繋がる
「あれ、エミリーもう帰ってきたの?」
ギルドに戻ってきた俺とエミリーを見てサリーが不思議そうに告げる。
「うん、スライムの不可解な行動の理由が分かったの」
「ほんと!?」
エミリーは静かに頷く。エミリーはゆっくりと口を開き、事件の真相を語りだす。
「スライムの不可解な行動は決して男の子を殺そうとしていたんじゃないの」
「え?でも、スライムは頭に覆いかぶさって窒息死させてたみたいだし何か怒ったとかじゃないの?」
「違うの。スライムはただ、男の子の汚れを取っていただけだったの」
「汚れ……そうか、毛づくろいを仲間にしてただけということか」
エミリーはゆっくりと頷く。
確かに、それなら納得がいく。あくまで仲間と認定した男の子の汚れを綺麗にしてあげたかっただけだった。しかし、それが不運にも男の子を殺した。
「え?どういうこと?」
一人サリーが困惑していた。それを見かねてエミリーは海で俺に話してくれたことをサリーに丁寧に話した。
「……なるほどね」
それを聞いてサリーは複雑そうな顔をしていた。しかし、俺も同じだった。ただのスライムたちの優しさが男の子を殺した。そんな話を聞けばそういう顔にもなる。
「でも、なんで他の生物にはやらないのに人間だけやったの?」
確かにそれは俺も疑問だった。
もし、ほかの生き物にもやっているなら広く知られていても不思議じゃないがそんな話は聞いたことがない。つまり他の生き物にはやっていないということなのだろう。では、なぜ人間だけなのか?謎は残る。
エミリーは少し考え込むようにうつむきじっとしていた。
「分からないのか?」
俺の問いにエミリーは少し迷い気味にゆっくりと答える。
「……正直、それだけは分かりません。スライムが他の生物に毛づくろいをする姿は確かに今まで確認されていませんから」
「そうか……」
彼女でも分からないことはある。しかし、今回の事件は色々妙だ。そもそも、魔物をペットにするなんていったい誰が考えたんだ?
「サリー、なんで子供たちは急にスライムをペットにし始めたんだろうな?」
「え?さ、さあ。分かりません」
俺の言葉にサリーは顔を背けて挙動不審になる。
その様子からするに彼女は俺が知らないことを何か知っている。
「いったい何を隠してる?」
俺はサリーとの距離を詰めて問い詰める。
「い、いえ。何も隠してませんよ?」
「嘘だな」
徐々に距離は近づきサリーは壁まで後退した。そうして壁際に追いつめられたサリーにさらにいっそう近づき俺は壁に手を当てて再度問う。
「言え」
「……」
サリーはうつむきもう限界だと口を開きそうになった瞬間俺の肩が後ろから掴まれる。俺はとっさに振り返るとそこには上半身裸のムキムキの禿げたおっさんが立っていた。
「な、なんだあんた?」
俺はそのあまりの巨体に少し戸惑いながらおっさんに聞く。
「俺か?俺はこのギルドの……」
「ギルドマスター!!」
サリーは大きな声を上げる。
「は?この上半身裸の変態がギルドマスター?冗談だよな?」
「残念ながら本当です……」
「まじかよ……」
サリーは気まずそうに顔を背けて、俺はあまりの事実にうつむく。
「おいおい、二人ともどうした?俺の美しい筋肉に魅了されたか?」
おっさんは俺たちに見せつけるように様々なポーズをとっていた。それがより一層頭を痛くさせた。
「サリーも大変なんだな……」
「はい……本当に……」
俺はサリーに同情しか沸かなかった。俺も上司には恵まれていないが、サリー以上ではないのは確かだ。
「はあ……で、なんでギルドマスターがここにいるんですか?」
サリーは盛大にため息を吐きながらおっさんに問いかける。
「うむ、それは君たちの会話が偶然聞こえたのでここは私の出番かと思ってな」
「……どういう意味だ?」
先ほどの会話的にはギルドは何か俺が知らない情報を持っているということがはっきりした。その会話にギルドマスターが必要だということはそれほど、その秘密は重要な秘密なのか?
