54.朝からとんかつ!
――翌朝。
「よしっ!
では、頼んだぞ、フェルンッ!」
やけに元気よく、魔王が言った。
……いや。
朝から元気だな、魔王。
俺と魔王は、結局――
明け方近くまで酒を飲み交わしていた。
そして今。
俺は、とても眠い。
せっかくの、ふかふかベッドだったというのに、横になれた時間は、ほんのわずか。
……短時間しか寝られなかった……っ!
そんなことを考えていると、案の定、その思考を読んだのだろう。
「なんだ?
もっと、あのベッドで寝たいなら、朝食のあとに昼寝をしてもいいぞ」
にかっと、屈託のない笑顔。
「なんなら、今日も泊まっていけ!」
……そういう問題じゃない。
俺が内心で全力ツッコミを入れた瞬間、魔王は俺の顔を見て、声を上げて笑った。
「ははっ!
相変わらず、分かりやすいな、お前は」
……全部、読まれてる。
そう実感しつつ、俺は小さく息を吐いた。
――仕方ない。やりますか。
ぱちんっ!
自分で自分の頬を軽く叩き、気合いを入れる。
そして、アイテムボックスを呼び出した。
その中に腕を突っ込み――
「よっこらしょ……っ!」
ずるり、と。
引きずり出したのは、
オークキングの肉。
それを、そのまま調理台の上に置く。
……うん。でかいな。
でかいとは思っていたが、実物を改めて目の前にすると――
「……やっぱ、でかいな」
思わず、独り言が漏れた。
さて。
なぜ俺が、朝からこんなことをしているのか。
理由は、至ってシンプルだ。
朝から!
朝食に!!
魔王様から!!
「オークキングの肉で作った、とんかつが食べたい!」
という、非常に元気いっぱいなリクエストをいただいたからである。
……重い。
いろんな意味で、重い。
俺は巨大な肉塊を前に、静かに深呼吸した。
「朝から、とんかつが食べられるとはなっ!」
背後で、魔王が楽しそうに頷いている。
今日も、なかなか平穏な一日にはならなさそうだ。
◇◆◇
さて。
とりあえず、最初は――
この巨大な肉の塊を切るところからだ。
そう考え、調理台の周りを見渡す。
……おや?
「なあ、魔王」
「どうした?」
「フライパンや鍋とか、いろんな調理器具は揃ってるけど……
包丁は、どこなんだ?」
魔王は、きょとんとした顔をしてから言った。
「包丁?
それなら、お前には自慢の鰤出刃があるだろう」
……え?
ごそごそと、アイテムボックスを漁る。
「自慢の、鰤出刃って……これ?」
鰤出刃を取り出して見せると、魔王は、当然のように頷いた。
……嫌なんだけど。
確かに、鰤出刃は包丁だ。
だが――
元々、ダンジョンの奥の台座に、おそらく長年、刺さっていた代物。
俺の相棒になってからは、魔物をばっさ、ばっさと斬ってきた。
直近では、オークと、オークキングを。
……オークだったら、まだいい。
だが、それ以前には。
スライムを何十匹も倒した。
芋虫や、蜘蛛みたいな虫型の魔物も、何匹も。
そんな鰤出刃で、
食べ物を料理をする――
……普通に、嫌です。
俺が内心で全力ドン引きしていると、魔王が、こともなげに言った。
「汚れが気になるなら、
【洗浄】を使えばいいだろう?」
「クリーンって……
いつもリリスがお風呂代わりに使ってくれてた、あのクリーンの魔法?」
魔王は、頷いた。
「それでもいいんだがな。
しかし、体全体を洗うような大掛かりなクリーンは、魔力消費が多すぎる」
そう言って、指を立てる。
「料理人向けに、手や調理器具だけを洗浄する、小規模なクリーンがあるんだ」
「……そんなの、初めて聞きました」
魔王は腕を組み、うんうんと頷く。
「まあ、あれは料理人向けの特殊スキルだ。
料理人は、基本的に平民だろう?」
確かに。
「クリーンよりは消費は少ないが、それでも平民には魔力効率が悪い。
だから、料理人の間でも、あまり使われていないらしい」
……なるほど。
俺は、苦笑する。
俺も、がっつり平民。
しかも、大した才能もない。
成人のときに測った魔力量も、
平民の中の――
中の中……いや中の下の方だった。
そんなことを考えていると、
またしても、魔王がにやにやとこちらを見て言った。
「今のお前は、
そんなことはないぞ、フェルン」
……また、読まれた。




