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ガモちゃんは前向き

 どことも知れぬ闇の異空間。

 灰色の雲が立ち込める暗い空。時折雲間から顔を覗かせる青白い三日月に照らされる聳え立つ白い朽ちかけた校舎。

 ここはブラッドレインのメンバーの一人、長浜ケイスケの異能力『学校の怪談(ホーンテッドスクール)』によって作り出された空間だ。


 結界の創造主は今そこに一人の超人(オーバード)を引き込んだ。

 その男は廊下に寝かされている……虫の息だ。

 胸部に無残な凹みを作った彼は久我峰カイ。


 そして廊下にはもう二つの人影がある。

 ケイスケともう一人別の男のものだ。


「……よっしゃ、死んどらんな。ほんならもうワシらの勝ちみたいなもんやで」


「勝ち……かなぁ?」


 屈んでカイの状態を確かめ、息がある事を確認してから立ち上がった褐色の肌の茶髪の男、鷲塚ガモン。

 ケイスケは神経質そうに眼鏡の位置を直しながら少々疲れた様子でため息を付いた。


 ケイスケとガモンは予め工事現場の近くに潜んでいたのである。

 これはカイは与り知らぬことだ。

 ガモンの発案であり、彼はケイスケを同行させた。

 もしもの事があった時にこうやってリーダーを脱出させるためである。

 その彼の用心は功を奏してカイの救出には成功したものの……。


「だけど……ぼくらはこれからどうすればいいんだ? リーダーは負けてしまった」


 ケイスケの表情も声も沈んでいる。

 当然といえば当然だ。

 結局のところ自分たちは力を……戦闘力を拠り所とした集団である。

 中でもカイは一人卓絶した魔力量を誇る無敵のリーダーであり、ブラッドレインの象徴であった。

 その彼が敗れてしまったのだ。

 カイでダメとなれば他の誰がいってもダメだろう。


「アホ、そんなもんどうとでもなるやろ。ワシはそもそも(はな)っから何もかんも上手くいくとか思ってへんわ。考えてもみいや……ワシら超人(オーバード)の世界に入門してまだ四年しか経ってとらんド新人(ペーペー)やで? この業界にはウン十年とやってきとる連中がゴロゴロおる。中には数百年モノ、下手すりゃ千年モノだっておるやろ。そういう世界や」


 ジロリと剣呑な視線を向けられてケイスケがゴクリと喉を鳴らす。


「無敗のままいけるわけないねん。ワシらにとっちゃ無くして困るモンなんて生命(いのち)だけや。生きとんなら丸儲けや。何度だってやり直したらええねん」


「凄いな、ガモ君は。ぼくはとてもそこまで前向きにはなれそうもない」


 ふーっと物憂げに息を吐き出すケイスケ。


「鴨みたいに言うなや」


 そんなケイスケにイヤそうな顔をするガモンであった。


 ────────────────────────────────────────


 小柄な男が物陰から飛び出してきた。

 ジャンパーを着て背を丸めたやや出っ歯の中年男である。

 体躯といい挙動といい小動物を連想させる男だ。


「兄貴ィ~! 助かったぜ!!」


 その男に足に抱きつかれたトウガが顔をしかめる。

 どうやらこの男が追われていたという白木カツノリのようだ。


「うおッ、男が抱き付いてくんじゃねえ! おいカツ、お前こちらのお嬢さんに礼を言いな。この人がいなかったら俺だって多分間に合わんかったぜ」


「あぁッ、そうだ! お姉さんどうもありがとうな!! アンタは俺の命の恩人だよ!!」


 ドバッと土の地面にひれ伏してペコペコと頭を下げている小柄な男に、いえいえとミレイが苦笑する。


「てワケで、コイツが俺の舎弟の白木カツノリだ。超人(オーバード)なんだが戦闘(ケンカ)はからっきしでよ。そんかわし他のヤツにはねえ凄い特技を持っててな。役に立つヤローだぜ」


 ……聞けばこの白木カツノリは自身で『かくれひそむもの(ヒドゥン)』と名付けた異能力を持っているらしい。

 名を聞いただけで何となくどういった能力なのかは想像ができる。

 先ほどもその能力を使って工事現場の中で身を潜めていたそうだ。


「その能力を使って散々産業スパイとかやらかしててよ。ガイアードからはメチャクチャに恨みを買ってやがんだわコイツ、がっはっはっは!!」


「………………」


 絶句するミレイ。

 それは統治局へは通報するなと言ってくるはずだ。

 一瞬助けてよかったのだろうかと悩んでしまったが、トウガの知己だししょうがないと割り切る事にする。


「まーそんなワケで早速恩返ししてもらう事にするか。やり取り聞いてたんだろ? ブラッドレインがどこのどういう集まりなのか、ちっとお前探ってこいや」


「がってんでさァ、兄貴」


 トウガの要求に敬礼で応えるカツノリであったが、ミレイは驚いて表情を硬直させる。


「えぇっ、ちょっと……危ないですよ」


 カツノリはたった今そのブラッドレインの魔の手からなんとか逃れたばかりだというのに。


「似たような修羅場は何度も潜ってるさ。それに、本気で危なきゃ今回みてえに俺もフォローに入る。さっき俺がどついた兄ちゃんはまだしばらくは復帰できんぜ。こっちから色々仕掛けるにゃ今がチャンスってわけよ」


