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あなたの知ってる魔物の知識、間違ってませんか?   作者: 水海雫
第一章 崩れる常識

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黒鉄の防人


「なんでここに!?」


「今はそんなことよりもそれを解くのが優先だな」


俺は槍の切っ先でエミリーの拘束を切る。


「よし、それじゃあ街に帰ろう」


「どこにいくんだい?」


街に帰ろうとしていると砂煙の中から声が聞こえる。


「しつこいな?」


砂煙の中で先ほどの少年が無傷で立っていた。


「あなたは誰かな?」


「街の守衛さんだ。知らないか?坊主」


「ふ、街の守衛?何の冗談だい?」


少年は馬鹿にしたように笑い、体についた汚れを叩いて落としながら近づいてくる。


「街の守衛如きが何の用かな?」


「それはこっちのセリフだ。冒険者が同じ冒険者の彼女に何をしようとしていた?」


「彼女は僕のことを知りすぎたんだよ。だから、今から僕に汚されて殺されるのさ」


少年は顔を歪めてこちらを見下しながら懇切丁寧に言ってくれる。


「はあ」


とんだ中二病の少年だな……

俺は呆れながら大きなため息を吐き額に手を当てうつむく。


「何か言いたいのかな?」


「ああ、まずその喋り方が気持ち悪い。かっこつけすぎだ」


「な!?」


「次にその顔芸が気持ち悪い。最後に言い回しがキモイ。汚されるとか丁寧に言ってるのがなおキモイ。以上だ。分かったか?」


「ふ、ふふ」


耐えきれずエミリーが笑ってしまう。俺も初めは笑うか迷った。気持ちはわかる。

そんな俺の言葉を聞き、少年の肩は震えていた。


そして、いきなり顔を上げたと思ったらすごい勢いで俺に切りかかってきた。


俺は縦に振り下ろされた剣を少し横に避けて、少年の横腹に再度蹴りを入れる。すると少年はまた吹き飛び地面を転がる。しかし、すぐに体制を立て直す。


「ほお、丈夫だな?」


「彼は、A級の冒険者ですから……」


A級の冒険者。

冒険者のランクで言うと上から二番目か……


「なるほどな。なら、問題ないな」


「え?あのA級ですよ!?」


エミリーが心配そうに言うが、俺からすればA級なんて問題ではない。問題は手加減を間違えると相手が死ぬってことだ。


とりあえずは素手だな。


「あんた何もんだ?」


「言葉遣いが荒くなってるぞ?休憩するか?」


「いらない。それより何者だ」


「だから俺はこの街の守衛だ」


「は、バカ言えよ。守衛がそんなに強いわけあるか」


「と言われてもな……」


ただの街の守衛。そうとしか言えない。それにそれ以上はいらない。


「まあ、いい。その余裕の笑みを消してやるよ!」


少年は大きく息を吸う。

それに合わせて空気が緊迫して時間が止まったようだった。そして気づけば少年は目の前にいて、刃が横から迫る。


俺はそれを強引に槍で止める。


「!?」


「すごいな。その年で縮地しゅくちが使えるのか」


「ど、どうして今のが見えるんだよ!?」


俺は剣を槍で弾いて少年を後ろに下がらす。


「見えるんじゃなくて見えてしまうんだよ。俺には」


俺は大きく息を吐き煩わしい事実を告げる。


「俺は生まれ持っての天賦の才があってな。その手の技術は効かないんだよ」


「は!?そんなのずるじゃねーか!!」


「まあ、そうだよな……」


どんな神業も圧倒的な力の前では意味をなくす。現に俺のせいで武芸の道をやめたもの者もいる。俺はそのたびに自分のこの力を疎ましく思った。


「だが、お前らみたいなクズには持ってこいの力だよ」


俺は縮地などの技術ではなく純粋な足の速さで少年に近づき思いっきり顔面を殴り飛ばす。


「ぐえ!?」


少年を悲惨な声を上げて地面をバウンドしながら吹き飛び壁に衝突する。だが、少年はかろうじてまだ意識があり、ふらふらで立ち上がり剣を構える。


「お、まだ動けるのか。なら、槍を使っても問題ないな」


俺は槍を構える。すると少年がその黒鉄の槍を見て震えだす。


「そ、その槍は……お前、黒鉄の防人か!!」


少年は剣を落として膝をつく。その名前に俺は心が冷えていった。自分でも分かるほど声は低くなり少年に言う。


「……そんな名前は知らない」


そう言って俺は槍を前に突き出す。ただそれだけだった。しかし次の瞬間、強い風が起こり少年を切り刻む。


「ぐは!?」


無数の風の刃が少年を襲い無数の傷を作りだす。少しして風は止んで少年は地面に倒れる。そしてピクリとも動かない。


「し、死んだんですか?」


