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最強未踏破―人類最強のおっさんは、まだ何も知らない―  作者: レイヴ
第一章 未踏領域

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第六話 異世界人

 王都の門を出ると、夕暮れの風が静かに頬を撫でた。


 薬師ギルドの馬車が待っている。


 ガルスは担架へ移され、重傷だった騎士も慎重に運ばれていく。


 慌ただしく人が動く中、リーナだけが立ち止まっていた。


 ローヴァンを見る。


 何か言いたそうだった。


「冒険者さん」


 ローヴァンは足を止めた。


「兄は……助かるそうです」


「ああ」


「団長も、命に別状はないと」


「ああ」


 短い返事だった。


 それでもリーナは嬉しそうに笑う。


「全部……」


「全部、ローヴァンさんのおかげです」


 ローヴァンは首を横へ振る。


「薬を使っただけだ」


「違います」


 リーナは力強く言った。


「あなたが、あそこで諦めなかったから」


「傷を治す水まで持ち帰ってくださって……」


「兄も団長も助かりました」


「本当に……ありがとうございました」


 そう言って深く頭を下げる。


 ローヴァンは少し困ったように頭を掻いた。


「礼はいらん」


「いります」


 リーナは笑った。


「絶対に」


 少しだけ沈黙が流れる。


 馬車へ乗り込む声が聞こえた。


「リーナ!」


 薬師が呼ぶ。


「はい!」


 返事をする。


 だが、すぐには歩かなかった。


 もう一度だけローヴァンを見る。


「あの……」


「また会えますか?」


 ローヴァンは少し考えた。


「怪我をすればな」


 リーナは頬を膨らませた。


「怪我はしないで」


「そうだな」


 ローヴァンは珍しく小さく笑う。


「珍しい薬草を見つけたら届けよう」


 リーナの表情が一気に明るくなる。


「本当ですか!」


「ああ」


「約束です!」


「覚えていたらな」


「忘れません!」


 リーナは嬉しそうに笑うと、小さく頭を下げた。


「それでは」


「また」


「ああ」


 馬車がゆっくりと走り出す。


 リーナは窓から何度も手を振っていた。


 姿が見えなくなるまで。


 ローヴァンも一度だけ手を上げる。


 やがて馬車は夕暮れの街へ消えていった。


 ローヴァンは踵を返す。


 向かう先は一つ。


 冒険者ギルドだった。


 ギィ……


 木の扉を開く。


 一階の酒場は、まだ赤紙達成の話で持ち切りだった。


「また一人でやったらしいぞ」


「第三騎士団を救ったってよ」


「化け物まで持ち帰ったんだろ?」


 ローヴァンは気にも留めない。


 階段を上る。


 二階。


 C級以上の依頼所。


 いつもは静かな場所だった。


 今日は違う。


 人だかりができていた。


 野次馬が輪を作っている。


 ローヴァンが近付くと、誰かが小さく呟いた。


「ギヤンが負けたらしい」


「相手は」


「……地球人だ」


「地球?」


「本人がそう言ってる。別の世界から来たらしい」


「どうやって」


「空から落ちてきたって話だ」


「バカか」


「知らねぇよ。俺も聞いただけだ」


 輪の中央。


 B級冒険者ギヤンが壁にもたれて座っていた。


 頬は腫れ、唇は切れ、木刀は真っ二つに折れている。


 ローヴァンが立ち止まる。


「ギヤン」


 ギヤンは苦笑した。


「……すまねぇ」


「見ての通りだ」


 ローヴァンは短く頷く。


「負けたか」


「ああ」


「面目ねぇ」


 その時だった。


「……あんたか」


 聞き慣れない声が響く。


 輪の中央。


 一人の若い男が仁王立ちしていた。


 二十五歳ほど。


 黒髪。


 鋭い目。


 首には木札。


 木刀を肩へ担いだまま、真っ直ぐローヴァンを見つめている。


 二人の視線が交わる。


 数秒。


 誰も動かなかった。


 若い男が笑う。


「やっと見つけた」


「こいつじゃ足りなかった」


 ギヤンは肩をすくめた。


「間違いねぇ」


 若い男はローヴァンから目を離さない。


「A級か?」


 ローヴァンは首を横へ振る。


「B級だ」


 周囲から笑いが漏れた。


「本当だ!」


「八回断っただけだ!」


 若い男は笑わない。


「嘘だな」


「ここにいる奴らと空気が違う」


「事実だ」


「……」


 後ろから少女が慌てて腕を掴む。


「タクミ!」


「もうやめようよ!」


 短い黒髪の女だった。


 弓を背負っている。


 その隣には、短剣を二本腰へ差した女。


 白い上着だけが、冒険者には妙に似合っていなかった。


 さらに、大盾を背負った大男。


 三人とも困ったような顔をしていた。


 ローヴァンは答えず、受付へ向かう。


「未踏破調査依頼はあるか」


 受付嬢が一枚の依頼書を差し出した。


「あります」


「東方樹海の未踏破調査です」


「最後に帰還した調査隊は三年前。奥へ入った者は誰も戻っていません」


「なので複数人推奨です。一人では危険かと……」


 ローヴァンは依頼書へ目を通す。


 一枚だけ抜き取る。


 そして振り返った。


「おい」


 タクミが笑う。


「何だ」


「暇か」


「……は?」


「荷物持ちが欲しい」


 一瞬、静まり返る。


 次の瞬間。


 酒場が吹き出した。


「ははは!」


「荷物持ちだってよ!」


 タクミの額へ青筋が浮かぶ。


「ふざけんな!」


「俺は荷物持ちじゃねぇ!」


「なら来るな」


 ローヴァンは依頼書を腰へ差した。


「置いていく」


 そのまま歩き出す。


 階段の手前で、ローヴァンが足を止めた。


「飛べるのか」


「飛べねぇよ」


「そうか」


 ローヴァンは興味を失ったように階段を降りた。


 タクミはその背中を見つめる。


 口元がゆっくりと緩んだ。


「……やっと見つけた」


「こういう奴を探してた」


 そう呟くと、木刀を肩へ担ぐ。


「行くぞ」


 リサが頭を抱える。


「えぇっ!?」


 キャサリンは深いため息をつく。


「面倒……」


 ステファンは嬉しそうに大盾を担ぎ直した。


「悪くない」


 四人はローヴァンの背中を追いかける。


 この日。


 ローヴァンは、


 荷物持ちが一人増えたと思っていた。


 ただ、

 ――それだけだった。

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