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あなたの知ってる魔物の知識、間違ってませんか?   作者: 水海雫
第二章 人間と魔物の境界線

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生き方

「はい、スライムは仲間を新たに増やすために綺麗にしているのです」


「仲間を増やすためって言うのはスライムが子供を産むってことか?」


「いえ、スライムは分裂して自分の分身を生み出します。しかし、そのためには綺麗な水がいるんです」


綺麗な水?

そういえば、スライムの目撃情報がある場所には必ず水があったな。つまりスライムは仲間を増やすために自ら掃除して綺麗な水を作り増やしていた。そういうことか…


「だが、それなら海じゃなくてもいいんじゃないのか?」


「そうですね。ですが、一番スライムが集まるのは海なのです」


エミリーは波際に近づき海水を手ですくう。そうして俺のもとに戻ってきて手の中の海水を見せる。


「これを見てください。小さなクラゲのように浮いているものが見えますか?」


「うん?あ、ああ」


エミリーの手の中の海水には無数の透明なクラゲのような小さなものが浮いていた。しかしクラゲと違って球体状で触手のようなものはなかった。


「これは、スライムの分裂したての状態。人間で言うと赤ちゃんのようなものです」


「こ、これすべてがか?」


「はい、彼らは一回の分裂で多くの分身を作ります。なので広くて水が多い場所で、定期的に汚れて餌に困らない海に多く集まるのです」


だから海か。

確かに海ならいくら掃除しても定期的に汚れて餌には困らないうえ、たくさんの分身を生み出しても広いから問題もないということか。


「だが、それなら今までなんで気づかなかったんだ?」


そこまで多くの分身がいるなら誰かが気づきそうなものだが、どういうことなんだ?


「それは、彼らが他の生き物を避けているからです」


「避けている?なんでだ?」


エミリーは座り込みスライムを海に戻して立ち上がり、そのまま遠くを眺めて言う。


「彼らは臆病なのです。弱者の自覚があり他の魔物のテリトリーになるべく入らないように生きている彼らは常に怯えています。なので、なるべく他の生物がいない海を選んで分裂を行うのです」


そう言って彼女は俺に困ったように笑いかける。お世辞にも綺麗な笑顔ではなかった。臆病で弱者か…


「なんだか、私みたいですよね……」


遠くを眺める彼女は今にも海に溶けてしまいそうでどこか危なげに見えた。しかし、こういう時に気の利く言葉を言えるほど俺は器用ではない。それでも、何とか口から何を絞り出そうと懸命に口を開く。