「いや、手加減してあったから……多分生きてるはずだ」


俺は倒れている少年に近づき脈を確認する。確かに動いていた。それを確認して安堵する。


「はあ、一件落着だな……」


俺は深く息を吐き少年を背中に背負う。そして、エミリーのもとに行き彼女に手を差し出す。


「さあ、帰るぞ」


「は、はい」


エミリーは少し遅れてキースの手を取る。


「黒鉄の防人……」


聞いたことのない名前だった。

しかし、妙にその名前はエミリーの心を刻み込まれるのであった。


______________________


「エミリー!!」


「サ、サリーちゃん!?」


ギルドに入るとサリーがエミリーを見た瞬間駆け出して抱きしめていた。


「心配したのよ!」


「ごめんなさい……」


二人はまるで姉妹のようだった。妹の心配をする姉だな……


「感動の再開の途中悪いが、こいつを頼む」


そう言って俺は床に少年を投げ捨てる。サリーはその少年を見て目を大きく開き告げる。


「この子はA級のカイ君じゃないですか!?何があったんですか!?」


「こいつが女冒険者を殺した奴だ。そして、証拠をつかんだエミリーも殺そうとした」


「え!?でもこの子は被害者の冒険者の人と同じパーティーだったはずでは?」


「らしいな。だが、こいつは容赦なく手を出した。そういうことだろ?」


確か帰りに聞いたのはそういう内容だったはずだ。

俺は確認のためにエミリーに尋ねる。エミリーは大きく頷き少しうつむきながらカイに視線を向けて告げる。


「彼は人間じゃありません。私にはそう見えました……」


「そう……分かったわ。誰か彼を拘束して」


彼女の表情は普段の彼女からは考えられぬほど歪み嫌悪感に溢れていた。その顔を見てサリーも理解したのかただ静かに返事をしてカイをギルド職員たちに任す。


「証拠は?」


「これです。遺体があった巣のゴブリンたちが持ってました。彼らは遺体を持ってきた人物から奪ったと言ってました」


エミリーはミスリルの短剣を差し出す。サリーは短剣を慎重に受け取りその短剣を少し観察してから言う。


「この短剣は確かに彼のものね。やっとミスリルの短剣が手に入ったとギルドで自慢していたのを見たわ」


「つまり証拠としては十分というわけか?」


「ええ、それに……」


サリーは言い淀む。彼女は少し顔をうつむかせて小さな声で続けた。


「彼には黒い噂があったわ」


「ですね……」


エミリーも知っているのか声が自然と小さかった。どうもよほど酷い噂なのだろうことが予測できた。


「どんなだ?」


サリーはこちらに一歩近づき耳元で小さな声で告げる。


「彼は女の子を誑かしては捨てて酷ければ殺していたらしいという噂です」


「それは……なぜ調査をしなかった?」


俺は少しギルドを責めるように視線を強めてサリーに問う。


「……言い訳かもしれませんが、彼は普段はとてもいい子でした。故に彼に嫉妬した者が流したデマだと判断してしまいました」


「それは!」


「守衛さん、今回のことは誰が悪かったわけではありません」


「だが、事前にあいつについて調べていれば!」


「私は無駄だったと思います。彼ならうまく隠すでしょう」


エミリーの言うことはまさに正論だった。俺が言っているのはもしもの話だ。そんなものは今となっては意味はない。


「ああ、そうだな……すまん」


俺はサリーに頭を下げる。


「いいえ、こちらこそすみませんでした」


誰も悪くなんてないのだ。知っているはずだった、だが心の傷はうずく。もう少し早く気づいていれば助けられた。


「とにかく、少年のことは頼む。余罪も含めてしっかり吐かせてくれ」


「はい、絶対に」


俺はそう言い残してギルドを後にする。

ギルドから一歩出ると外は少し暗かった。空を見上げると月がうっすらと見えていた。時間がたつにつれて徐々に輪郭がはっきりしていく。月見酒にはいい夜だ。


「帰るか……」


その日は酒を飲み死ぬように寝た。そのせいだろうか、嫌な昔の夢を見た。


目の前には敵の軍勢。人間だけではない。使役された魔物もいた。その軍勢の中を駆け巡りただひたすらに槍を振る。終わりなど見えない。助けを乞う敵兵の声、無理矢理使役された魔物の苦痛の声。それらを俺は黒鉄の槍ですべて切り裂いていく。


そこに情などない。ただ力こそがすべてを守れると信じていた。呆れるほど驕っていた。その結果、俺の周りには血と肉だけになるとも知らずただ槍を振り続けた。あの日の夢だった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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