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伝説の剣は鰤出刃でした ~元料理人がダンジョンで覚醒し魔王を餌付けしてしまった話~  作者: よつ葉あき


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11.ズーの焼き串


「――よし。これくらいで、いいかな?」

 

 俺は床に落ちていたペットボトルを拾い上げ、鰤出刃と共にアイテムボックスに収納した。

 刃が消えると同時に、張りつめていた空気がゆっくりと緩んでいくのを感じる。

 

 周囲を見回す。

 この区画にいた魔物は、さっきのでおおよそ片付いたはずだ。

 警戒すべき気配もなく、足元に転がっているのは――倒れた魔物の死骸ではなかった。

 

「な……何がどうして、そうなるんですか!?」

「え?」

 

 声を上げたのは、もちろんリリーだ。

 振り向くと、彼女はその場に立ち尽くしたまま、目の前の光景を理解できずにいる様子だった。

 そんなリリーの手には……串焼きが一本、しっかりと握られている。

 

「お、串焼きは初めて見たな」

「これは、ズーの群れからドロップした……って、そうじゃなくてですね!」

 

 勢いよく言いかけてから、はっと我に返り、リリーはぶんぶんと首を振った。

 ちなみに“ズー”というのは、大きな鳥型の魔物だ。

 鋭いくちばしと強靭な脚力を活かした突進を得意とし、基本的には群れで行動する。

 数が揃えば厄介で、油断すれば冒険者が押し切られることも珍しくない。

 ……まあ、その「普通」は、どうやら俺には当てはまらなかったらしい。

 この区画にいた魔物は、俺が鰤出刃で片付けてしまった。

 そして――その結果。

 床のあちこちに、串焼き、パン、果物らしきもの……と、様々な食べ物が転がっていた。

 血の匂いの代わりに、香ばしい匂いが漂っているのが、どうにも異様だ。 

(……ちょっと、やりすぎたか?)

 

「なんでフェルンさんが倒した魔物は、全部食べ物に変わるんですか!?」

 

 リリーの悲鳴じみたツッコミが、がらんとした区画に響き渡る。

 

「え?」

 

 俺は足元に落ちていた焼き魚を拾い上げ、首をかしげた。

 手に取ると、表面にはしっかりとした焼き目がついている。

(本当に、何でだろうな?)

 

「普通、魔物って魔石とか、素材とか、そういうのを落としません!?」

「そうだよな」

「ですよね!?」

 

 勢いよく同意を求められたので、素直に頷く。

 

「でも、ほら」

 

 俺は焼き串をひょいと持ち上げる。

 まだ温かいのか、微かに湯気が立っていた。

 

「焼き立てだぞ」

「そこじゃありません!!」

 

 間髪入れず、鋭いツッコミ。

 反射神経だけは、もはや熟練の域だ。

 

「しかも、なんで調理済みなんですか! 誰が焼いたんですか! どうやって焼いたんですか!」

「不思議だよなぁ。なんで焼けてるんだろうな?」

「不思議だよな、じゃないです!! それで済ませていい話じゃないでしょう!」

「生のままじゃ食えないし、焼けててくれて助かるだろ?」

 

 理屈としては、間違っていない。

 少なくとも、実用面だけを見れば。

 その瞬間、リリーはついに限界を迎えたようだった。

 頭を抱え、その場にしゃがみ込む。

 

「おかしい……おかしすぎます……ダンジョンって、もっとこう……血と汗と涙の場所じゃ……」

「腹も減る場所だろ」

「そうですよ! でも普通はお腹が減っても、干し肉くらいしか食べられないはずなんです!」

 

 俺はドロップしたばかりの串焼きを、遠慮なくひと口かじる。

 噛むと、香ばしさと肉汁が口の中に広がった。

 

「お、この串焼きも焼き鳥みたいで美味いな」

「聞いてます!? 私の話、聞いてます!?」

 

 必死な叫びとは裏腹に、リリーの視線が串焼きにちらりと向いた。

 本人は気づいていないつもりだろうが、あまりにも正直だ。

 俺はそれを見逃さず、手に持っていた焼き鳥串を、彼女の前に差し出した。

 

「ほら」

「……なんですか」

「さっきから気になってるだろ」

「気になってません!」

 

 即答。

 だが、視線は串から一瞬たりとも離れていない。

 

「冷める前に食え。焼き立てだぞ」

「……」

 

 数秒の沈黙。

 否定と誘惑が、静かにせめぎ合っている。

 やがて、リリーは観念したように、そっと串を受け取った。

 そして――

 

 ぱくり。

 もぐ。

 

「……っ」

 

 もぐ、もぐ。

「……」

 無言。

 

「どうだ?」

「…………」

 

 リリーは一度目を伏せ、ゆっくりと噛みしめるように飲み込んだ。

 

「……とても、美味しいです……」

 

 悔しさが滲んだ、小さな声だった。

 

「だろ?」

「だろ、じゃありません!!」

 

 即座にツッコミは復活する。

 どうやら、味と理性は完全に別枠らしい。

 ……と、そのとき。

 床の端で、きらりと光るものが目に入った。

 俺が近づいて拾い上げたのは――

 

「……プリン?」

 

 小さなガラス容器に入った、つるんとした黄色い物体。

 軽く揺らすと、ぷるん、と心なしか嬉しそうに揺れる。

 

「……プリン? プリンって、何ですか?」

 

 プリンを見つめる俺を、リリーが不思議そうに覗き込んできた。

 そういえば、この世界でプリンを見たことはなかった。

 というか、甘いお菓子やデザートは基本的に高級品で、庶民が気軽に口にできるものじゃない。

 

「プリンっていうのはな……デザートだ」

「デザート!? なんでデザートまであるんですか!?」

 

 間髪入れず、ツッコミが飛ぶ。

 

「おかしいでしょう! ダンジョンで! プリンって!」

「甘い物もあった方がいいだろ」

 

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