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消えた聖堂騎士

 もうここ最近だけでも何度目かの夜半過ぎのコール。

 ユカリはまだ眠っていなかった。今日は日中のほとんどを寝こけていてあまり眠たくなっていなかったからである。

 コールの相手は……最近連絡先を交換したばかりの聖堂騎士メイスンだ。

 もうこれだけで何かあったのだという事は出る前からわかる。


『遅くに申し訳ない。西方教会のリチャードだ』


「こんばんは。……何があったの?」


 既にユカリの声は普段のほんわかしたものではなくなっている。


「クリスティンが……いなくなった。あんたが何か知っていないかと思って連絡したが……」


 反応から既に望みが薄い事を悟ったのだろう。

 メイソンの声は語尾がわずかに掠れてた。


 反対に頭にカッと血が上ったのはユカリである。


「ちょっ……何やってんのよ! 私のクリスティンに!!」


「いやお前のではない」


 それが素なのか慌てているが故なのか、ユカリの妄言に馬鹿正直に返答してしまうメイスン。


「何かわかったら連絡が欲しい。こちらは町を探してみる」


 了承を伝えてユカリが通話を切る。


 これは本日も徹夜かな……と外出のための身支度をしつつユカリからも二箇所に連絡を入れた。


 一人はジェレミーだ。

 あの白い王様はクリスティンの顔も知っているし言葉も交わしている。

 夜も活動をしているらしいから協力も要請しやすい。


 もう一人はシズク。

 こういう時は何だかんだ言ってもお巡りさんは頼りになる。

 シズクはクリスティンと面識が無いので彼女の特徴を詳細に伝える。

 とはいっても身長だけでかなりの目印になるだろう。


 二人に連絡をし終えるとユカリは夜の町へ飛び出していく。


 ……しかし残念ながらこの夜の捜索では彼女を発見する事はできず、また仲間たちからも有力な情報がもたらされる事はなかったのであった。


 見つかったものは……破壊された彼女のスマホ。

 それが落ちていたのは繁華街からはやや外れた一角の裏路地だったという。


 ────────────────────────


 ……数時間前。


 和食のお店で海老天重を堪能したクリスティンは次の店へと向かっていた。

 目的の店へと急ぐべく近道(ショートカット)をする。

 そうして彼女が裏路地へ足を踏み入れて歩いていると……。


 無言で三人の黒い東洋の服の男たちが立ち塞がった。


(まさか……まさか!!)


 冷たい目で見てくる青白い顔の男たちにクリスティンもまた顔色を失う。


(今日ですか!? 今、今なんですかぁ!!?? ききき、貴重なオフにッッ!! 私の幸せな食べ歩きの時間に……!!!?)


 背後から複数の足音が聞こえる。

 振り返って確認してみるまでもなく彼女の鋭敏な聴覚が人数と相手のある程度の体格までを分析し終えている。


 後ろからは六人……。

 前後九人で挟み撃ちされたのだ。


「ククク……すっかり怯えちまってんじゃねえか。これが本当に噂の聖堂騎士サマなのか?」


「どんだけ泣き叫ぼうが助けは来ねえよ。せいぜい無駄なあがきは……」


 毒蛾の男たちが嘲笑う。

 その揃いの黒装束の前方の三人の内の一人が……唐突に後方に吹き飛んだ。


「ブへぇッッ……!!!???」


 顔面を激しくひしゃげさせながら吹き飛んだ男は地面に叩き付けられてそのままゴロゴロと転がった。


「どうしてくれるんですか。これでどれだけあなた達を素早く片付けたってその後報告書の作成とかで今日はパーですよ。貴重な!! お休みが!! なくなっちゃうじゃないですか!!!」


