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最強未踏破―人類最強のおっさんは、まだ何も知らない―  作者: レイヴ
第一章 未踏領域

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第七話 一人じゃない

 ドタドタドタ……


 足音が近付いてくる。


 ローヴァンは振り返った。


 四人いた。


「……何故だ」


 タクミが眉をひそめる。


「何が?」


 ローヴァンは四人を見回した。


「荷物持ちは」


 一拍置く。


「一人でいい」


 一瞬、静まり返る。


「違ぇよ!」


 タクミが叫んだ。


「誰が荷物持ちだ!」


「全員だろ」


「違ぇ!」


 リサが頭を抱える。


「始まった……」


 キャサリンは深いため息をついた。


「本気だ……」


 ステファンだけが静かに笑っている。


「面白い」


 ローヴァンは首を傾げた。


「来るんじゃないのか」


「行く!」


 タクミは即答した。


「そうか」


 ローヴァンはそれ以上興味を示さない。


「好きにしろ」


 ローヴァンは荷物を背負い直し、予備の剣を腰へ差した。


 五人は王都を出た。


 東門を抜ける。


 石畳が終わる。


 街道が続く。


 夕日が長い影を伸ばしていた。


「東方樹海まで十日ほどか」


 ローヴァンが呟く。


 タクミが目を丸くする。


「そんな遠いのか?」


「ああ」


「人が住む場所じゃない」


「だから未踏破だ」


 誰も口を開かなかった。


 王都から十日。


 それだけで十分遠い。


 その先は誰も知らない世界。


 考えただけで、リサは少しだけ身震いした。


 やがて日が暮れる。


 ローヴァンは立ち止まった。


「ここだ」


 辺りには小川が流れ、風を遮る大木が並んでいる。


「今日はここで休む」


 そう言うと、背中の荷物を降ろした。


 革袋から布を取り出す。


 手際よく広げる。


 四本の支柱を立てる。


 蔓で固定する。


 あっという間に一張りのテントが完成した。


 タクミが目を丸くする。


「早ぇな」


 ローヴァンは答えない。


 焚き火の場所を決め、石を並べ始める。


 リサが辺りを見回した。


「私たちは?」


 ローヴァンは顔も上げない。


「テントは」


 四人は顔を見合わせた。


「……ねぇ」


「ない」


「買ってない」


「そのまま来た」


 ローヴァンの手が止まる。


「そうか」


 短く答え、また薪を積み始める。


 タクミが首をかしげる。


「そうか、じゃねぇだろ」


「どうすんだよ」


「寝る」


「どこで?」


「地面だ」


「いやいや!」


 リサが思わず叫ぶ。


「普通は入れてくれる流れでしょ!」


 ローヴァンはようやく顔を上げた。


 四人を見る。


 テントを見る。


「……狭い」


「広げろよ!」


 タクミが即座に突っ込む。


「でかいだろ!」


「五人入れる!」


「四人増えた」


「予定外だ」


「そりゃ勝手について来たけどよ!」


 キャサリンが苦笑した。


「確かに」


 ステファンだけは腕を組み、真面目に頷く。


「彼は間違っていない」


「いや、味方しないで!」


 リサが頭を抱えた。


 ローヴァンは小さく息を吐く。


「……仕方ない」


 荷物からもう一枚布を取り出す。


 蔓を切る。


 杭を打つ。


 十分ほどで、もう一張りの簡易テントが出来上がった。


「使え」


 タクミが笑った。


「最初からそうしろよ」


「四人いるとは思わん」


 焚き火に火が入る。


 パチパチと薪が鳴る。


 ローヴァンは干し肉を串へ刺した。


「自己紹介だ」


 珍しく、自分から話を切り出した。


「役割を知らんと死ぬ」


 四人の表情が少しだけ真面目になる。


 ローヴァンはタクミを見る。


「お前」


「タクミ。二十五歳」


「大剣だ」


「前で殴る」


「それだけか」


「大体な」


「魔物の足止めもできる」


「根性はある」


「あと喧嘩は強かった」


「役割はないな」


 タクミが固まる。


「は?」


「荷物持ちだ」


「おい!」


「俺、大剣だぞ!」


「大剣なら俺も振れる」


「いや、そういう話じゃねぇ!」


 リサが吹き出した。


 ローヴァンは次を見る。


「お前」


「リサです」


「二十三歳」


「弓が得意」


「獲物も探せます」


「合格」


「えっ」


「飯係だ」


 リサは少し嬉しそうに笑った。


 キャサリンが手を挙げる。


「キャサリン」


「二十四歳」


「前の世界では医療の仕事をしてた」


 ローヴァンの目が止まる。


「怪我は診られるか」


「ある程度なら」


「使える」


「武器は」


「短剣」


「近いな」


「そうだね」


「昔から鼻が利く。犬ってよく言われた。目もいい。危ない場所も、なんとなく分かる」


「勘か?」


「まあ」


「勘は信用せん」


「結構当たる」


「却下」


「え?」


「医療と鼻と目は使う」


「勘は信用せん」


 キャサリンは肩を落とした。


「そこだけ厳しい……」


 最後にステファンを見る。


「お前」


「ステファン」


「三十二歳」


「盾だ」


「あと前の世界ではプロレスラーだった」


「何だそれは」


 タクミが笑う。


「戦って金を稼ぐ仕事」


 ローヴァンは頷く。


「傭兵か」


「いや、違う」


 キャサリンが苦笑する。


「試合を見せて、お客さんを楽しませる仕事」


 ローヴァンは少し考えた。


「なるほど」


「偽物か」


 ステファンの眉が跳ね上がる。


「おい」


「プロレスは」


「命懸けだ」


「そうか」


「信じてねぇだろ!」


 リサが笑う。


「でもステファンらしい」


 焚き火を囲み、少し空気が和らぐ。


 ローヴァンは最後に尋ねた。


「地球とは何だ」


 タクミが頭をかく。


「だから、それが難しいんだよ」


「俺たちは別の世界から来た」


「五年前」


「俺たちは空を飛ぶでっかい鉄の船に乗ってた」


「飛行機っていうんだけどな」


「それが丸ごと、この世界に落ちた」


 ローヴァンが眉を動かす。


「丸ごとか」


「ああ」


「俺たちだけじゃない」


「信じるか?」


「信じる」


 四人が同時に顔を上げた。


「早っ!」


「何でだ?」


「お前らが嘘をつく理由がない」


「それに」


 ローヴァンは焚き火を見つめる。


「世界が一つとは限らん」


 キャサリンが少し笑う。


「そう」


「この世界とは違う世界」


「私たちは、そこから来た」


 ローヴァンは頷いた。


「面白い」


 タクミが苦笑する。


「それだけかよ」


「ああ」


「もっと驚けよ」


「世界は広い方がいい」


 タクミは肩をすくめる。


「……大概だな」


 ローヴァンは干し肉を一口かじった。


「異世界人か」


「いや、あんたもな」


 焚き火を囲んで、笑いが広がる。


 こうして東方樹海への旅、一日目の夜が静かに更けていった。

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