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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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27.探し求めていたもの


 男は、満足そうに肩をすくめると、一歩だけ後ろへ下がった。

 

「じゃあ、あとは頼む」

 

 俺は鰤出刃を手に、オークたちのもとへ向かう。

 

 ――シュッ。

 ――ザシュッ。

 ――ブシュッ。

 

 特に、瀕死のオークたちが変異種へと変化することもない。

 親玉であるオークキングが現れることもない。

 拍子抜けするほど――

 あっさりと。

 俺は、鰤出刃で次々とトドメを刺していった。

 そして――

 

 シュウウウウ……。

 

 見慣れた白い煙が立ち上り。

 

 ポンッ!

 

 そこに現れたのは――

 豚汁と、豚カツ。

 ……そして、豚丼だった。

 

「……っ!」

 

 思わず、豚丼へ駆け寄る。

 豚丼。

 豚丼だ。

 だが、俺が真っ先に注目したのは、

 艶のあるタレが絡んだ豚肉――ではない。

 その下。

 

 ――米だ。

 

 豚丼だとしたら、この下には、きっと米がある。

 具だくさんの豚肉の隙間から、少しだけ顔を覗かせた、白い粒。

 確かに。確かに、そこには米があった。

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 俺が感動に浸っていると、背後から、やけに弾んだ声が飛んできた。

 

「やったぞ! これは――“とんかつ”ではないかっ!」

 

 思わず振り返る。

 そこには、黒ずくめの男が、赤い目をきらきらと輝かせながら、豚カツの皿を抱えて立っていた。

 俺が男を見ていると、男が顔を上げ、視線が絡む。

 すると男は持っていた豚カツの皿を、押し付けるようにリリーへ渡し、笑顔のまま、こちらへ駆け寄ってくる。

 

「ありがとうっ!」

「……え?」

 

 ガシッ!

 両手を掴まれ、満面の笑みで礼を言われた。

 

「……えっと」

 

 状況が飲み込めないまま、固まる俺。

 男は、ぎゅっと手を握ったままだ。

 距離が、近い。

 思った以上に。

 

「いやぁ、本当に助かった!

 まさか、一発でとんかつを出してくれるとは!」

 

 赤い目が、子どものように輝いている。

 ついさっきまで、オークを指一本で撃ち落としていた男とは思えない表情だった。

 

「い、いや……俺は、ただ倒しただけで……」

 

 ――いや、正確には。

 倒したのはこの人で、

 俺は倒れたオークを刺しただけなんだが。

 

「それがいい!」

 

 被せ気味に言われ、言葉を遮られる。

 

「倒した“だけ”で、とんかつを出すなんて、

 素晴らしすぎる!」

 

 男の視線が、ちらりと俺の背後へ向く。

 

「……それに、他の二つの料理も、どんなものか分からないが、とても美味そうだ」

 

 その瞬間、俺の手を握る手に、力がさらにこもった。

 

「最高ではないか!」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 よく分からないまま、

 褒められた気がして、とりあえず礼を言う。

 

「ちょっと」

 

 いつの間にか、リリーがすぐ横に立っていた。

 次の瞬間。

 ずばっ、と。

 男が握っていた俺の手を、手刀で切り離す。

 

「リリス! 何をする!?」

「“何をする”は、こっちのセリフよ!」

 

 リリーは、きっと目を吊り上げ、男を睨みつけた。

 

「いきなりオークを召喚するわ、フェルンさんを戦わせるわ……!」

「だから俺が攻撃して、フェルンには最後以外、働かせなかっただろ?」

 

 男は首を傾げながら反論する。

 だが、リリーは止まらない。

 

「それに、なにフェルンさんの手を握ってんのよ!?」

 

 男は目を丸くし、ぱちぱちと瞬きをした。

 そして――

 

「なるほど。

 さては、俺がフェルンの手を握ったのが、

 羨ましいんだな?」

 

 そう言いながら、再び俺の手を掴み、

 さらには、俺の肩にまで腕を回してきた。

 

「ちがうわよっ!!」

 

 乾いた音がした。

 次の瞬間、俺の肩に回されていた男の腕が、

 リリーによって、勢いよく払い落とされる。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 リリーは、完全に怒っていた。

 

「フェルンさんは、あんたの実験台でも、おもちゃでもない!」

 

 その言葉に、男は一瞬だけ動きを止める。

 赤い目が、細くなった。

 

「そもそもは――お前がいけないんだぞ」

「な、何よ……」

「最初からお前が、ちゃんとフェルンを“誘惑”しておけば……って、これはさっき言ったな」

 

 自分で自分に突っ込み、

 男はコホンと軽く咳払いをする。

 そして、

 

「オークキングのトドメを、ちゃんとフェルンにやらせれば、さらにオークを倒す必要なんてなかったんだ。

 せっかくオークキングを喚び出したのに、それを無駄にしやがって」

 

 男の赤い目が、すっと細くなる。

 空気が、重くなった。

 肌に、じりっと圧がかかる。

 胸の奥が、締めつけられる。

 

 ――まずい。

 

 そう思ったのは、一瞬だった。

 

「ちょっと! 魔力、弱めて!」

 

 鋭い声が飛ぶ。

 次の瞬間、張りつめていた圧が、すっと引いた。

 息が、戻る。

 

「……悪い、悪い。

 つい、魔力が漏れちまった!」

 

 その言い方が、まるで“力を使った自覚がない”ようで、余計に怖い。

 正直……死ぬかと思った。

 

「別に……無駄には、なってはないわよ」

「あ?」

 

 リリーの言葉に、

 男が目を丸くする。

 

「私がトドメを刺しちゃったせいで、“料理”にはならなかったけど、

 オークキングからは“オークキングの肉”がとれたのよっ!」


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