表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/29

26.青い炎の広間


「……で、俺に何をさせようとしてるんだ?」

 

 俺はリリーを背に庇ったまま、男に問いかけた。

 その問いが意外だったのか、男は一瞬きょとんとした顔を見せる。

 だが、すぐに破顔した。

 

「おお! 引き受けてくれるのか!?」

「……拒否権なんて、ないんだろ?」

 

 男の正面に立って、ようやく理解する。

 ――この男は、強い。

 それも、桁違いに。

 軽薄で軽快な態度に紛れて、今まで見落としていた。

 だが、立ち姿には一切の無駄がない。

 視線の運びにも、隙がなかった。

 そして何より――

 その身に纏う“気配”が、これまで感じたことのないものだった。

 

 『オークキングを召喚した』

 

 にわかには信じがたい発言だ。

 常識的に考えれば、荒唐無稽もいいところだろう。

 だが。

 この男なら――

 本当に、やってのけたのかもしれない。

 そう思わせてしまうだけの何かが、

 確かに、この男にはあった。

 男は腕を組んだまま、目を閉じる。

 

「うーん。出来れば、オークを何匹か仕留めて欲しいんだが……」

 

 ……は? オーク??

 オークキング――ではなく、ただのオークのことを言っているのか?

 目の前のこの男なら、オークどころか……先ほど俺たちが必死に倒したオークキングでさえ、一人で倒してしまいそうな気がする。

 なのに、なんで……

 わざわざ俺に?

 そんなことを考えているときだった。

 

 きゅるるるぅぅ……

 

 この場にはあまりにも場違いな、気の抜けた音が響き渡った。

 思わず振り返る。そこには、腹を押さえたリリーがいた。

 

 沈黙。

 

「だから……見ないで下さいってば!」

「ぶはっ!」

 

 叫ぶリリーに、男が吹き出す。

 腹を抱えて笑う男とは対照的に、リリーは耳まで真っ赤になっていた。

 

「ち、違いますから!

 今のは、その……偶然で……!」

 

 必死に言い訳する声が、空回りする。

 俺は何も言えず、ただ視線を逸らした。

 ――この状況で腹の音は、きつい。

 笑っては可哀想だと必死に堪える一方で、

 男は遠慮なくひとしきり笑ったあと、涙を拭うような仕草をしてから言った。

 

「いやー、ウケたわ。

 まあ、オークキングとやり合った後だと、腹も減るわな」

 

 そう言ってから、ふっと表情を引き締める。

 

「……でだ」

 

 空気が、再び張りつめた。

 

「オークを何匹か、って話だが――

 やっぱり嫌か?」

 

 その声には、強制するような響きはない。

 だが、輝くような赤い瞳に、意識を引き寄せられる。

 考えるよりも先に、自然と言葉が口をついて出た。

 

「……いや、別にそれくらいなら」

 

 思わずしてしまった承諾だったが、今の俺なら……ただのオーク程度、苦戦せずに仕留められるだろう。

 

「そうか、ありがとな!」

 

 男は、満面の笑みを浮かべた。

 

「そうとなれば、早速……!」

 

 ――パチンッ!

 

 乾いた指鳴らしが響く。

 次の瞬間、俺たちの足元に、見覚えのある魔法陣が浮かび上がった。

 

「これは……っ!」

 

 ピカッ!

 ――視界が、青く弾けた。

 

 一瞬、上下の感覚が失われる。

 内臓がふわりと浮いたかと思った次の瞬間、

 足裏に、確かな感触が戻った。

 

「……っ」

 

 思わず息を詰める。

 そこは、大広間だった。

 だが、先ほどまでいたダンジョンとは明らかに違う。

 広い。

 そして――異様なほど、静かだ。

 水滴の音も、風の流れもない。

 生き物の気配が、まるで感じられなかった。

 嫌な静けさ。

 壁には、青色の炎を灯した松明が、等間隔に並んでいる。 

「ここは……?」 

 声を出したつもりだったが、

 音は吸い込まれるように消えた。

 そのとき、袖が引かれた。

 振り返ると、

 リリーが無言で俺の服を掴んでいる。

 顔色が、さっきよりも白い。

 俺は何も言わず、

 一度だけ、頷いた。

 大丈夫だ、と伝える代わりに。

 男は周囲を見回しながら、満足そうに言った。

 

「いい場所だろ。

 ここなら、余計な邪魔も入らねぇ」

「……オークは、どこだ」

 

 問いかけると、男は笑った。

 

「焦るなって。

 今――喚んでやる」

 

 ――喚ぶ?

 

 そう思った瞬間、

 男が再び、パチンッと指を鳴らした。

 今度は足元ではなく、広間の天井に、魔法陣が浮かび上がる。

 次の瞬間。

 白く光った魔法陣の中から、

 三匹のオークが、落ちてきた。

 

「「「プギィィィ!!」」」

 

 雄叫びを上げるオークたち。

 俺は即座に、鰤出刃を構える。

 

「な……っ!

 いきなり、何てことするのよ!」

 

 男を睨みつけるリリー。

 だが、男は気にする様子もなく、肩をすくめた。

 

「まあまあ。

 好きな男の前で、そんな怒鳴るなって……」

「そんなんじゃありません!」

 

 リリーの声が響いた、その直後だった。

 

「ぷぎぃぃぃ!」

 

 一匹のオークが、風を纏って跳ねた。

 一直線に、こちらへ突っ込んでくる。

 その時、横にいた男が何気ない仕草で手を上げた。

 

 ――ジュッ!

 

 次の瞬間。

 指先から放たれた一筋の赤い光が、突進してきたオークの小さな白い翼を、正確に貫いた。

 

「ぷぎっ!?」

 

 オークは悲鳴を上げる間もなくバランスを崩し、床へと叩きつけられる。

 俺が呆気に取られている、その間に。

 男はすでに、残りの二匹へと視線を向けていた。

 

 ――ジュッ。

 ――ジュッ。

 

 ほとんど同時に放たれた赤い光。

 二匹のオークもまた、抵抗らしい抵抗もできず、次々と床へ落ちていく。

 

 静寂。

 青い炎の揺らめきだけが、広間を照らしていた。

 男は、満足そうに肩をすくめる。

 

「ほらな。

 これで、簡単に倒せるだろ?」 

「……あ、ああ」

 

 俺は、短く頷いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