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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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28.王の肉


「……なんだと?」

 

 男は、まるで信じられない幻でも見たかのように、リリーを凝視した。

 その反応を待っていたとでも言うように、リリーは口の端をつり上げる。

 

「しかもね、普通のオークとは比べものにならないくらい、質がいいんだからっ!」

 

 得意げに胸を張り、さらに畳みかける。

 

「それに大きさだって、すっごく大きいの。

 いろんな料理に使えるはずよ!」

 

 ――その言葉が、引き金だった。

 男の目の色が、はっきりと変わる。

 

「……ほう」

 

 低く、喉の奥で転がすような声。

 先ほどまで無邪気に輝いていた赤い瞳が、今度は獲物を見定めるような光を帯びて、ぎらりと光った。

 

「質がいい……だと?」

 

 一歩、男が前に出る。

 それだけで、空気が張り詰めた。

 

「しかも――大きい、か」

 

 次の瞬間、男はぱっと両手を広げた。

 

「オークキングの肉だぞ!?

 しかも高品質で、量もある!?

 そんな素材、そう簡単に手に入るものじゃない!」

 

 唐突な大声に、思わず肩が跳ねる。

 赤い瞳を爛々と輝かせ、男は一気にまくしたてる。

 だが、途中でふっと言葉を切った。

 

「それは……そのオークキングの肉は、どこにあるんだ?」

「……そ、それは……」

 

 リリーが言い淀んだ、その瞬間だった。

 黒ずくめの男の顔から、すっと血の気が引く。

 

「……ま、まさか……!」

 

 男は、ごくりと喉を鳴らした。

 

「おい、リリスッ!」

 

 声が、わずかに裏返る。

 

「まさかとは思うが……その肉……」

「ちゃんと、持ってるわよ?」

 

 その一言に、男は心底ほっとしたように大きく息を吐いた。

 

「よかった……で、その肉はどこにある!?」

 

 切羽詰まった様子でリリーに詰め寄る。俺は反射的に身構えた。

 

(――まずい。これは危険だ)

 

 俺はマジックボックスに手を突っ込んだ。

 アイテムボックスから、巨大なオーク肉を引きずり出す。

 

「よっこらしょ!」

 

 ――ドスンッ!!

 

 床に叩きつけた瞬間、鈍く重い音が響いた。

 ……改めて見ると、本当にとんでもない大きさだ。

 鰤出刃の料理による身体強化がなければ、持ち上げることすらできなかっただろう。

 男は肉を見たまま、目を見開いた。

 しばらく無言で凝視し――やがて、ゆっくりと口を開く。

 

「……【鑑定】」

 

 この男……!

 鑑定スキルを持っているのか!?

 

 鑑定は希少な能力だ。

 物の性質やモンスターの情報を把握できるため、鑑定士に限らず、あらゆる職業で重宝される。

 再び肉を見つめる男の身体が、微かに震え始めた。

(……だ、大丈夫か?)

 思わず心配になって見守っていると、男は突然、歓喜の表情を浮かべ、勢いよく顔を上げた。

 

「素晴らしい!!

 オークキングの肉で、しかも最高品質……俺でも、こんなものは初めて見たぞ!」

「……はぁ」

 

 感動しているところ悪いが、正直、俺にはその凄さがいまひとつ分からなかった。

 いや、前世では料理人だった。

 白く艶のある脂身、きめ細かな肉質――この肉が極上の食材であること自体は、理解できる。

 だが――正確に言えば、前世の記憶を取り戻す前のフェルン(おれ)は、生の食用肉をほとんど見たことがなかった。

 それは、この国の歪んだ決まりのせいだ。

 この世界では、身分制度が厳格に存在する。

 王侯貴族と平民――その差は、生活の隅々にまで及んでいた。

 中でも、前世を思い出した俺にとって、最も受け入れがたいのが――

 肉や魚は、基本的に貴族の食べ物。

 平民が口にするのは、ほぼ野菜だけ。

 そんな、理解に苦しむようなルールがある。

 まったく食べられないわけではない。

 加工された肉――ハムやソーセージなら許されていた。

 だが、それでもだ。

 フェルンは「素材としての肉」を、ほとんど知らずに生きてきたのだ。

 

「くそ……っ!」

 

 男は、オークキングの肉からゆっくりと視線を逸らした。

 悔しそうに唇を歪める。

 先ほどまで、子どものように目を輝かせていた顔は、もうない。

 

「……」

 

 俺は、思わず息をのんだ。

 

 ――えっと……何事ですか?


 

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