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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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16.鰤出刃の力と、彼女の違和感

「フェルンさんっ!」

 

 リリーの叫び声が聞こえた瞬間、反射的に身体を捻った。

 すぐ横を、灼熱の火の玉が唸りを上げて通過する。


 ボンッ!


 爆発音が弾け、直後に、

 

「グギァッ!」

 

 グレートウルフの断末魔が響いた。

 視線を向けると、グレートウルフの死骸から黒い煙が立ち上っている。

 焼け焦げた臭いとは、どこか違う煙だった。

 次の瞬間――


 ポンッ!

 

 小気味いい音とともに、グレートウルフの姿は、銀色の毛皮へと変わっていた。

 俺がその戦利品を持ち上げたところへ、後方にいたリリーが歩み寄ってくる。

 

「やはり……鰤出刃でトドメを刺さなければ、普通のドロップアイテムになりますね」

「みたいだな」

 

 リリーが魔法を使えることを告白してくれたことで、戦闘は格段に楽になった。

 そして、そこで一つ気づいたことがある。

 鰤出刃を使っていても、リリーの魔法で倒した敵のドロップアイテムは、料理ではなく通常の物になる。

 さらに、試しに最後を俺が短剣で仕留めてみても結果は同じだった。

 鰤出刃でどれだけ大きなダメージを与えていようと、トドメが鰤出刃でなければ、あのドロップアイテムがすべて食べ物や飲み物になる特殊な性能は発揮されない――そういうことらしい。


 それにしても――

 

「リリーの魔法は凄いな。助かるよ」

 

 鰤出刃のおかげで本来より格段に強くなったとはいえ、この階層の魔物は強敵だ。

 リリーが魔法を使えることを打ち明け、実際に使ってくれるようになったのは、本当にありがたい。

 

「私がしていることは、サポートに過ぎません」

 

 リリーは軽く首を振ったあと、まっすぐ俺を見つめた。

 

「凄いのは、フェルンさんですよ。鰤出刃の性能はもちろんですが、この階層の魔物を軽々と倒すなんて……本当に強いんですね!」

 

 きらきらとした笑顔でそう言われて――俺は、素直に喜ぶことができなかった。

 リリーは俺のことを「強い」と言ってくれたが、そんなことはない。

 俺の“強さ”は、鰤出刃の力だ。

 鰤出刃を手にするまでの俺は、何の力もないただの荷物持ちで、雑魚スライムにさえ苦戦していた。

 ドロップアイテムが料理になるという、かなり特殊な性能もさることながら、鰤出刃の本当の凄さはそんな弱かった俺が、まさかグレートウルフを楽々と倒せるようになった点にある。

 鰤出刃を使えば――

 どこを斬れば一番ダメージを与えられるのか。

 どう動けば、敵の攻撃を避けられるのか。

 まるで前世で、毎日のように魚を捌いていた頃のように、自然と敵を“捌けて”しまう。


 ――それは俺の力じゃない。

 すべて、鰤出刃の能力だ。

 

 そんな自虐的な考えに沈んでいた、その時だった。

 リリーが腕を組み、考え込むような仕草を見せたあと、ポツリと呟いた。

 

「私の魔法……なんだか違う気がするんですよね」

「え?」

「褒めてくれてありがとうございます。でも、昨日から……いつもと何かが違う気がするんです」


 そう言って、リリーは自分の手を見つめた。

 

「何かが違うって……」

 

 リリーは不思議そうに首を傾げる。

 

「私も上手く説明できないんですが……実は、昨日の夜に【クリーン】を使った時から、ずっと違和感があって」

「な……っ! なんですぐに言わなかったんだ!?」

 

 鰤出刃のおかげで、俺は強くなった――そう思っていた。

 でも、それはどうやら、ただの思い上がりだったらしい。俺は、仲間の不調に気づけなかった。

 

「もし調子が悪いなら、無理をさせなかったのに……っ」

「違います!」

 

 俺の言葉を、リリーがきっぱりと遮った。

 

「調子が悪いのではなく、逆です。調子が良すぎるんです!」

「……え?」

 

 思わぬ言葉に、思わずぽかんと口を開けてしまった。

 

「昨日……【クリーン】を使った時に、少し感じてはいたんです」

 

 リリーは言葉を選ぶように、一度視線を落とす。

 

「このダンジョンのように、水がまったくない場所で水魔法を使う場合、通常より多くの魔力が必要になりますよね」

「ああ……」

 

 そのことは、魔法を使えない俺でも知っている知識だ。

 だからこそ、昨日――身体を綺麗にするだけでなく、寝袋にまでクリーンを使ったリリーの行動に、俺は驚いたのだ。

 

「フェルンさんと私、それから寝袋と……」

 

 指を折りながら、リリーは続ける。

 

「私は昨夜、クリーンを三回使いました」

 

 そこで、ほんの少し言葉を切った。

 

「でも……魔力が減った、という感覚が、あまり無かったんです」

「……それで?」

 

 促すと、リリーは小さく頷いた。

 

「昨日は色々なことがあって緊張もしていましたし……。

 朝起きて、スープを温めるために火魔法を使った時は、いつも通りだったので……」

 

 自分に言い聞かせるような口調になる。

 

「昨夜の感覚は、私の勘違いだと思っていたんです」

 

 だが――

 

「でも……先程のグレートウルフとの戦闘で、確信しました」

 

 リリーは顔を上げ、真剣な眼差しで俺を見る。

 

「やはり、魔力が減った感覚が少なくて……」

 

 一拍置き、はっきりと告げた。

 

「それに――威力もです。いつもより、明らかに強力な魔法が出せていました」


 

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