スライム
「キース!!」
俺が心地よく真昼間からの酒を楽しんでいると宿舎の食堂に大きな声が響き渡る。髭ずらゴートさんである。
「ひっく、なんですか?」
俺は座ったまま顔をゴートのほうに向ける。
「お前はまた酒を飲んでるのか!」
ゴートはあまりの酒臭さに鼻をつまみながらこちらに近づいてくる。そうして俺の酒を奪う。
「なにするんですかー」
俺はべろべろの状態で抗議の意を示す。しかし、ゴートはそれにさらに怒り俺の頭に拳を振り下ろす。
「いた!?何するんですか!」
「何ではない!よくもこんな昼間から堂々と酒を飲めたな!」
どうもかなりお怒りのようだった。その怒りの拳の力で少し酔いが覚めてしまった。
「で、今日は何の用なんですか?」
俺はさっさと話しをすませて酒を飲みなおそうと頭をさすりながら本題を聞く。するとゴートにしては珍しくバツが悪い顔をしていた。
「お前、この間の任務で魔物に詳しい冒険者と協力していたそうだな?」
エミリーのことか。
しかし、この男からエミリーの話題が出るなんてどういうことだ?
「それがなにか?」
ゴートはさらにいいずらそうにしながら口を開く。
「……今回の任務はその冒険者に協力を頼め」
「は?」
この間までは沽券に関わるから冒険者などと協力はするなと文句を言っていたはずだが、どういう風の吹き回しだ。
「それはどういう…」
「ええい!とにかく言われたとおりにしろ!」
ゴートは俺の言葉を遮り強引に任務表を押し付けて食堂を去っていく。
「なんだ、あれは……」
俺は呆然としながら手元の任務表の内容を確認する。
秘密裏にスライムが子供によって街中に入れられペットとして飼われている。無害なはずのスライムによる被害が出ている。二度と起きないように防止策と事態の解明を早急にすること。
「スライム?」
確か最近、スライムによる子供への被害が増えていると聞いているが、相手はあの最弱のスライム。騒ぐようなことなのか?
しかし、あのゴートが冒険者を頼れと言っているのだ、何かわけがあるのだろう。
「とりあえず……行くか」
俺は重い腰を上げて立ち上がり冒険者ギルドに向かうのだった。
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「ようこそ冒険者ギルドへ!」
ギルドに入ると見計らったようにサリーがこちらに向かって挨拶をしてくる。
「今日はどのような用でしょうか?エミリーですか?エミリーですよね?」
お、押しが強いな…
「な、なんでエミリーに用だって分かるんだ?」
サリーは声を小さくして言う。
「……今街はスライムの恐怖に怯えています。そこで活躍するのが彼女だからです」
「スライムの恐怖?そこまでスライムの被害は酷いのか?」
サリーは周りを見て近くに誰もいないことを確認してから俺に告げる
「これは混乱を避けるために公表されていませんが、実は……一人の男の子が頭からスライムに覆いかぶさられて窒息死してます」
サリーの言葉に俺は大きく目が開き、背筋に冷や汗が流れる。スライムが人を殺した?あの最弱で基本無害な魔物が?
