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和平の使者?

 ゼウス・カグラ本社ビル上部階層、戦略会議室と銘打たれた一室。

 そこはブラッドレインの超人(オーバード)たちの集合場所である。

 広い室内には中央に会議用の円卓がある他は豪奢なリビングフロアといった趣で内装が施されている。

 集まった者たちが思い思いに寛げる空間だ。


 だが現在この部屋を覆っている重苦しい空気の中ではリラックスするのは難しいだろう。

 部屋の中で適度にばらけているブラッドレインのメンバーたち。

 共通しているのは皆陰鬱な表情で身にまとった空気がピリピリしているという事だ。


 そんな中で一人、天河マキナだけが漫画雑誌を読みながらけらけら笑っている。


「……………」


 しかめ面で親指の爪を噛んでいたスーツ姿の中年男性が椅子から立ち上がった。

 最年長のメンバー、財津マナブだ。

 一人だけ他のメンバーと一回り近く年齢が離れている彼は特に親しくしている者もおらずメンバー内で孤立しがち。そして内心ではその事で鬱憤を溜めている。


「なぁ、何かの間違いなんだろ? カイ君……リーダーがやられたっていうのはさ。ありえないよな?」


 全員の顔色を窺うかのように部屋を見回してマナブが言う。

 その言葉に室内の他の超人(オーバード)は動きを止めた。

 まるで一瞬時が止まったかのように。


「……知らねぇよ。俺だって今朝聞かされたばっかだぞ」


 不機嫌そうに言って再びスナック菓子を食うために手を動かし始めた堂丸リキヤ。

 長浜ケイスケと儀仗トモエの二人は会話に加わる気がないようでそれぞれ手にした文庫本とスマホに視線を戻した。


「おっす。……なんや、集まりええやんけ」


 そこへ扉が開いて新たに一人が入ってきた。

 鷲塚ガモンだ。

 これでリーダー以外の全員が集合したことになる。


「ワシヅカ君、リーダーは……」


 一度椅子に座りなおしていたマナブだが、ガモンが入ってきたことで再び腰を浮かせた。

 そんな彼に向けて軽く片手を上げたガモンが動きを制する。まぁまぁ、みたいな感じでだ。


「わかっとるから、ちょい落ち着きましょうや」


 一瞬不機嫌そうに表情を歪めたマナブだが黙って座り直す。

 そしてガモンはどう事実を皆に伝えるべきか、それを思案するかのような間を作ってから口を開く。


「あーっと……キミらも聞いてる通り、昨日リーダーがやられてもうたん。まだ目ぇ覚ましとらん。病院のベッドの上や」


 結局彼は努めてなんでもない事のようにしれっと告げることにしたらしい。

 だがそれはショックの緩和にはあまりならなかったようだ。


 会議室の全員が沈黙する。

 聞こえてくるのは誰かがかけたPCに接続されているスピーカーから流れている明るい曲調のトレンド曲だけだ。


「……誰だよ。誰がやった?」


 一分近くも経ってからようやく口を開いたリキヤ。

 興奮のためなのかそれとも別の要因か……その語尾は微かに震えているように聞こえた。


「お前がモメた黒羽の事務所の関係者やで、リッキー」


 そのリキヤを横目で見ながらガモンが言う。

 これは最近何かと指示を破って暴走しがちなリキヤに対する牽制とイヤミだ。

 少なくとも彼は直近でも二度指示を無視して暴走している。

 布場ケントの時と比良坂ミレイの時。


「おッ、俺のせいだって言うのかッッ!!」


 声を荒げて立ち上がる巨体。


 実際のところ今回久我峰カイが黒羽事務所の緒仁原トウガと戦闘になって敗れたことにリキヤは直接の関係もなく原因でもない。

 カイは無関係と思われた超人(オーバード)と接触を試みてトウガと遭遇することになったからだ。


「ドアホ、そんなん言うてへんわ。ワシは事実を言うただけや」


 ……が、それはそれとしてガモンは前々から苦い思いをしていた彼の暴走に関してこの機会に釘を刺す。

 そうではないと否定はしつつも今のはあからさまにリキヤが原因だというように聞こえる言い方であった。


「これでわかったやろ。ワシらまだ全方位にケンカ売ってやってけるほど厳つい集団やないねん。チョーシ乗って方々に敵を作りまくっとったらいずれどん詰まりや」


「どうするんだ……これから。活動は続けるのか? リーダーがやられてしまってるんだぞ」


 マナブは露骨に逃げ腰になってしまっている。


「マナブさん、ワシらこれまでイケイケでやってきてますやん。一発かまされて大人しゅうなりおった思われたら一気にやられますわ。守り入ったらあかんで」


 マナブにガモンが鋭い視線を向ける。

 この年上の男の性根についてはガモンはある程度看破している。

 風向きが怪しいとなれば逃げだしかねない。

 そっちの道も地獄であることを警告しておかなくては。


「ただ攻めの姿勢は崩さん言うてもこれまで通りのやり方はでけへん。もっと頭使て立ち回らんと。とりあえず黒羽とは手打ちや。あそことこれ以上モメてもしゃあない。元々黒羽はデカい後ろ盾(ケツモチ)がおるわけでもあらへん。独立部隊みたいなもんや。距離取って放っときゃええねん」


