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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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14.伝説の剣


 リリーは少しだけ身体を起こし、寝袋の中からこちらを見た。

 眠そうに目をこすりながらも、きちんと俺の言葉を待ってくれている。

 

「……ドロップアイテムについて、ですか?」

「ああ」

 

 一度、息を吸う。

 

「今日見せたのは……俺のスキルだと思っただろ」

 

 リリーは小さく頷いた。

 

「はい。正直に言うと……とても、驚きました」

 

 やっぱり、そうだよな。

 

「実は――」

 

 そこで、言葉を区切る。

 どこまで話そう……。

 だが、何も言わないわけにはいかない。

 

「あれは……俺自身のスキルじゃないんだ」

「……え?」

 

 リリーは小さく声を漏らしたが、その後は急かすこともなく、黙って俺を見つめていた。

 俺は上半身だけ起こすと、アイテムボックスから鰤出刃を取り出す。

 

「あの……食べ物ばかりがドロップする、特殊な能力――」

 

 緊張で、思わず唾を呑み込む。

(こんな話を……信じてもらえるだろうか?)

 だが、手にした鰤出刃から視線を逸らすと、俺を見るリリーと目が合った。

(……大丈夫。この子なら、きっと)

 覚悟を決め、続ける。

 

「実は、俺のスキルじゃなくて……この鰤出刃のおかげなんだ」

 

 少しの沈黙。

 やがて、リリーが口を開いた。

 

「鰤出刃……?」

 

 首を傾げる。

 

「それが、その剣の名前なのですか?」

 

 そう言われて、はっとする。

 ――そうか。この世界では、料理人以外が包丁を見る機会なんて、ほとんどない。

 まして鰤出刃など……いや、そもそも“鰤”という魚が、この世界に存在するかどうかも怪しい。

 

「これはな、剣じゃなくて……包丁なんだ」

「包丁?」

 

 リリーは、きょとんとした表情で聞き返す。

 

「包丁って……料理に使う、食材を切るための道具ですよね?」

「ああ」

 

 リリーがゆっくりと身体を起こす。

 そして鰤出刃をじっと見つめたかと思うと、はっと顔を上げた。

 

「これって、もしかして……っ!」

「……え?」

「フェルンさんが元々愛用していた物じゃなくて、このダンジョン……この階層で手に入れたものですか!?」

「……あ、ああ」

 

 その勢いに押されつつ、頷く。

 するとリリーは、目も口もぱかりと開いた。

 

「それって……台座に深く刺さって、誰も抜くことができなかった――伝説の剣ですよね?」

「いや……だから、包丁だって」

 

 思わず即座に否定した。

 確かに切れ味は抜群で、結果的に強力な武器にはなっている。

 だが――

 包丁は包丁だ。

 包丁が、伝説の剣なわけがない。

 リリーは、しばらく鰤出刃から目を離さなかった。

 まるで、そこに刻まれた何かを読み取ろうとしているかのように。

 

「……でも」

 

 ぽつりと、そんな声が落ちる。

 

「台座に刺さっていた、という点は一致しますよね」

「一致はしてるけどな」

「しかも、誰も抜けなかった」

「……いや、俺は抜いたぞ」

「えっ!?」

 

 嫌な予感が、じわじわと背中を這い上がってくる。

 

「抜けないかと思ったが、柄を掴んだらあっさり抜けた」

「……」

「驚いたくらいだ」

「……そんな、馬鹿な……」

 

 リリーは俺から鰤出刃へと視線を戻し、じっと見つめたまま、真剣な声で言った。

 

「あの剣は……誰も……

 普通の者には、触れることさえ難しかったんです」

「ええ? 俺は――」

 

 そこで、あることに気づく。

 俺は、何の問題もなく鰤出刃に触れ、地面に突き刺さっていたそれを引き抜いた。

 だが、その前に――

 鰤出刃を見つけた瞬間、自然と口から出た“鰤出刃”という名前。

 そして、日本で生きた――かつて料理人だった俺の記憶。

 日本人としての記憶を思い出す前の俺――フェルンは、

 普通の包丁さえ触ったことも、まともに見たこともなかった。

(もしかして……鰤出刃を扱えたのは、前世の記憶が影響しているのか?)

 

「――では」

 

 考え込む俺をよそに、リリーが静かに続けた。

 

「ドロップアイテムが通常の物とは異なり、

 食べ物ばかり出るのは……フェルンさんのスキルではなく、この鰤出刃の性能なんですね」

「ああ……たぶん、そうだと思う」

 

 頷きながら、続ける。

 

「元々持っていた短剣でもスライムを倒したが、その時は……

 食べ物や飲み物じゃなく、普通にスライム液が出たからな」

 

 リリーは頷くと、顎に手をやり、しばし考え込んだ。

 やがて――そっと口を開く。

 

「フェルンさんは……勇者なんですか?」

「…………は?」


 

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