 震える拳を握り締めて涙目でクリスティンが怒っている。


「チッ!! この女ッッ!!!」


「油断すんなッ!! 囲め!!!」


 殺気を漲らせ、クリスティンを取り囲む毒蛾の紋章の男たち。

 そんな彼らを不機嫌そうに口をへの字に結んで冷めた目で見ている聖堂騎士の娘。


「……オイ、待て」


 最初にクリスティンに殴り飛ばされた男が立ち上がってくる。


 ……首が完全に折れてしまっている。男の頭部は後方へ反り返り目線が上を向いてしまっている。

 殴られた頬は肉が無残に抉れ、真っ赤な内部が覗いてしゅうしゅうと白い煙を上げていた。


「仲間外れにすんじゃねえよ」


 そう言って首のひん曲がった男が自分の頭を両手で掴み無理やり元の位置に戻すと押し付けるようにグイグイと力を入れた。


「……こんなもんか」


 それで首を元に戻してしまったらしい男が包囲に加わってくる。


「まだちょっと曲がってるぜ」


「いいよ。微調整は後でやる」


 顔面が若干斜め前を見てしまっている男が血で汚れた口元にニヤリと残忍な笑みを浮かべた。


「コイツを黙らせてからな」


 その言葉を合図にしたかのように黒装束たちは一斉に、四方八方からクリスティンに襲い掛かった。


「全員で掛かれッッッ!!!!」


「隙ィ見せんなよ!!! 武器を()ばれるぞ!!!」


 群がる無数の黒い男たちを迎え撃つクリスティン。


「……あーもうッ!!」


 ズガン!! と正面から来た男の頭に肘を落とす。

 頭部が砕けた男が激しく血を撒き散らしながら地べたに倒れ付す。


「めんどくさいですね!!!」


 またも肘。今度は逆の腕。

 斜め後ろから来た男の横っ腹に当たる。

 それで男の腹の中身はミキサーに掛けられたかのようにグチャグチャになった。


「えーいッッ!!!」


 二人の男の後頭部をそれぞれ鷲掴みにしてシンバルのように胸の前でぶつけ合わせる。

 顔面が砕けた男二人を投げ捨ててから後ろに向かって背筋を思い切り伸ばす。

 背後から飛び掛ろうとしていた男が顔面に彼女の後頭部を食らって吹き飛んだ。


 嵐のような猛攻をそれを上回る暴力の化身と化して蹴散らすクリスティン。

 彼女も無傷というワケではない。

 無数の小さな傷を負いそこから男たちの持つ神経毒が身体に入り込んでいる。

 それでも彼女は意に介さない。

 聖堂騎士クリスティン・イクサ・マギウスは止まらない。


 無敵か。戦神の化身か。

 だが男たちも怯むことなく攻撃を続けている。

 顔面を潰されようが首が折れようが心臓が吹き飛ぼうが……それでも起き上がってきて再度襲い掛かってくる。


 怯まず、負傷に鈍る事も無くタフな攻防は続いている。

 これは千日手になるか、と……そう思われたその時。


「……!!!」


 首の後ろにチクリと傷みを覚えてクリスティンが手で押さえた。

 痛み自体は非常に微細なものであったが、それが何か感化できない不吉を自分にもたらす事を彼女は直感的に察したのだ。


「ゲヒヒッ……やったぜ」


 背後にいた下卑た笑いを浮かべる黒装束の男。

 その手には注射器が握られている。


 それを確認した瞬間、クリスティンの視界がグニャっとゆっくりうねった。


「その薬は特別製よ。お前だって無効化はできねえ」


「…………………」


 全身に染み込んで、内に満ちていくかのような寒気。

 それすらもすぐに感じなくなり、変わって彼女の意識を閉ざしてこようとするのは重たく鈍い眠気だった。


 ……ダメだ。落ちる。

 耐え切れない。

 クリスティンの脳裏に思い浮かんだいくつかの横顔。


(メイスンさん……ごめんなさい)


 それから、つい最近知り合ったばかりの笑顔が印象的な綺麗な顔の女性(ひと)


(ユカリ……さん……)


 そのイメージを最後にとうとうクリスティンが地面に崩れ落ち、うつ伏せに倒れる。


「フゥ……ようやくかよ。なんて女だ……バケモンだな」


「よし、頭がお待ちだ連れて行くぜ」


 しゃがんで肩を貸すようにクリスティンを持ち上げて立たせる黒衣の男。

 ぐったりとした長身の彼女が無理やりに立たせられる。


「まァ、待ちなよ。俺らこんだけやられて、ハイ素直につれて来ましたってのもあんまり愉快な気はしねえだろう」


「ククッ、そうそう、ちっとくらいは役得がなきゃあよ」


 数人の男たちが顔を見合わせて下卑た笑いを浮かべていた。


「生きてさえいりゃいいだろ? 連れてくのは()()してからにしようぜ」


 ひひひひ、と陰鬱な笑い声を響かせながら男たちが去っていく。

 最後列の男が落ちているクリスティンのスマホを踏み付けて破壊していった。


 そうして路地裏から全ての人影は無くなり……。

 後には壊れたスマホが一つ落ちているだけとなった。


 ────────────────────────


 昼間のカフェ。

 オープンテラスの席で顔を合わせている四人の男女。


 その内の一人……眉を顰めて不機嫌そうなメイスンがフーッと長い息を吐く。


「仕方が無い。クリスティンはロストしたものとして任務を続行する。これ以上の捜索は無意味だ。皆の協力には感謝する」


 深く頭を下げるメイスン。


「……ちょあーっ!!」


「痛い!!!」


 ベシッ!!! と結構派手な音を立ててメイスンの頭部に炸裂するユカリさんチョップ。


「ユカリ、吸血鬼(ヴァンパイア)を相手取れば遺体が発見されない事は珍しい事でも何でもないんだ。騎士団の規定でもいなくなって十二時間が経過した場合、捜索の優先度は大幅に下がる」


 頭を押さえながら言うメイスンに納得がいかない様子のユカリの鼻息は荒い。


「当日の彼女の足取りは追えている。スマホの見つかった場所で襲われたらしいという事は疑いようが無い」


 スマホに送られてきている情報を見ながら話しているシズク。

 どの時間帯にどこの店にいて、何を注文したかまでの詳細なデータである。


(何をどうすりゃこんなに胃に入るんだ?)


 自分なら一週間分くらいの食事量だ。

 そうは思ったがこの場で口にする事もないかと思って黙っているシズク。


「こんなにお腹に入れて大丈夫なものなの?」


 ……しかし転送したユカリが口に出してしまっていた。


「これでも彼女にしてみれば控え目にした方だ」


 驚愕の情報を告げるメイスン。


「うらやましいですね。自分は……普通の定食でも食べきれないことがあるので」


 それはそれで小食すぎるジェレミー。


「我々、超人(オーバード)……それも聖職者の血肉は連中にとって大きな滋養となる。捕われた以上は高確率で食われてしまったと考えるべきだろう。あの場で食われてしまっている可能性もある。つまりは彼女が食べたこの天麩羅の海老が巡って奴らの胃に入ったという事であり、これで奴らをブチ殺して海老に食わせれば食物連鎖が完成したと言……」


「やかましいっての」


 動揺しているのかおかしな事を言い出したメイスンの脳天に再びバシーン! と思い切りチョップを叩き込むユカリさんであった。

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