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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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40/42

40.彼女の告白


「いやいやいや……

 自然に魔物を束ねるとか、意味分からん」

「そうか?」


 本気で不思議そうに、男は首を傾げた。


「人間の王も、魔物の王も、

 やっていることは大差ないだろう」


 ……いや、絶対違うだろ。


「俺は、ただ自由に生きられれば良かっただけだ。

 だが、魔物たちが勝手に寄ってくるんだ」


 その価値観が、もう完全にズレている。


 ――と、そこでふと、引っかかる。


「……リリーは?」

「え?」


 唐突な問いに、リリーが目を瞬かせた。

 少し間を置いて、俺は続ける。


「リリーは、さっき初めて

 この……“魔王”と会ったわけじゃないだろう?」


 こちらは内心ひどく緊張しながら“魔王”と呼んだが、男は特に気にする様子もなかった。


 だが――

 リリーの表情が、目に見えて強張る。

 沈黙が、落ちた。

 ほんの数秒。

 だが、やけに長く感じられた。

 リリーは、答えなかった。

 ……いや、答えられなかったのかもしれない。

 視線を落とし、唇をきゅっと噛みしめている。


「……リリー?」


 名を呼ぶと、びくりと肩が揺れた。


「あ、えっと……」


 言葉を探すように、視線が彷徨う。

 さっきまでの、遠慮のない調子は影も形もない。


 男は、その様子をじっと見ていた。

 からかうでも、問い詰めるでもなく――

 ただ、静かに。


「……リリス」


 ぽつりと、男が呟いた。

 その名を聞いた瞬間、リリーの肩が、びくりと跳ねる。


「フェルンに、全てを話せ」

「え?」


 リリーが、思わず顔を上げた。


「きっと、大丈夫だ」


 短く、だが確信に満ちた声。

 男は、まるで小さな子どもを見守るような、やさしい瞳でリリーを見つめていた。

 対照的にリリーは、くしゃりと顔を歪めた。


 再びの、沈黙。

 しばらくして――

 聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、

 俺の名前が呼ばれる。


「フェルンさん……」

「ん?」

「フェルンさん……ごめんなさい……っ」


 ぽつり、ぽつりと零れる言葉。

 俺は、ただ静かに、次の言葉を待った。


「私……フェルンさんに……

 嘘、ついてた」

「うん」


 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。

 胸の奥では、いくつもの感情が渦巻いているのに、口から出たのは、それだけだった。


 リリーは、俺の反応を窺うように視線を揺らし、すぐにまた俯く。

 握りしめた指先が、白い。


「……怒って、ないの?」


 かすれた声。


「まだ内容を聞いてないからな」


 そう答えると、

 リリーは喉を詰まらせたように息を吸った。


「ごめんなさい……ほんとに……」


 ――謝罪が先に出るのは、きっと怖いからだ。

 本当のことを話して、嫌われたくない。


 おそらくそんな気持ちが原因だ。

 その恐怖の正体を、俺はよく知っている。


 前世の記憶が戻ってから、

 俺もずっと考えていた。


 誰かに、この記憶を話したい。

 だが同時に、異世界で生きた前世の記憶がある――

 そんな突拍子もない話を、

 果たして信じてもらえるのか。


 気味悪がられないだろうか。

 距離を置かれないだろうか。


 リリーと出会ってからは、特に――

 その思いが強くなった。


「ゆっくりでいい。

 ちゃんと、話を聞くから」


 俺は、オレンジ色のペットボトルを

 リリーの前に置いた。


「喉、乾いてないか?」

「……あ、オレンジジュース……」


 リリーは小さく頷き、

 震える手でそれを受け取る。


 もうペットボトルの開け方を知っている彼女は、キャップを回して蓋を外すと、ゆっくりとオレンジジュースを飲んだ。


 男――いや、“魔王”は、

 その様子を黙って見ていた。

 先ほどまでの軽い口調とは違う。

 視線は、静かで、真剣だ。


 まるで、これから語られることを

 知っているかのように。


「……ふぅ」


 リリーが口を離し、小さく息を整える。


「……私ね」

 

 そして、真っ直ぐに俺を見つめた。

 ようやく、言葉が落ちる。


「フェルンさんに、嘘をついてた」

「うん」


 もう一度、頷く。


 遮らない。

 焦らせない。


 俺の役目は――聞くことだ。


「私、最初に会ったとき、フェルンさんに……」


 言いかけて、言葉を飲み込む。


 何度も唇を開閉して、

 ようやく続けた。


「仲間と探索してたら、突然、転移トラップで飛ばされたって……言ったでしょ?」

「ああ」

「あれ、本当は……違うの」


 胸の奥が、少しだけ冷える。

 それでも、俺は続きを待った。


「私は、飛ばされたんじゃなくて……」


 リリーは、ぎゅっと目を閉じる。


「……自分で、あの階層に行ったの……」


 

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