑う。
ルダージュは呆然と立ち尽くす。
そして裏切者――巻き添えとなった生徒は誰なのか見当もつかないまま、答えは本人の口から告げられた。
「御託はいいよ、先生。俺は彼に感謝してますから」
幻魔教とは思えない優しげな声に爽やかな態度。
ルダージュも、セルティアも、悠乃も聞いたことがある貴族の少年の声。
「精霊も召喚できない弱くて弱くてどうしようもない自分に、強くなるための別の道を教えてくれた」
わざとらしい意地の悪い笑みからは幻魔の血が零れ落ちる。
血は学園の制服を汚したが、少年は気にしなかった。幻魔の力を受け入れるように汚れる事すらも厭わない。
「お久しぶりです。ルダージュ、それに生徒会長。武闘大会の準備期間中以来かな?」
仮面を外す。
第一印象は絵にかいたような美少年だとルダージュは思ったことがある。
そして血色が悪いのが残念だと、彼の体調を心配したこともあった。
『……ジル』
「ジル、くん……そんな……」
セルティアの同級生が幻魔教の一員としてルダージュたちの前に姿を現した。
裏切者の共犯者はジル――魔法科の同期レイフォン・ジル・フリークのことだった。




