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侵食、夜行者たち

 五人の男たちが夜の繁華街を歩いている。

 全員がスーツ姿でネクタイは締めているものの、彼らを見て堅気と思う者はいないだろう。

 全員が「悪」と「暴」の冷たい雰囲気を纏った男たちだった。


「なんだよ、煌神町(こっち)の方が随分栄えてやがるじゃねえか」


「ああ、もっと早くに来りゃよかったな」


 煙草を吹かしながら言葉を交わしている男たち。

 共にナンバーで呼び合う名前の無い吸血鬼(ヴァンパイア)たちだ。

 ネオンの輝きを受けた黄色く濁った目が不気味な光を発している。


「よし、この辺で当面の俺たちの拠点(ヤサ)を探すとするか」


 先頭を歩いていた黒いリーゼントの男が振り返った。

 彼の名はアイザック。

 遠い昔に闇の眷属たちの王国(ダークキングダム)で公爵位を授かっていた四人の一人だ。


「最初からあまりデケえ(とこ)を狙うんじゃねえぞ。大事にしちまうと警察(サツ)だなんだと面倒なモンが割り込んできやがる……」


 アイザックは咥えていた煙草をプッと吐き出すと靴底で踏み消した。


「くくッ、わかってるよ」


「とりあえず適当な下っ端(チンピラ)見つけてぶっちめんべぇよ」


 ギラギラと獰猛に目を輝かせながら笑い合うと男たちは夜の街にバラバラに消えていった。


 ────────────────────────


 また、早朝からスマホが鳴った。

 なんとなく取る前から嫌な予感のするユカリさん。

 この時間に鳴るスマホでいい話だった事が無い。


 ……そして、この日の連絡もその例外となることはないのだった。


「……なんですって? ケンカ? はぁ」


 またかよ、という顔でユカリが嘆息する。

 連絡はジンパチが昨夜盛り場でケンカして病院に担ぎ込まれたという話だったのだ。

 電話を掛けてきたのは所轄の警察官だった。


「それをどうして私に? はい、ええ……アイツの希望で。なるほどわかりました」


 心底どーでもいいんですけど、とは流石に掛けてきてくれた警察官に言える台詞ではない。

 聞き終えて礼を言ってユカリは通話を切った。


「ったくもう、何よアイツ。何で私に自分がやられた連絡を……」


 そこで言葉を切るとユカリは何やら考えている。


「どうしたの?」


「んー……なんかね、昨日ジンパチが盛り場でケンカして病院送りにされたらしんだけど、それを私に連絡してきたのよね」


 ユカリがヘンな顔をしているので気になったらしいルクシエル。


「へぇ、アイツがね。アイツもまあまあやるし、相手は結構な強さなんじゃないの?」


 表情は変わらないが多少は驚いているらしいルクシエル。


 ……そうなのだ。そこはユカリも同意見だ。

 ジンパチはキリヲとの特訓を経て何だかんだまあまあの強さの戦士に成長している。

 ユカリ基準の超人(オーバード)の強さランクとしては……。


(中の上か、上の下くらいかな)


 と、そんな感じだ。

 そのジンパチをボコボコにしたというのなら相手はかなりのものだ。まず超人(オーバード)だろう。


「……私に泣きついてくるような奴じゃないし。だとしたら何か言いたいことがあるのかも」


「そうだね」


 ルクシエルが肯く。彼女のジンパチ評も似たような感じらしい。


「はぁっ……! しょーがないわねもう! 朝ごはん食べたら行ってくるか~。ルク、こっちの常識が疑われない範囲でなんか嫌がらせになるお見舞いのアイテムない?」


「急に難しい事聞くね。写経の道具一式でも持っていったら?」


 ユカリの無茶振りに半眼で返事をするルクシエルであった。


 ────────────────────────


 昨晩の事。仕事を追えたジンパチが住まいである安アパートへと帰ろうと歩いていた時の事だ。


「ン……?」


 ふとパンキッシュな男は足を止める。

 彼の鋭敏な聴覚が捉えたのは誰かの悲鳴だった。

 微かなその音を頼りにジンパチが路地裏に顔を出すと……。


「……おらッ! どうした、兄ちゃんよ!! さっきの威勢はよ!!」


 スーツ姿の大柄な男が倒れている別の男の腹を何度も蹴っている。

 蹴られている男には見覚えがあった。パンチパーマにジャンパー姿のその男はこの辺一帯を縄張り(シマ)としているヤクザ組織『黒麒会(こくきかい)』の三次団体に所属している男のはずだ。


 見ればもう一人別の男も倒れている。

 そちらもやはり蹴られている男と同じ組の組員で、意識がないようでピクリとも動かない。


「やめろや! 死なせちまうぞ!!」


 たまらずに割ってはいるジンパチ。


「あァ? 何だてめえはよ……。トーシロじゃなさそうだが面白半分で首突っ込んでくりゃ怪我じゃ済まねえかもしれねえぞ?」


 ポケットに両手を突っ込んだままジロリとジンパチを睨んだスーツの男。

 髪型は黒のオールバックで小さなツリ目に低い鼻、そして厚めの唇の男だった。

 あまり整っているとはいえない容姿が内面から滲み出ている凶暴さのせいで尚更醜悪に見える。


 この男のナンバーは5522……公爵アイザックとつるんでいる四人の吸血鬼の内の一人だ。


(なんだコイツは? なんつー不気味で冷たい気配をさせてやがんだ。超人(オーバード)じゃねえみたいだが……)