「ふむ。君はなかなか頭が回るようだな?」
俺の表情を見てギルドマスターが感心するように頷く。まるでこちらの考えを読んでいるようだ。
「君が知りたいことを教えるのは構わない。だが、ここでは人が多すぎる。場所を変えよう。サリー君は仕事に戻って構わない。エミリー君と守衛君は私についてきたまえ」
「分かりました」
サリーは仕事に戻っていき俺たち二人はギルドマスターについて行く。ギルドマスターは二階に上がっていき大きな部屋に案内する。部屋の前にはギルドマスター室と書かれていた。
「さあ、ここなら人は来ない」
ギルドマスターは椅子に腰を下ろして俺たちにも座るように手で促す。椅子に座りその肌に優しく張り付く柔らかさに驚いているとギルドマスターが俺たちに問いかける。
「君たちは今回の事件は偶然だと思うかい?」
「それは……」
エミリーは少し戸惑いながらうつむき、静かに告げる。
「いえ……人為的な可能性は十分あります」
「それはどういうことだ?」
エミリーは険しい表情で俺に向かって口を開く。
「守衛さん言いましたよね。なんで子供たちが急にスライムをペットにしたんだって」
「あ、ああ」
「もしですが、これが誰かに唆されて子供たちがスライムをペットにしたんだとしたらどうでしょうか」
「……そういうことか……」
ギルドが隠していた事。
それはこの事件に人の手が加わっているということ。つまり、スライムは利用された。その生態を知っている人間に。
この事実は余計な混乱やいらぬ噂をになりかねない。ギルドが秘密にしたかったのも納得だ。
だが、なんでそんな情報を俺たちに教える?ギルドからすれば教えるメリットはなかったはずだ。
「なんで、俺たちに教えたんだ?」
俺はギルドマスターに視線を向けて慎重に聞く。
「それは、君たちが関係者だからだよ」
「どういう意味だ?」
俺たちに何の関係があるっていうんだ?
「君たちが先日捕まえた冒険者少年の取り調べであることが分かった。それは彼に遺体の処理に魔物を利用するように勧めたやつがいたということだ」
「……やはりですか……」
エミリーは静かに呟く。その声は妙に冷たく感じた。
どうも彼女はこれを予測していたようだった。
「……おかしいと思ったんです。彼は私を攫ったときはオオカミの巣を使ってました。ですが、はじめはゴブリンの巣穴でした。一見何も不思議な点はありませんが、一点だけ分からない点がありました」
「どこが変なんだ?」
「守衛さん、ゴブリンが人を食べないと言いましたよね?ならなぜ、彼はゴブリンの巣穴に捨てたのでしょうか?」
「それは、犯人にゴブリンの知識がなかったからじゃないか?」
犯人はゴブリンについての知識がなかった。それ故に遺体が見つかった。もしこれがオオカミの巣なら遺体は食べられ身元は不明だっただろう。
「はい、その通りです。そしてそこが不思議なのです。犯人はゴブリンに対する知識はなかったなのにあえてゴブリンを選んだ。オオカミの巣なら確実だったにもかかわらずにです」
「つまり、そこに人為的なものを感じたというわけか?」
エミリーは強く頷く。
「もしかすると、その人物はあえて遺体を発見させるためゴブリンを利用するように仕向けたのかもしれませんね……」
「それは……」
「はい……今回の事件で子供を唆した人物は魔物の知識があった可能性が高いです。そして、ゴブリンの件の人物も知識があった可能性がある。つまり、同一人物の可能性があるということになります」
二つの魔物の事件その裏にいる謎の人物。エミリーと同じく魔物の知識に詳しくそれを利用する者。謎は深まるばかりだ。
「どうなっているんだ……」
手を組んでうつむくと外から甲高い鳥の鳴き声が聞こえてくる。まるで何かが始まる合図のように鳥たちは騒がしく鳴き続けていた。
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