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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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12.初めてのプリン、初めての強制洗浄


「……な、なんですか……これは……っ!」

 

 念のためセーフティーエリアに戻り、落ち着いて食事を摂ることにした俺たちだったが――

 

 リリーがプリンをひと口食べた、その瞬間。

 まるで世界の理そのものを疑うかのような声を上げ、リリーが叫んだ。

 

「どうした? なんか問題があったか?」

 

 俺は声をかけながら、もう一つ残っていたプリンを手に取る。

 スプーンですくい、口に運んだ。

 

「……なんだ、普通に美味いじゃないか」

「普通じゃありませんよっ!!」

 

 間髪入れず、鋭いツッコミが飛んでくる。

 

「こんなに美味しいもの、初めて食べましたっ!」

 

 声を震わせながら言い切るリリーは、両手でプリンの容器を抱え込み、じっと見つめていた。

 まるで、二度と手放してはいけない宝物を見つけたかのように。

 

「おお、リリーはプリンを気に入ったのか。良かったな」

 

 そう言いながら、俺は自分のプリンを少し持ち上げる。

 

「だったら、これも食べるか? まだひと口しか食べてないし、やろうか」

「えっ! 本当ですか?」

 

 一瞬で、ぱっと顔が輝いた。

 

「ありがとうございます!」

 

 俺の手からプリンを受け取ったリリーは、満面の笑みを浮かべる。

 その表情は、さっきまでの混乱や疲弊などを、すべて吹き飛ばしてしまったかのようだった。

 ――が。

 次の瞬間、はっと我に返ったように、リリーは肩を揺らす。

 

「って、そうじゃなくってですねぇ!」

 

 自分で自分にツッコミを入れながら、頭を抱える。

 

「おかしいんですって! ダンジョンで! しかも魔物を倒した直後に! こんな……こんな……!」

 

 言葉を探すように、プリンと俺を交互に見てくる。

 

「……美味しすぎるデザートが出てくるのおかしいんです!」

「そうか?」

「そうです!」

 

 きっぱりと断言するが、その手はしっかりとプリンを抱えたままだった。

 ……気に入ってもらえたようで、何よりだ。

 

 最初こそビクビクとし、借りてきた猫のように大人しかったリリーだったが――

 美味しいものを食べ、俺の戦闘……というか、俺のドロップアイテムを見るたびに、その印象は少しずつ変わっていった。

 相変わらず敬語ではあるものの、遠慮がちな態度はすっかり消えていた。

 それが、悪い気はしなかった。

 

 ◆◇◆

 

「……おかしい……やっぱり絶対におかしいです……」

 

 食事を終え、寝る準備のためにアイテムボックスから寝袋を二つ取り出していると、背後からリリーの小さな呟きが聞こえてきた。

 俺はそのまま、さらにもう一つの物を取り出す。

 ――洗浄の魔導具。

 使用回数は、残り一回。

 身体を一瞬で綺麗にできる、なかなか貴重なアイテムだ。

 今日は戦闘が多かったせいか、身体にはうっすらと不快な感触が残っている。

 だが、寝袋すら持っていないと言っていたリリーが、洗浄の魔導具まで用意しているとは思えなかった。

 となれば、選択肢は一つだ。

 

「リリー」

「はい」

 

 振り返った彼女に向かって、俺は洗浄の魔導具を軽く放る。

 驚きつつも、リリーは慌ててそれを受け取り、両手で持ち上げた。

 

「何ですか、これ?」

「洗浄の魔導具だよ。あと一回分残ってる」

「洗浄の……魔導具……?」

 

 リリーは手の中のそれを、まじまじと見つめた。

 小さな筒状の道具は、触っただけでは何の反応もない。

 

「使い方は簡単だ。蓋を開けて、魔力を少し流すだけ」

「え、ええ……?」

 

 戸惑いながらも、リリーは言われた通りに蓋を開けた。

 だが、中を覗くだけで、それ以上の動きを見せない。

 

「どうした?」

「あの……これ、一回分だけなんですよね?」

「ああ」

 

 無言になるリリー。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「……フェルンさんの分は?」

「え?」

「フェルンさんの分は、ちゃんとあるのですか?」

 

 思わず、ギクリとする。

 目を逸らしたくなる俺とは対照的に、リリーはじっと俺を見つめると、大きく息を吐いた。

 

「いりません」

「だが、一日中ダンジョンに居て、汗もかいたし……」

「私なんかより、フェルンさんの方がずっと戦ってましたよね」

「……」

「汗も、魔物の体液も、たくさん浴びてました」

 

 確かにその通りではある。

 だが、女の子を風呂なしにするわけには……。

 

「フェルンさん」

 

 リリーに呼ばれ、顔を上げる。

 

「少しの間……息を止めてください」

「……え?」

「早くっ!」

 

 強く言われ、わけも分からないまま息を止める。

 その次の瞬間――

 

「【クリーン】」

 

 リリーがその言葉を発したと同時に、ふわりと柔らかな光が広がった。

 微かな温もりとともに、それは俺の身体を包み込む。

 

「……これ……っ!」

 

 思わず声を上げかけた、その瞬間。

 

「――ぶはっ!!」

 

 水中で息を吸おうとした時のような、急激な息苦しさが喉を締めつけた。

 

「……っ! ゴホッ、ゴホッ!」

「フェルンさん!?」

 

 次の瞬間には、その気配は消えていた。

 堪らず咳き込む俺のもとへ、リリーが慌てて駆け寄ってくる。

 

「息を止めるように言ったじゃないですか! 何をやってるんですか、もうっ!」

 

 ぷりぷりと文句を言うリリーをよそに、自分の身体を確認する。

 ――汗の感触が、ない。

 服に残っていたはずの汚れも、不快なべたつきも。

 まるで、最初から存在しなかったかのように消えている。

 

「……っ」

 

 思わず、小さく息を呑んだ。

 

「……リリー、これって……」

「クリーンの魔法ですよ」

 

 リリーは、何でもないことのようにそう答えた。

 

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