 内心で眉を顰め、警戒しつつもジンパチが5522の前に立った。


「ケンカすっとサーラやマムに怒られちまうっつーのによ……」


「そいつぁ可哀想にな……でも心配する必要はねえ」


 ゆっくりとポケットから両手を抜いてそのまま前傾姿勢になった5522がファイティングポーズを取った。


「これはケンカじゃねえよ。イジメられましたって報告するんだな」


 握り拳を二つ並べたその先で……5522が不気味に笑った。


 ────────────────────────


 一時間後、繁華街の一角にアイザックと仲間たちが集まっている。


「………………」


 釈然としない表情の5522が痣になっている右の頬を手で摩っていた。

 そうこうしている間にも痣はみるみる消えていってなくなってしまう。


「何よ、おめえもやられてんじゃねえかよ」


 7199がそんな5522を見てニヤニヤと笑っている。


「ああ。人間にしちゃ妙に骨のあるのがいてよ」


「例の超人(オーバード)か? そんなあちこちにいるもんなのかよ。噂じゃかなりのレアモンって話なのによ」


 銀色のオールバックで頬に斜め傷の男、5001が眉を顰める。


「何だろうが構いやしねえよ。叩き潰せば一緒だろうが。……しっかりやってきたんだろうな?」


 ギロリと剣呑な視線を向けてくるアイザックに5522が肯く。


「心配いらねえよ。しっかり泣き見せてきたからよ。殺しもしてねぇ……しぶといんで面倒くさかったぜ」


 軽く肩をすくめながら言う5522に満足げに肯くアイザック。


「それならいいがよ。……さて種蒔きも終わった事だし後は連中がケジメ取りにくんのをゆっくり待つとしようぜ。飲みながらよ」


 歩き出すアイザックに従う四人。

 そうして男たちは夜の街に溶けていくかのように消えていった。


 ────────────────────────


 病室のドアを開けたら……嫌な感じだった。


「フンッ! フンッ! フンッ!!」


 逆立ちをしながらその状態で腕立てをしている金髪の箒頭。

 上半身裸体の彼からは湯気が立ち上っていて床には汗が水溜りになっている。


「……帰ってもいい?」


 挨拶よりも先にその言葉が思わず口に出てしまっていた。


「おッ!? 姐さん!! さーせん気が付きませんで!!」


 ジンパチはトレーニングを中断すると慌ててパイプ椅子を持って駆け寄ってきてユカリの前にそれを広げて置いた。


「さあ姐さん! お掛けになってくだせえ!! いやぁわざわざ来て頂けるとは(オトコ)、カツラギ……感激の極みっスわ!!」


 わはは、とジンパチが照れ笑いしている。


「骨とかメチャクチャ折れてて内臓も結構ヤバいって聞いてきたんだけど……」


 今朝方連絡をよこしてきた警官の話じゃ面会謝絶で辛うじてユカリに連絡をしてくれ、という呟きだけが聞き取れましたみたいに聞いているのだが……。


「みたいっスねえ。俺、治りがはえーんで!」


 何でもない事のようにジンパチが笑っている。


 その状態の負傷からの回復速度としては超人(オーバード)としても異常だ。

 財団総帥(ギャラガー)ほどの魔力量があるというのなら話は別だが……。

 この男は超人(オーバード)ではなく妖怪か何かではないのかと思うユカリさん。


 はぁ、と嘆息しつつやや乱暴にパイプ椅子に腰を下ろすユカリ。


「……で、何? 何か私に言いたいことがあったんでしょ?」


「ああ、そうそう、それなんスよ。俺が昨日やられたヤツなんスけど、ミョーなヤツで……。めっちゃくちゃツエーんですけど、どうにも超人(オーバード)ってわけでもなさそうで得体が知れないんスわ。こりゃぁ姐さんにもお伝えしておかねーとって」


 ジンパチの話を聞きながら黙っているユカリ。

 呆れ気味だった半眼はそのままだが瞳の光が冴えていく。


「どうして超人(オーバード)じゃないって思ったの?」


「んんっ……なんつーんですかねぇ? バトルになると特によくわかるんスけど『あ~コイツ超人(オーバード)だな』ってわかるあの独特の感覚がなかったっつーか……。代わりに寒気がするようなイヤーな感じがありましてね。ああいうのは俺、初めてで上手く説明できねえんスけど」


『アタシ以外の二人の公爵がこの火倶楽に入ってるわ』


 ユカリの耳の奥にパープルの言葉が蘇った気がした。


「姐さんのお住まいともそんな離れてねえですからね。どうかお気をつけて……」


「ありがとう。話はわかったわ。じゃあ、あんた元気そうだし私も仕事があるから帰るわね。はいこれ、お見舞い。入院生活退屈だろうから読んでもらおうと思って買ってきたんだけど不要だったわね」


 紙袋を出すユカリに目を輝かせたジンパチ。


「んなことはねえっスよ!! (オトコ)、カツラギ……姐さんの持ってきてくださったモンなら謹んで拝読させていただきやす!!」


 へへー、と頭を下げながら両手で恭しく紙袋を受け取るジンパチ。


「……サーラちゃんにあんまり心配させるんじゃないわよ。それじゃお大事ににね」


 たしなめる様にユカリが言うとジンパチはヘヘッと照れ笑いしている。

 そんな彼に軽く手を振ってユカリは帰っていった。


「さて? 姐さんはなんの本を持っていてくれたんだ? やけにズシッとするけど、これ……」


 頭を下げてユカリを見送った後で紙袋を開けて中を覗き込むジンパチ。

 ……そこには法律関係の分厚い本が入っているのだった。

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