第9話 ファーストバースデーと、加速する勘違い2
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「聖女……! 我が妹は、国を救う慈愛の聖女としてお生まれになられたのだ……!!」
お兄様が紫色の瞳をウルウルと輝かせ、胸の前で深く手を組んで天を仰いでいる。その隣では、普段は冷徹な宰相であるお父様が
「ああ、ルミィ……! なんという気高き魂……!」
と鼻をすする音が響いていた。
(だから違うんだってばーーー!! ただの『魔力の重り』が重すぎて必死に抱え込んでただけなんだってばーーー!!)
心の中でいくら叫んでも、私(1歳)の口から出るのは
「ふにゃ〜〜……♪」
という天使の可憐な声だけだ。美の女神アミリア様のチート加護『声帯の美調』が、私の必死の否定すらも可憐な同意の声へと変換してしまう。
さらに、おじ様が感動のあまりドンッと大音量で床を叩いた。
「よし! 決まりだ! ルミィの1歳のお誕生日を祝して、今日から我が国では『聖女降臨の祝日』を設ける! さらに王宮の宝物庫から、最高級の回復魔法の魔術書と、聖なる加護を宿した特製の杖を贈ろう!」
「ちょっと待ってください陛下! ルミィにそのような物騒な魔導具を近づけないでください! ルミィに必要なのは、僕が厳選した世界一柔らかいシルクのベビーベッドと特製ミルクです!」
「レオ、お前は甘い! ルミィのその溢れんばかりの聖なる才能を伸ばすことこそ、父親としての責務だ! 私は今すぐ、国中で一番の治癒術士を家庭教師として雇うぞ!」
「お待ちになってあなた、ルミィはまだ1歳になったばかりですのよ? まずはお友達と遊ぶのが先決ですわ」
(大人たちの議論が、明当違いな方向へ猛スピードで加速していくーーー!?)
お父様、お兄様、お母様、そしておじ様。
国のトップたちが、私の1歳の誕生日プレゼント(と今後の育成方針)を巡って、またしても大人のプライドをかけた激しい不毛なバトルを繰り広げ始めたのだった。
「(ふふっ、フラン。君の家族の勘違い、いよいよ止まらなくなってきたね)」
私の肩の上で姿を消しているピピが、楽しそうにクスクスと笑う。
「(笑い事じゃないよピピ……! 私、治癒魔法なんて1ミリも使えないのに、これで家庭教師とか来ちゃったらどうするの……!?)」
「(大丈夫だよ。魔法がダメなら、『物理』で治せばいいんだからね)」
「(物理で治すって何!? 整体!? 整体なの!?)」
脳内でピピとそんなツッコミ合戦を繰り広げていると、ピピが私の顔をじっと覗き込んできた。
「(そんなことよりフラン。1歳になったんだから、ステータスを確認してみなよ。記念すべき『ファーストバースデー』の成果が出てるはずだよ)」
「(あ、そっか……!)」
私は大人たちの喧騒を横目に、こっそりと心の中で念じた。
『――ステータス、オープン!』
ピコーン!
視界に広がったのは、自分でも驚くほどの成長を遂げたステータス画面だった。
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【ステータス】
名前: フランシスカ・シャルロット・ルミナス・ド・アイゼンベルク
年齢: 1歳(ファーストバースデー!)
種族: 人間(転生者)
体力(HP): 80 / 100 (※ほぼ常人レベル! 自力で立って歩ける!)
魔力(MP): 999,999 / 999,999
筋力: 5.5 (※重り入りぬいぐるみ[重量5]を自重で抱えられる!)
持久力: 72.0 (※生存可能時間:お兄様なしで約3日!)
【称号】
・過保護な家族の天使(※世界一愛されている1歳児)
・未来の聖女(※盛大な大勘違いにより国中に拡散中)
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(すごい……! 筋力が5.5まで上がってる……! HPも『80』だし、お兄様がいなくても3日は生きられるようになったわ……!!)
生後1ヶ月の『HP:3』『筋力:0.1』で「呼吸するだけで命がけ」だった頃を思えば、涙が出そうなほどの進化だ。スプーン一杯(重量1)すら持てなかった私が、今や重量5の重りを抱えて立てるようになっているのだから。
「(よし! 1歳になった記念に、今日からは『自重スクワット』と『ハイハイでのダッシュ特訓』をメニューに追加するからね!)」
「(えっ、まだ追い込むの!? 1歳の誕生日くらい休ませてーーー!?)」
ピピのスパルタ指導は、1歳になっても容赦なく続くようだった。
「ルミィ……? どうしたのですか、そんなに熱い眼差しで僕たちを見つめて……」
ふと気づくと、喧嘩をやめたお兄様が、私の顔を愛おしそうに覗き込んでいた。
私はぎゅっと抱きしめた重り入りぬいぐるみを両手で持ち直し、筋力5.5の全身全霊を込めて、自力で絨毯の上に『たっち』してみせた。
トスッ、と小さな足でしっかりと大地を踏みしめる。
「「「「なっ……!?!?(絶句)」」」」
大人たちの動きが、完全に止まった。
「ル、ルミィが……1歳になったその日に、自分の足で……立った……!?」
お父様が震える声で呟く。
「ああ……! なんという気高きお姿……! 己の足で立ち上がり、世界をその目に焼き付けようとされている……!」
お兄様が胸を押さえて床にひざまずいた。
「ふにゃあ……♪(立ったよー! 筋トレの成果だよー!)」
私が得意げにほっぺを膨らませると、大人たちは本日何度目かわからない「尊さの致死量」によって、見事なシンクロで床へと倒れ伏すのだった。
(ふふ……みんなの勘違いは相変わらずだけど。私、もっともっと強くなって、みんなと一緒に元気で長生きするからね!)
1歳の誕生日。
豪華なプレゼントと、家族の溢れんばかりの愛(と勘違い)、そしてピピの新たなスパルタメニューに囲まれて、私のマッスル令嬢への道は、さらに加速していくのだった――!
ご視聴いただきありがとうございました。本作の原作にあたる作品も、ぜひあわせてお読みいただけますと幸いです。
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