「本当なのか?」
「はい、今朝男の子の母親が発見したらしいです。ギルド職員によると抵抗した後はなかったと聞いてます」
「……信じられないな」
スライム。
この魔物は基本無害。体内の核を壊せば子供でも倒せる魔物だ。俺が見たことのある野生のスライムは少なくても攻撃というものをしてきたことはない。せいぜい少し怒って体当たりをしてくるぐらいだが、あの体だダメージなどない。しかも恐ろしく動きは遅い。
「私も初めは信じられませんでした…ですが、エミリーが言ってました。スライムは扱いを間違えれば一番厄介な魔物だって」
「どういうことだ?」
「それは、スライムは環境や食事で変化する生き物だからです」
聞き覚えのある声に振り返るとエミリーが難しい顔をして立っていた。
「変化するとは、何のことだ?」
エミリーは分厚い本を開き俺に見せてくる。そのページには様々なスライムのことが書かれていた。毒を持つスライムに麻痺させるスライムなどその種類は様々だった。
「これらのスライムは通常では生まれません。魔物の死体などを自身の体内に取り込むことでその魔物の持っている特性を得ることができるのです」
「だが、俺はそんな特殊なスライム見たことないぞ?」
「それは、彼らが温厚故に今まで気づかなかっただけです」
確かに、スライムは温厚で攻撃を受けるとこもなく、しかも倒す理由もない。故にあまり触れない。しかも核を壊せばすぐに死ぬ。確かめることなどできない。
「つまり認知されていなかっただけでたくさん種類がいると?」
「はい、ですので油断しているととても危険で厄介な魔物なのです」
それを子供が無知な状態で飼っているわけか……
確かに今回の件は危険だな。早急に対応しなければまた被害者が出てしまう。
「だが、温厚なはずのスライムが何で今回は人を襲ったんだ?」
エミリーの話を聞く限り危険なものなのは分かったが、彼らは攻撃をしないはず。怒ってもあの無害な体当たりだ、頭に覆いかぶさるなんてしないはず。つまり、異常事態が起こったのかということだろう。その理由を特定しなければ今後も同じことが起きかねない問題だ。
「それは分かりません。私の知っているスライムは人や他の生き物を襲っている様子はありません。彼らは基本的に汚れを食べますから」
「汚れ?」
「はい、汚れたものを体内に取り込みそれを主食として生きてます。ですので彼らはよく汚れた場所に多く生息しています」
なるほど……
となると、余計になぜ人間を襲ったのかは不明と言わけか。
「八方ふさがりだな……」
「そうですね……」
俺とエミリーは思考に詰まり唸っていた。そんな俺を見てサリーが何か思いついたように告げる。
「でしたらエミリーが受け持っているスライムの生態調査の依頼について行ったらどうですか?」
「生態調査?」
「はい、ギルドは大変今回のことを重く認識してます。ですのでこの事件解明のためにエミリーに改めてスライムの生態調査を依頼したんです」
どうも俺が思ってる以上に今回の事態は深刻視されているようだった。生態調査はギルドが過去に済ませているはずだ。それをエミリーに改めて依頼するということはかなり彼女はギルドから信頼されているのだろう。
「いいのか?」
俺は邪魔になるのではないかと思ってエミリーに問う。
「は、はい……」
エミリーはうつむき小さな声で返事をする。心なしか彼女の耳の先は赤くなっているように見えた。
「本当にいいのか?」
「い、いてくれると心強いですから……」
心強い?
ああ、護衛としては最適だからな。もし他の魔物が来ても護衛がいれば安心だからな。なら、遠慮はいらないな。
「そうか。なら悪いが同行させてもらうことにするか」
「は、はい」
こうして俺はエミリーとともにスライムの多く生息している場所に向かうのだった。
そうして馬車で移動すること1時間。
「着きました!」
エミリーは馬車から飛び出して駆け出していく。俺もその後ろをついて行く。
「は?ここは……海か?」
俺の目の前にはどこまでも青い海が広がっていた。汚れている場所とはいいがたい場所だった。
「どういうことだ?汚れている場所じゃないのか?」
「ふふ、それが彼らの面白いところなのですよ」
エミリーは面白そうに笑い海を眺めながら語る。
「彼らは確かに汚れているもの。つまりエサが多くあるところに集まります。ですが彼らが生まれるのは綺麗な場所なんです」
「どういうことだ?汚れているものを好むなら汚れている場所で生まれるんじゃないのか?」
普通なら多くの人がそう考えるだろう。汚れを好みエサのある場所で生まれるほうが自然だ。
「前提が違っているのです。なぜ汚れたものを好んで食べるのか?それは、彼らが綺麗好きだからなのです。つまり彼らは自分の住む場所を掃除をしてるにすぎません」
「そ、掃除?」
その言葉でやっと俺の中のスライムという生き物への先入観が壊れたような気がしたのだった。
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