「俺は……逃げるのも隠れるのも悪いとは思わない」


「そうでしょうか……」


「ああ……それにお前は一人じゃない。苦手なことがあるなら誰かに助けてもらえ。それも生き方の一つだ」


「それも生き方……」


彼女はうつむきぽつりと呟く。


「そうだ。だから胸張って生きろ。お前はすごい奴だ」


俺の言葉にエミリーはうつむいたまんま黙っている。顔が見えなくて表情は見えないが震えている肩が視界に入る。


「もし……私が助けを求めたら守衛さんはまた助けてくれますか?」


「ああ……絶対に助ける」


エミリーは俺の言葉を聞き余計に肩を震わせてその場に座り込む。そうしてしばらく静かな二人だけの海に小さな嗚咽が漏れていた。


_____________________


「すみません……話がそれてしまって」


二人で海岸沿いを歩きながらエミリーが申し訳なさそうに言う。


「気にすんな。弱音の一つぐらいなきゃ人間らしくなんてないからな」


俺はなるべく気にしてないぞと伝わるように軽口を言う。それを聞いてエミリーは少し笑って笑顔になる。


「ふふ、そうですね」


「ああ」


俺も軽く笑いそこでやっと少し安堵する。そしてエミリーは少しこちらをチラチラを見て慎重に口を開ける。


「……私、実は夢があるんです」


「夢?S級冒険者になるとかか?」


「い、いえ!私ではなれませんから!て、そうじゃなくてですね。その……魔物図鑑を作りたいんです」


「魔物図鑑?」


聞きなれない言葉に俺は少し反応が遅れる。動物図鑑ならともかく、魔物専門の図鑑なんて聞いたことない。


「はい!世の中ではまだ魔物の詳しい生態を知らない人が大半です。なのでなるべく多くの人にその実態を知ってもらえるようにしたいんです!」


彼女はいつもより強くそして早口で俺に顔を近づけながら言う。


「な、なんでそこまで知ってもらいたいんだ?」


俺は彼女を引き離しながら聞く。


「大半の人は魔物を害虫のようにしか思っていません……。しかし、彼らも同じ生き物で生きるために必死です。不可解に見える行動や生態にも意味があるんです。それらを知ればきっと共存も可能だと思うんです」


エミリーは目を閉じてまるで祈るように語る。ゴブリンとさえ仲良くできる彼女からすればそれは叶わぬ願いではないと知っている。だから願わずにはいられないということなのかもしれない。


「そうか……いい夢だな。殺しあわなくて済む未来なんてな」


「はい、そう思います」


殺し合いには合理性などない。ただ、上に言われるがまま見知らぬ相手を殺す。そうして、見知らぬ人の大切な人たちを殺して俺は……



「守衛さん?聞いてますか?」


「あ、ああ。すまん。ボーとしてた」


「もう」


エミリーは少し怒って仕方なさそうにもう一度説明してくれる。


「先ほども言いましたが、魔物も生き物なんです。だから不可解に見える行動にも何かの意味があると思うんです」


「まあ、そうだな」


「はい、ですから今回の事件のスライムも何か理由があって男の子の頭に覆いかぶさったのだと思うんです」


たしかに、そう考えなければ説明がつかないことが多い。それにエミリーの話を聞くに臆病でいつも怯えているスライムが突然人間に危害を加えるなんて考えにくい。


「うん?今気づいたんだが、臆病なスライムがどうして人間のペットに大人しくなってたんだ?逃げたりもせずに」


「それは、おそらくスライムが飼い主を仲間だと認識したからだと思います」


「そんなことあり得るのか?魔物だぞ?」


「彼らは臆病故に仲間間での絆が強いんです。だから長期間一緒に生活して危害を加えられなければ自然と仲間と認識して逃げなくても不思議ではありません。」


臆病故にか。確かにそう言われると納得するものがある。つまり男の子はスライムから仲間だと認識されてた可能性が高い。なのに、危害を加えられたというわけだ。余計に矛盾してきたな。


「はあ、余計に複雑になってきたな……」


そうしてため息を吐き視線を下に向けるとそこには小さなスライムがいた。しかし、不思議なことにそのスライムは二重に見えた。


「なんなんだこいつは?」


「これは珍しいですね」


エミリーはしゃがんでそのスライムを掌に乗せて喜んでいる。


「何が珍しいんだ?」


「これはですね、彼らなりの毛づくろいなのですよ」


「毛づくろい?」


「はい、これはスライムにスライムが覆いかぶさっているんです。そうして汚れを食べてくれているんです。だから仲間同士で……」


エミリーは急に黙ってスライムを凝視する。そして急に立ち上がり駆け出す。それについて行くように俺も駆けだす。


「お、おい!?どうした!?」


「分かったんです!!」


エミリーは振り返りもせずに前を向きながら言う。


「何がだ!?」


「スライムの不可解な行動の理由が分かったんです!」


エミリーは声を大きくしながらはっきりとこちらを振り返り告げる。


「スライムは決して男の子を殺す気なんてなかったんです!」


しかし、そう告げた彼女は決して嬉しそうではなかった。


(どういうことなんだ?)


彼女の不安な表情と空を覆う黒い雲は俺の胸の中から決して消えてはくれなかった。















読んでいただき、ありがとうございます。

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