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第4話 生後3ヶ月、運命の「寝返り」

この度は数ある作品の中からこの作品を選んでいただきありがとうございます。

ピピによる地獄の(外見は天使の)インナーマッスルトレーニングを開始してから、早くも2ヶ月が経過した。

毎日欠かさず『ドローイン』と『手足の曲げ伸ばし(等尺性運動)』を続けた結果、私のステータスは着実に成長を遂げていた。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

・体力(HP): 4 → 12

・筋力: 0.11 → 0.5

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



体力はついに二桁に突入!

相変わらずスプーン一杯(重量1)すら持ち上げられない軟弱ボディではあるけれど、それでも以前のように「呼吸するだけで命がけ」という絶望的な感覚は薄れてきていた。

そんなある日。私が仰向けのまま天井を見つめていると、空中で腕組みをしたピピがニヤリと不敵に笑った。


「よし、フラン。基礎体幹は最低限ついた。今日はいよいよ大技に挑むぞ」


「あう?(大技……?)」


「フン、決まっているだろ。『寝返り』だ!」


(ね、寝返りーーー!?)

一般的に、赤ちゃんが自力で寝返りをうてるようになるのは生後5〜6ヶ月頃だと言われている。まだ生後3ヶ月で、しかも超・病弱体質の私には早すぎる挑戦のように思えた。


「おいおい、怯まないで? 首すわりと体幹の連動、そして腰のねじり……! 赤ちゃんにとって寝返りは全身の筋肉をフル動員する至高の全身運動フルボディワークアウトなんだよ!」


「あぅ……(そんな筋トレみたいな言い方されても……!)」


でも、確かにいつまでも天井ばかり見ている生活には飽き飽きしていた。

自分の力でくるりと体をひっくり返せれば、視界が一気に広がるのだ。

(やってやるわ……! お兄様依存脱却の、第一歩よ!!)


「うん、いい顔だよ! まずは視線を横に送って! 首を支えつつ、右足の踏み込みで腰をひねって! 行けぇぇ!!」


(ぬおおおおお!! 行っけぇぇぇぇ!!)

私は脳内で大絶叫しながら、全神経を右腰と首に集中させた。

ぐぬぬぬぬ……! と、生まれたての体に全身の全血流を巡らせる。首を浮かせ、腰をひねり、視線を横へ移動させる――!

(重い……! 自分の身体が、まるで巨大な鉛の塊みたいに重い……!!)

腹筋と背筋が同時に悲鳴をあげる。脳内(アラサー女子)では白目を剥いて倒れそうなほど過酷な筋肉痛の予感が駆け巡っていた。

まさにその時――部屋の扉がガチャリと開いた。


「ルミィ、おやつの時間ですよ……って、なっ、ルミィ!?」


部屋に入ってきたお兄様レオが、銀の皿を落としそうになりながら目を見開いた。

ベッドの上で、妹の体が小さく震えながら横に傾こうとしているのを目撃したからだ。

お兄様の顔から一気に血の気が引いていく。


「く、苦しいのかいルミィ!? 呼吸が上手くできずに身もだえしているのか!? すぐに、すぐに最高峰の回復術師を呼び――」


慌てて駆け寄ろうとするお兄様。

だが、その瞬間――アミリア様のチート加護『流麗なる白鳥』が、超絶怒涛の勢いで強制発動した!

(あ、あかん、限界……! ひっくり返るーーー!!)

限界を迎えた私の体が、くるりと反動をつけてシーツの上を転がった。

ドスッという泥臭い転倒……になるはずだった。

しかし、加護の力によって、その一連の動作はお兄様の目に『まるで月明かりの下で舞踏会のドレスをふわりとひるがえす、神秘的で優雅な一幕』として映し出されたのである。

さらには私の「ぶはっ(限界の吐息)」という漏れ声すら、『声帯の美調』によって

「ふぁ……♪」

という天使の可憐なため息へと変換された。

奇跡的に、私は自力で「うつ伏せ」の姿勢になることに成功したのだ!


「……え?」


駆け寄ろうとした体勢のまま、お兄様が固まった。


「ふにゃ……♪(やった……できた……!)」


生まれて初めて、自分の力でうつ伏せになり、上がった首から世界を見渡す。

いつも見上げていた天井ではなく、お兄様の顔や、お部屋の綺麗な家具が目の前に広がっていた。視界が変わる感動に、私は思わず目を輝かせる。

それを見たお兄様は、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。


「な……なんて美しく、優雅な寝返りなんだ……! 生後3ヶ月で、こんなにも可憐に身をひるがえすなんて……! 天使……我が妹は、天性の舞踏の天才だったのか……!!」


ドサリと床に膝をつき、胸を押さえて尊さにのたうち回るお兄様。

その横で、ピピが私の顔を覗き込んでニヤリと笑った。

「よくやったねフラン。視界が変わったでしょ?」


「あう……!(うん……!)」


「よし、次は自力でハイハイするための背筋と腕立て伏せ(プッシュアップ)の特訓だよ!」


(えっ、もう次行くの!?)







感動に浸る間もなく、スパルタコーチ・ピピの指導は続くのだった。

ご視聴いただきありがとうございました。本作の原作にあたる作品も、ぜひあわせてお読みいただけますと幸いです。

https://ncode.syosetu.com/n8541ml/

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