 そういう事ならしょうがない……のだろうか。

 100%納得できたわけではないが、自分より年上の男二人が考えて決めた事なのであればそれ以上は意見もしにくい。

 実際ブラッドレインに付いての情報が欲しいというのも事実だ。


 やや不安に思いつつも所長代理として彼らの諜報活動を了承するミレイであった。


 ─────────────────────────────────────────


 ゼウス・カグラ社、社長室。


 社長であるヴィルヘルムがスマホで誰かからの連絡を受けている。

 相変わらず表情のない冷たい目をした彼。その見た目からは機嫌を推し量る事はできそうにない。


「……ああ、報告は受けている」


 表情同様に相変わらずの淡々とした口調。

 機械音声のようだ。アンドロイドではないのかと一部で揶揄されるだけのことはある。

 誰かとスマホで話をしつつも彼の目はノート型PCの画面を流れるデータを追っている。

 二つ三つの仕事を同時にこなすのはヴィルヘルム・ラゴールにとっては常である。


「話が違うな。最大の魔力を持つが故に最強……そういう触れ込みであったはずだが?」


 口調からは判断が付かないが内容からするに彼は苦言を呈しているらしい。

 それに対する弁明なのか……スマホの向こうの相手が何か話しているようだが。

 僅かにスマホから漏れてくる声の調子に慌てた様子はない。


「こちらとしては結果さえ出すのなら誰であろうと構わない。今後の血雨の者たちの指揮はお前が執るのか?」


 それに対する返答。

 その間にヴィルヘルムの指が鍵盤楽器を奏でるかのようにキーボードの上を走る。

 いくつかの決済を部下たちに伝える連絡を入れているのだ。


「……そうか。ここの所お前たちが活動を活発化させた事で各勢力も対抗する動きを見せ始めている。少し慎重に動け。他の者たちを上手く誘導しろ」


 ヴィルヘルムの通話相手はブラッドレインのメンバーの一人である。


 建前では社長と繋がっていて相互に連絡が可能なのはリーダーであるカイのみという事になっているが……現在社長が話をしている相手はカイではない。

 彼は未だに昏睡中だ。


 ……では他の誰が密かに社長と繋がっていて連絡を取り合っているのか。


()()が必要な時は連絡を入れろ。可能な範囲で要請には応える」


 通話を切ってスマホを胸のポケットへ戻すヴィルヘルム。

 それから少しの時間彼は何かを黙考してからデスクの上のヘッドセットを手に取りマイクへ口を寄せた。


「私だ。特殊技術部へ繋げ」


 数秒の沈黙を経て相手が通話に出る。


「例のあれをすぐ使えるように準備しておけ。間もなく使いの者を行かせる。件の超人(オーバード)だ」


 抑揚のない声で指示を告げるヴィルヘルム。

 相変わらずその際には別件のデータを目で追っている社長であった。


 ─────────────────────────────────────────


 事務所に帰ってきたミレイ。

 疲労の為彼女の足取りは重い。

 精神的にも肉体的にもかなり疲弊してしまっている。


 久我峰カイ……ブラッドレインのリーダー。

 彼は恐ろしい相手だった。あの膨大な魔力を思い出すだけでも震えがくる。

 かすり傷をつけるどころか体に攻撃を届かせることもできなかった。

 そんな相手に戦いを挑んで大怪我をしていないだけで幸運だったと言わなければいけないのだが……。


「……?」


 雑居ビルの表の通りで建物を見上げるミレイ。

 事務所には煌々と明かりが灯っている。

 自分が飛び出した時は全員不在だったが、誰かが戻ってきているようだ。


「ただいま……」


 扉を開けるといい匂いがする。

 嗅ぎ慣れた肉と油の匂い。

 若者であれば誰であろうが一時期はお世話になるジャンクな香り。


「あ、ミレイちゃん帰ってきたよ」


「おかえりやし。どこいかはったん?」


 笑顔のアカネ。

 彼女はデスクの上に所狭しとファーストフードのハンバーガーやらフライドポテトやらを並べている。

 適当に笑う元気もなくどんよりとした視線を二人に向けるミレイ。


 散々連絡を入れていたのに……。

 返事をする気力もとっさに湧いてこないのでしょうがないから澱んだ目でキリヲを見る。

 後で聞いたが彼女は煩わしいとスマホの電源を切ってしまっていた。

 キリヲは誰かに行動を束縛されたり現在地を把握されたりする事を嫌うのだ。

 なんとも厄介な性分である。


 二人はあちこちの店の紙袋を持って帰ってきていた。

 察するに二人で買い物に行っていたのか……。

 となればアカネに掛ければキリヲに繋がったというわけか。

 ……まあ、結果論だ。

 荒事の気配がする時にアカネに連絡を入れるという発想はそもそも自分にはなかったし。


「ミレイちゃんの分もちゃんとあるからね~」


 自分の分もあるというか……。

 何人分だこれは?

 三人でこの量を食べろというのは体育会系男子の世界観である。


「これもどうぞ! 限定のやつ!!」


 ……塔だ。

 タワーを差し出された。

 バンズと肉とその他のあれこれで形成された高い塔。

 これは……食べ物なのか?

 間から引き抜いていって誰が崩してしまうかを競うパーティーゲームの類ではないのか?


「………………」


 何とも言い難い気分でタワーの真ん中あたりから揚げた肉を引き抜くミレイ。

 それがきっかけとなって塔は無残に崩壊して崩れ去るのだった。

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