 ブラッドレインの最終的な目的は、この火倶楽の表の権力を掌握することだ。

 その為には特定の勢力に属する超人(オーバード)たちを支配下に置きさえすればいいわけで、突かなければ反応しないフリーの強者は放っておけばいい。

 黒羽探偵事務所はそういったフリーの勢力である。


「おいおい、仕切るじゃねえかよ。お前が新しいリーダーなのかぁ? ワシヅカよぉ」


 先ほどの仕返しのつもりかおどけつつも言葉に毒を含ませて笑うリキヤ。


「誰かがやらなあかんからやっとるだけや。他にやりたいもんがおんなら喜んで譲るで」


「え~? いいじゃん、わっしーで。折角やってんだからさ~」


 珍しくこういった話題に口を挟んだマキナ。

 相変わらず視線は漫画雑誌の誌面に置いたままではあるが……。

 ガモンがやった事でマキナが同意したというのであればそれ以上口を挟む気はないのか若干の不満を残した様子を出しつつもリキヤが黙る。


「どうせリーダーが目覚ますまでの間や。せいぜい数日間やろ」


 そう言って肩をすくめるガモンであった。


 ─────────────────────────────────────


 賑やかな表通りからは一本入った静かな路地。

 そこに立つのはちょっとボロっちい雑居ビル。

 その二階にあるのがミレイが預かる黒羽探偵事務所である。


 現在、ミレイは所長代理として事務所に一人の客を迎えていた。

 茶髪のストレートのショートボブの若い男。

 スレた感じの悪ガキをそのまま大人にしたといった印象の彼は驚くべきことに自身をブラッドレインのメンバーであると告げた。


 その男……鷲塚ガモンを応接用のソファに座らせてミレイが応対する。

 すぐ近くにはトウガが椅子に座って偉そうにふんぞり返って足を組んでおり、更にはキリエが何故だか所長の椅子に座っている。

 流石にこの布陣であればこの男が相当の手練れであったとしても恐れるところではない……と、思うのだが。


「せやから、ワシらとしてはここで手打ちにしたいねん。不幸なすれ違い言うか、なんちゅうかあってんけど、あんたらもトコトン殺りあいたいちゅうわけでもないやろ? それやったらもうこの辺で平和的に解決しましょうや」


「……え、えーっと」


 頬が引き攣ってしまっているミレイ。

 とにかくこのガモンという男……よく喋る!

 この結論に行き着くまでにどれだけ話が脱線したか。


「ボスがやられたからっていきなり随分と殊勝なこったな。……で? おめぇは手打ちの土産に何を持ってきてくれたんだ? それで俺らを納得させられんのか?」


 デスクチェアのキャスターをガーッ滑らせて脇から腕組みをしたままズイッと出てくるトウガ。

 スゴみのある笑みでガモンを見ている。


「そら当然これですがな」


 ガモンはそう言うと持ってきたスポーツバッグを自分とミレイを隔てているローテーブルの上にドスンと置いた。


「ゼニやで。ゼニで話付けましょうや。こんなわかりやすい誠意、他にあらへんやろ?」


 言いながらスポーツバッグのジッパーを開いて中を見せつけてくる。

 ……メチャクチャ札束が入っている。


「よし! いいだろう手打ちだ!!!」


「ちょっと……!!! トウガ!!!」


 思い切り金に釣られたトウガに非難の声を上げるミレイ。


「決めるのは私でしょう! 今は出てこないで!!」


「だ、だってお前こんな金……こんだけあったらお前……!!」


 スポーツバッグを抱き込もうとする大男。

 そこには先日あの久我峰カイを破った勇ましい格闘家の姿はない。

 ひたすらにみっともない。


「これだけで納得するわけにはいきません。貴方たちの事を話してもらいます」


「話せることならな。流石にそれは何でもかんでもちゅうわけにはいかんで」


 ふふ、と不敵に笑うガモン。

 先ほどからこの男の態度には余裕が感じられる。

 敗者の側で停戦交渉に来た使者のそれではない。


「まず、貴方がたはどういったグループなんですか? 紅い雨で覚醒した超人(オーバード)の集団っていう事は知っているけど。所属と目的は?」


「……………」


 ガモンの口元から笑みが消え、彼は何か考えている様子だ。

 頭の中で話せることとそうでない事を整理しているのだろう。


「……ま、ええやろ。ワシらはゼウス・カグラ社所属の超人(オーバード)や。目的はまあ、上司の指示で会社の利益になる事をあれこれやっとる。企業お抱え言うたら大体想像つくやろ」


 表情には出さないようにしつつ、内心で驚いているミレイ。

 想像よりもかなり大きなバックだ。


「何人で、どんな人がいるの?」


「それは喋らん。仲間の話はせえへんで」


 即座に断って首を横に振る日焼けした茶髪の男。


「そんかし、ワシ自身の話はしたる。ワシは槍使いや。せやけど今日はなんも持ってきとらん。争うつもりはないねん。これも誠意や」


「……………」


 確かにガモンが持ってきたものは札束の詰まったスポーツバッグのみ。

 しかし、ミレイは疑っている。

 この事務所の近くに、あの廃校舎の空間を作ることのできる能力者が彼の槍を預かった状態で待機しているのではないか? と。


 ただその疑問をぶつけても押し問答になるだけだろう。


 ……………。


 数時間後、停戦で話をまとめたガモンが黒羽の事務所を後にする。


「……なんであんなバケモンが二匹もおんねん。場末の調べもの屋にいてええ連中やないやろ、あれは」


 ボロっちいビルを振り返って見上げて肩をすくめるガモンであった。

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