46.今の俺の理想
「今の俺は」
ゆっくりと、はっきり言う。
「かわいい女の子の“リリー”よりも――
弱さを隠そうとして、必死な“リリス”の方が、
ずっと魅力的に思える」
リリスの瞳が、大きく見開かれた。
そして次の瞬間、
その白い頬が、みるみるうちに朱に染まっていく。
「な……っ!」
言葉を失ったまま固まる彼女を前に、
俺は止まれなかった。
「それに、見た目だって……」
一度、言葉を選ぶ。
「確かにリリーは可愛かったけど、今のリリスは……可愛いっていうより、綺麗って感じで……」
視線が、自然と彼女の姿を捉える。
幼さの残る、守ってあげたくなるような少女だった“リリー”。
それに比べて、今のリリスは――
すらりとした体つきで、全体のバランスがよく、引き締まった黒い服装も相まって、大人びた雰囲気を纏っている。
……正直に言えば、
出るところは出てる、なんて評価も頭をよぎった。
が、それを口に出した瞬間、確実にセクハラ扱いされる未来が見えたので、俺は慌ててその考えを振り払う。
というか、今この空気で言う感想じゃない。俺は一度、軽く咳払いをして、言葉を選び直した。
「……俺は、好きだな」
それだけを、正直な気持ちとして口にした。
「な、なに言ってんのよ!!」
リリスが叫ぶ。
顔は真っ赤で、
耳まで染まっている。
うん。
これ以上踏み込まなくて、本当に良かった。
心の底から、そう思った。
「リリス。やっぱりお前は甘すぎる」
空気を切り裂くような魔王の一言に、リリスは目を吊り上げて彼を睨みつけた。
だが、そんな視線をまるで気にする様子もなく、魔王は続ける。
「前世の記憶が戻るなんて……
かなりのイレギュラーだ。
だから、そこに気づけなかったのは、仕方ねぇ」
魔王は静かに腕を組み、リリスを見下ろす。
「ただし」
一拍置いて、にやりと笑う。
「誘惑するつもりで近づいたターゲットに、
おめえの方が惚れてどうすんだよ」
「んなっ!!」
ようやく落ち着いたかと思ったリリスが、またしても真っ赤になる。
そして――
「うわっ!」
突然、背中に重みを感じ、思わず声を上げた。
「お前、やるな」
俺の肩を組んできたのは魔王だった。
にやりと笑いながら、こちらを見る。
「サキュバスの誘惑に抵抗するどころか、逆に虜にするたぁ……
お前、インキュバスの素質あるんじゃねぇか?」
いやいや……そんなわけあるか。
呆れて言葉を失っていると、リリスがずかずかとこちらに歩み寄ってくる。
「だーかーらー!
なんでアンタは、すぐフェルンさんにくっつくのよ!
もっと離れなさいよ!」
「別にいいだろ? 減るもんじゃないし」
そう言って、魔王はリリスを挑発するように、今度は俺をぎゅっと抱き寄せた。
長身の魔王の腕に、すっぽり収まる俺。
俺の身長は、百七十に届かないくらいだ。
リリーよりは少し背が高かったが、リリスとは、ほぼ同じくらい。
――そんなところも、
“本来の僕”にとっては、理想的だったんだろうな。
ふと、そんなことを思ってしまう。
そして。
今、俺を抱きしめている魔王は――
背が高く、体格も良く、程よく鍛えられた身体つきをしていて。
うん。
男として、素直に憧れる理想的な体だ。
……いや、だからって。
そんなことを考えていた、その瞬間。
リリスが、魔王の腕を容赦なく掴み、
俺から引き剥がした。
「フェルンさんも、なんで大人しく抱きしめられてるのよ!」
はい、すみません。




