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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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49/59

49.魔王の城でお泊まり!?


 その夜。

 なぜか俺は――

 魔王の城に泊まることになった。

 

 ……いや、待て。

 そんなこと、ある?

 

 捕らえられたわけでもない。

 監禁されたわけでもない。

 牢屋に放り込まれたわけですらない。

 ごく自然に、

 

「もう夜だし、泊まっていけ」

 

 くらいの軽さで、普通に“お泊まり”を提案されたのだ。

 意味が、分からない。

 しかも、案内された部屋は――

 きちんとした個室。

 

 城の一室らしく天井は高く、落ち着いた色合いの調度品が並んでいる。

 そして何より。

 

 シャワーが、あった。

 ベッドも、あった。

 ――ベッドだ。

 ふかふかの、ちゃんとしたベッド。

 思わず、じっと見つめてしまう。

 ダンジョンに入ってからというもの、風呂は基本、リリスのクリーンの魔法頼り。

 寝る時は、床に寝袋。

 それが当たり前の日々だった。

 いや、正確に言えば――それでも、かなり恵まれていた方だ。

 普通のダンジョン攻略なら、食事は干し肉か、石のように硬いパン。

 清潔さなんて、二の次三の次。

 その点、俺たちは――

 鰤出刃のおかげで、食事はむしろ豪華だったし、洗浄の魔導具が切れても、リリーのクリーンの魔法で最低限の清潔は保たれていた。

 ……それでも、ダンジョン暮らしが大変だったのは、確かだ。

 なのに。

 

「ちゃんとしたシャワー」と

「ちゃんとしたベッド」は、

 やはり、別格だった。

 

 なんなら、ダンジョンはもちろん、平民であるフェルンの普段の生活よりも、快適な気すらする。

 シャワーを浴びる。

 温かい水が、頭から背中へと流れていく。

 魔法じゃない。

 触れて、感じる“お湯”。

 それだけで、体の奥に溜まっていた疲れが、

 ゆっくりと溶けていくのが分かった。

 ベッドに横になる。

 背中を預けた瞬間、ふわりと体が沈み込む。

 

「……はぁ」

 

 思わず、息が漏れた。

 幸せだ。

 ここが魔王の城だという事実を、一瞬、忘れてしまいそうになるくらい。

 天井を見上げながら、今日一日の出来事を思い返す。

 カツ丼。

 白いご飯。

 好みの違いで盛り上がった食卓。

 そして――

 オークキングの肉で、とんかつを作れという、

 無茶振り。

 明日も、きっと忙しい。

 それでも今は。

 この、静かで柔らかな時間に、身を委ねてもいい気がした。

 

「……魔王の城で、こんな気分になるとはな」


 自嘲気味に呟き、目を閉じる。

 ベッドは、驚くほど快適だった。

 意識が、ゆっくりと沈んでいく。

 

 ――今日は、よく眠れそうだ。


 

 ◇◆◇


 

 ……と、思ったのに。

 俺は、目を覚ましてしまった。

 

 そして、特に理由もなく、部屋を出た。

 ……静かだな。

 そういえば、この城では――

 魔王とリリス以外の人……いや、魔族?

 に、まだ会っていない。

 そんなことを考えながら、長い廊下を歩いていると、一人の人物を見つけ、足を止めた。

 

「おう、フェルンじゃないか」

 

 魔王だった。

 赤い瞳と同じ色をした、真っ赤なワインのような液体が注がれたグラスを、片手に持っている。

 どうやら、一人で晩酌をしているらしい。

 ――妙に、様になっていた。

 

「どうした? 眠れないのか?」

 

 普通に笑顔で語りかけながら、どこからか新しいワイングラスを取り出し、そこに赤い液体を注ぐ。

 そして――

 何の躊躇もなく、俺に差し出してきた。

 

「……どうも」

 

 思わず、受け取ってしまう。

 魔王は、座り心地の良さそうなソファの隣を、

 軽く叩いた。

 ……どうやら。

 隣に座れ、

 ということらしい。

 こうして――

 魔王とただの平民の少年による、謎のサシ飲みが始まった。

 

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