第10話 歩行トレーニングは、命がけのスクワット
この度は数ある作品の中からこの作品を選んでいただきありがとうございます。
1歳を過ぎた私の日常は、表向きには「過保護な家族に蝶よ花よと愛でられる日々」、裏では「ピピによる容赦なきマッスル特訓」という二重生活が続いていた。
「いいかい、フラン。二足歩行というのはね、片足立ちの連続なんだよ。つまり、一歩踏み出すごとに『単脚スクワット』を行っているのと同じなんだ!」
「あぅ……(スケールが筋肉すぎる……!)」
自室のフカフカな高級絨毯の上で、私はピピの熱血指導のもと、一歩一歩を踏みしめていた。
現在の私の筋力は『5.5』。1歳の幼児としては十分すぎる数値だけれど、ピピの目指す「将来の絶望的な運命(=病弱死)を粉砕する肉体」にはまだまだ遠いらしい。
「ほら、軸足の臀筋(お尻の筋肉)に意識を集中させて! ブレない体幹! 完璧なフォーム!」
(ぬぐぐぐ……! 足が……足の筋肉がプルプルするー!!)
脳内でアラサー女子の私が絶叫しながら必死に脚を鍛えていると、部屋の扉が静かに開いた。
「ルミィ、お部屋に入りますよ……って、な、なんてことだ……!!」
手におやつ(※超高級な消化に良い離乳風ムース)を持ったお兄様が、驚愕のあまり銀の皿を落としかけていた。
目の前で、生まれたばかりのように儚げなはずの妹が、プルプルと可憐に震えながら、まるで『天に祈りを捧げるかのように、一歩、また一歩と神聖な歩み』を進めているからだ。
もちろん、美の女神アミリア様のチート加護『流麗なる白鳥』がフル稼働している。
私の中では「限界ギリギリの自重スクワット歩行」なのだが、お兄様の目には「降り積もる雪の上を歩む舞闘会の妖精」にしか見えていない。
さらに、必死すぎて漏れ出た
「はぁ……はぁ……(限界)」
という息遣いが、『声帯の美調』によって
「ふふ……♪」と
いう天使の愛らしいハミングに変換される。
「ああ……っ! ルミィが、自分の足で僕の元へ歩み寄ってきてくれている……! なんという愛しさ、なんという尊さ……!」
お兄様は胸を押さえてその場にひざまずき、涙を流しながら両手を広げた。
「おいで、ルミィ! 僕の胸に飛び込んでおいで!」
(あ、お兄様! ちょうどいいところにストッパーが! 限界だから受け止めてー!)
私はお兄様の胸めがけて、最後の一歩を「たしっ!」と踏み出して倒れ込んだ。
「ぐはっ……!(尊さの限界突破)」
お兄様は私をしっかりと抱きしめると、あまりの幸せにそのまま絨毯の上で昇天しかけていた。
◇
お兄様が感動の余韻に浸っている隙に、私の肩のあたりで姿を消しているピピが、そっと脳内念話で話しかけてきた。
「(ふふっ、よく頑張ったねフラン。今日のフォーム、すごく綺麗だったよ)」
「(ピピ……! ありがとう。ピピが細かくフォームを教えてくれるから、少しずつだけど自分の体が変わっていくのが分かるよ)」
「(当たり前だよ。僕は君の契約精霊だからね。君がどんなに弱くても、君が強くなりたいと願うなら、僕はどこまでも君の味方でいるよ)」
ピピのその言葉は、口先だけの甘い言葉ではない。
前世で「重い」と切り捨てられた私に、本当の強さと、歩むための力を惜しみなく与えてくれる。
(やっぱり、ピピは最高で最強の相棒だな……)
お兄様の腕の中で、私は姿の見えないピピに向かって、心の中でそっと微笑みかけた。
「(さあフラン、休憩は終わりだよ! 次は抱っこされた状態からの『空気椅子特訓』にいってみようか!)」
「(えっ、お兄様に抱っこされながら筋トレするの!? スパルタすぎるでしょーーー!?)」
愛されすぎる1歳児の極秘マッスル生活は、今日も賑やかに続いていくのだった。
ご視聴いただきありがとうございました。本作の原作にあたる作品も、ぜひあわせてお読みいただけますと幸いです。
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