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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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55/59

55.経験は力となる


「今のお前は、

 そんなことはないぞ、フェルン」

 

 そう言って、魔王はにやにやと俺を見てきた。

 その笑みを見た瞬間、背中に嫌な予感が走る。

 

「……どういう意味ですか」

 

 警戒心を隠さずにそう返すと、魔王は楽しそうに肩をすくめた。

 

「ちょっとな。

 自分のステータスを見てみろよ」

 

 半信半疑のまま、俺は口を開く。

 

「……ステータス」

 

 その言葉に反応して、目の前に青白い光のウィンドウが展開された。

 この世界には、“ステータス”と呼ばれるものが存在する。

 日本の知識で例えるなら、まさにロールプレイングゲームのステータス画面そのものだ。

 それは生まれた時から誰もが持っているが、本当の意味で価値を持つのは――十五歳で成人してから。

 この世界では、十五歳になると、【成人の儀】という儀式を受ける。

 そこで初めて、自分の“天職”――

 つまり、才能の適性と、その時点で所持している基礎スキルが明らかになるのだ。

 そして。

 俺のステータス。

 

 ……うん。

 相変わらず、見事なまでに地味だった。

 目を引くのは、少し珍しい【アイテムボックス】のスキルくらいで、他は驚くほど平凡。

 

 体力、筋力、敏捷。

 どれも可もなく不可もなく。

 魔力量に至っては、

 平民の中でも“中の下”。

 

 ――これが、現実。

 今さら、これを見てどうするんだ?

 そんな、少し拗ねたような気持ちで

 俺は魔王を見上げた。

 

 すると――

 魔王は、当然のように俺の隣に立ち、

 こちらのステータス画面を覗き込んできた。

 

「ふむ……」

 

 顎に手をやり、小さく頷く。

 

「やはりな」

 

 ……いや、ちょっと待て。

 嫌な予感が、確信に変わる。

 

「あんた……

 俺のステータス、見えてる?」

「ああ」

「なんでっ!?」

 

 思わず声が裏返った。

 ステータス画面は、

 言ってしまえば個人情報の塊だ。

 能力、適性、将来性。

 場合によっては、弱点まで読み取れる。

 本人以外が閲覧することも、理論上は可能だが、その場合、必ず本人が

 「ステータスオープン」

 と開示許可を出さなければならない。

 ――はず、なのに。

 

 俺の視線を受けて、魔王は自分の右目に軽く指を当てた。

 

「俺にはな。それを見透かす“眼”がある」

 

 ……ああ、なるほど。

 納得できるかどうかは別として、

 魔王ならあり得る話だ。

 そう思った、その直後。

 魔王は、俺のステータス画面の中でも、ひときわ地味だった項目――

 【魔力量】

 そこに、躊躇なく指を伸ばした。

 

「え、ちょ――」

 

 止める間もなく。

 その指が触れた瞬間。

 

 ――ぐんっ。

 

 魔力量を示すゲージが、目に見えて跳ね上がった。

 

 ……え?

 

 ……え?

 

「…………はぁ!?」

 

 思わず、素っ頓狂な声が出た。

 なにこれ。

 さっきまで、

 平民の平均以下。

 

 控えめにも程がある数値だったはずなのに――今はもう、

 何倍あるんだよ!?

 と、思わずツッコミたくなるレベルまで、一気に伸びている。

 貴族でも、ここまでの魔力量を持つ者は

 そう多くないんじゃないか?

 

 頭の中が完全にパニックになる。

 そんな俺の様子を見て、魔王はくつくつと喉を鳴らして笑った。

 

「フェルン、お前……」

 

 そう言って、まるで新しい玩具を見つけた子どものような無邪気な笑顔を向けてくる。

 

「ほんと、

 おもしれー男だな」

 

 ……いや。

 その言い方。

 

「それ、

 『おもしれー女だな』

 みたいなノリで言うの、やめてくれません?」

 

 思わず、素でツッコミを入れてしまった。

 魔王は、不思議そうに首を傾げる。

 

「なんだ、その……

 “おもしれー女だな”ってのは」

 

 しまった。

 元の世界――

 日本の感覚だから、通じるわけがない。

 

「……いや、なんでもないです」

 

 そう答えると、魔王は特に気にする様子もなく話を続けた。

 

「魔力量やスキルってのはな……生まれ持ったものが大きい」

 

 腕を組み、淡々と語る。

 

「親からの遺伝。

 生まれた土地。

 時代背景」

 

 一つひとつ、指折り数えながら。

 

「だが、それ以上に影響するものがある」

「……人生経験、ですか?」

 

 思わず口にすると、魔王は満足そうに頷いた。

 

「そうだ」

 

 ぽかんと、ステータス画面と魔王を見比べる俺に、彼は続ける。

 

「人間でも聞いたことがあるだろう?

 一度、死にかけた者が

 妙に強くなる、という話」

「ああ……

 噂程度なら」

 

 都市伝説みたいなものだと思っていた。

 だが。

 

「事実だ」

 

 魔王は、即答した。

 

「スキルも魔力量も、経験と記憶を糧に成長する」

「……経験値、ってことですか」

「そう考えていい」

 

 魔王は、にやりと笑う。

 

「お前が積み上げてきたもの――

 戦い。

 死線。

 選択。

 守ろうとした意思」

 

 赤い瞳が、俺を捉えた。

 

「それら全部が、

 今のお前を作っている」

 

 ――あ。

 その瞬間、

 すべてが、一本の線で繋がった。

 前世の記憶。

 ダンジョンでの死線。

 料理人としての経験。

 リリスを守った選択。

 それらが、

 “力”として形になった。

 俺の考えを察したように、

 魔王はゆっくりと頷く。

 

「気づいたようだな」

 

 ……どうやら。

 俺の考えは、

 正しかったらしい。

 

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