↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/59

52.嘘の響き


 それって……

 魔王も、転生者ってことか?

 

 そう考えた瞬間、赤い瞳が、まっすぐこちらを捉えた。

 そして――

 本当に何でもないことのように、頷く。

 

「ああ、そういうことだ」

 

 あまりにあっさりしていて、一瞬、言葉を失う。

だが――次の瞬間、ある違和感が胸を掠めた。

 

 ……待て。

 俺、今の疑問……

 口に出して、質問したか?

 

 そう思った瞬間、魔王が、にやりと笑った。

 その表情を見て、嫌でも確信してしまう。

 

「あんた……俺の思考、読んでるな?」

「ご名答」

 

 即答だった。

 悪びれる様子もなく、むしろ面白がっているようですらある。

 

「……マジかよ」 


 思わず、額を押さえる。

 そりゃそうだ。魔王だ。

 それくらいできても、不思議じゃない。

 だが――

 

「それ……

 どこまで分かるんですか?」

 

そう尋ねると、魔王は少し考えるように、顎に手をやった。

 

「……強く思ったことは、

 だいたい、だな」

 

 ……なんで、微妙に曖昧なんだ。

 魔王は、くすりと笑う。

 

「今、

 何に驚いているか。

 何を疑っているか。

 その程度のことは、少なくとも分かる」

 

 ……なるほど。

 勝手に全部を覗かれている、というわけではないらしい。

 少しだけ、胸の奥の緊張が緩む。

 魔王は、グラスを揺らしながら続けた。

 

「お前の過去や、前世の記憶を、好き勝手に覗く趣味はない」

 

そう言って、肩をすくめる。

 

「ただ――

 強く思ったことは、どうしても、伝わってくる」

 

その言い方は、言い訳のようでもあり、事実の説明のようでもあった。

 

「……つまり」

 

俺は、言葉を選びながら言う。

 

「意識して隠してることとか、自分でも整理してない考えは……分からない?」

「……半分、正解だ」

 

魔王が、にやりと笑う。

 

……半分?

 

その疑問を察したように、彼は小さく頷いた。

 

「“自分でも整理していない考え”――

 意識の片隅にある思いは、基本的には伝わってこない」

 

一拍、置いて。

 

「だがな」

 

赤い瞳が、わずかに細められる。

 

「隠そうと思う、ということは――

 そのことを、強く意識している、ということだろう?」

 

 ――あ。

 そこで、ようやく腑に落ちた。

 

 隠すために考えた瞬間、

 それはもう“強く思ったこと”になる。

 ……厄介な能力だな。

 思わず、そんな感想が胸に浮かぶ。

 だが同時に、妙な納得もあった。

 確かに、それなら――読み取られてしまうのも、道理だ。

 

「じゃあ……」

 

俺は、グラスを指先で回しながら言った。

 

「何も考えなければ、読めない?」

 

魔王は、一瞬だけ考え込む素振りを見せてから、

肩をすくめた。

 

「無理だな」

「即答ですか?」

「人間は、

 生きている限り、何かしら考えている」

 

 淡々とした口調だが、どこか実感がこもっている。

 

「考えないように、と思った瞬間から、

 もう考えている」

「……確かに」

 

 反論できなかった。

 俺は、ワインを一口飲む。

 さっきよりも、ほんの少しだけ苦味を感じた気がした。

 

「だから俺は、本音を隠す人間が、あまり得意じゃない」

 

 魔王は、そう言ってグラスを置いた。

 

「隠そうとするほど、その感情は強くなる」

「……じゃあ」

 

少し間を置いて、俺は聞く。

 

「正直に生きてる人間の方が、読みづらい?」

「いいや」

 

 魔王は、静かに首を振った。

 

「読みやすい、読みにくい――そういう話じゃない」

 

 一瞬、彼の雰囲気が変わる。

 

「嘘をついている者……

 いや、正確には、

 “誰も嘘をつかない人間など存在しない”」

 

 その前提を置いたうえで、魔王は続けた。

 

「小さな嘘や、誰かを守るための嘘ならいい」

 

 だが。

 赤い瞳に、鋭い光が宿る。

 

「騙すための嘘。

 誰かを陥れようとする思考――

 それは、雑音のような……

 酷く、醜い音として聴こえてくる」

 

 低く、重い声音。

 

「だから、そういう人間は苦手だ」

 

 ゾクリ、と。

 まるで自分が睨まれたかのように、背筋に緊張が走った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。