↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/59

53.魔王が好む人間


「騙すための嘘。

 誰かを陥れようとする思考――

 それは、雑音のような……

 酷く、醜い音として聴こえてくる。

 だから、そういう人間は苦手だ」

 

 ゾクリ、と背筋を冷たいものが走った。

 まるで、心の奥を覗かれたまま、そのまま値踏みされたような感覚。

 

 ――やっぱり、この人は魔王だ。


 そう実感した、その瞬間。

 

「ははっ!」

 

 突然、魔王が声を上げて笑った。

 低く、だが楽しそうな笑い声。

 空気に張りついていた緊張が、一気に弾ける。

 

「……え?」

 

 思わず、間の抜けた声が漏れた。

 魔王は、俺の反応を見て、さらに笑みを深くする。

 

「そんな顔をするな。

 今のは、少し言い方が悪かったな」

 

そう言って、片手を軽く振った。

 

「すまなかった。

 お前が、そこまで緊張するとは思わなかった」

 

 ……いや。

 今の流れで緊張しない人間がいたら、そいつはもう人間じゃないと思う。

 だが、魔王はどうやら本気で、そう思っていなかったらしい。

 俺の表情を一瞥すると、ふっと息を吐き、声の調子を落とした。

 

「安心しろ」

 

赤い瞳が、穏やかに細められる。

 

「お前のことは――

 好いている」

「──へ?」

 

 完全に、思考が止まった。

 優しく微笑まれ、そんな言葉を、何の躊躇もなく告げられる。

 顔面が良すぎる男に、真正面から、穏やかな笑みを向けられながら。

 

「好いている」

 

 ……いや、待て。

 情報量が多すぎる。

 頭が追いつくより先に、顔が、かあっと熱くなるのが分かった。

 耳まで熱い。

 絶対、今、赤い。

 

「な、なに言って……」

 

 言葉が、うまく出てこない。

 だが魔王は、そんな俺の反応など気にも留めず、続ける。

 

「誤解するな。

 人間が言うところの、恋情ではない」

 

 ……少し、ほっとしたような。

 それでいて、なぜか残念なような。

 複雑な気持ちになった自分に、内心でツッコミを入れる。

 

「俺が言っているのは――信頼に近いものだ」

 

 魔王は、ワイングラスを持ち上げ、その中身を静かに揺らす。

 

「お前の心には、曇りがない」

 

 その言葉は、静かだった。

 だが、不思議と、重みがあった。

 

「欲はある。

 迷いもある。

 恐れも、弱さもある」

 

 一つひとつ、確かめるように言う。

 

「だが――

 自分を偽るための嘘がない」

 

 赤い瞳が、再びこちらを向いた。

 

「少なくとも、

 お前は“誰かを踏み台にして生きよう”とは思っていない」

 

 胸の奥が、じわりと熱くなる。

 それは、照れとも、安堵とも、少し違う感覚だった。

 

「……そんな、大した人間じゃないですよ」

 

ようやく、そう返す。

 

「俺は、ただの料理人で――

 ……いや。

 記憶を取り戻すまで、

 料理の知識もスキルも無かった」

 

一度、言葉を区切る。

 

「鰤出刃を手に入れるまでは、

 雑魚スライムにも手こずるような男でした。

 たまたま、運がよかっただけで……」

 

魔王は、俺の言葉を聞いて、一瞬だけ目を伏せた。

そして。

 

「だからこそ、だ」

 

短く、そう言った。

 

「力を持たず、それでも誰かを守ろうとする。

 それを、“当たり前”のように選ぶ」

 

再び、こちらを見る。

 

「それは、長く生きていても、なかなか見ることが出来ない」

 

 ……そう言われて、胸の奥に、少しだけ引っかかるものがあった。

 魔王は、何百年――

もしかすると、何千年と生きている存在だ。

そんな存在が言う、

「なかなか見ることが出来ない」という言葉の重さ。

 

「だから――」

 

 魔王は、ワインを一口飲み、穏やかに続けた。


「そんなお前だから、この城に泊めた。

 そして、こうして、酒を酌み交わしている」

 

 理由は、それだけだと。

 

「フェルン」

 

 名前を呼ばれ、視線を交わす。

 

「そんなお前にだから、リリスを任せられる」

 

 その言葉に、俺は返す言葉を失った。

 

 魔王の城。

 深夜の廊下。

 ワインの赤。

 

 この状況のすべてが、現実感を失わせる。

 それでも。

 今、向けられている言葉だけは――

 不思議と、胸に真っ直ぐ届いていた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。