第二十九話
うつ伏せになり肘で支えて上体を少し上に反った宗古は、俺の横に来て早朝まで月のアイコンを注視していた。
宗古と同じ姿勢でスマホを覗き込むと、さらしを取っているので宗古の胸元が視線に入ってくる。
上体を反っているので余計に胸元の二つの膨らみが強調されている。
また下半身に変化が起きそうだったのであわててスマホと宗古から視線をそらした。
「そろそろ夜が明けそうだわ。
スマホで月のアイコンを選んだら声がしないわ。
忍びの月は城外にでたのかも」
「どうやって城内に忍びこめるのだ。いくら忍びの者といっても今は警戒厳重だろう」
「朝になったら城内の出入り口を調べてみましょう」
月の気配が止んで少し安心したのか、宗古を見ると寝息を立てている。
吉川も少し眠った。
朝の鶏の鳴き声が聞こえる。
「忍びの月の声はしないわ。今は城外ね」
宗古は起き上がりさらしを巻いている。
「城の出入り口付近にいるかもしれないわ。城の出入り口を調べに行くね」
吉川は一応短筒が使えるかどうか確認し火縄銃の短筒を着物の中に隠した。
「スマホのレーザ電磁波があれば大丈夫よ」
宗桂のおっさんはまだ寝ている。
城の出入り口付近に来てみると、朝から門番がいて不審者は城内に入れない仕組みになっていた。
城内の出入り口を今度は左から順繰りに見回ってみると、城内への出入り口以外に朝から人出入りがある勝手口を見つけた。
宗古と近づいてみると、商人や運搬人らしき人が出入りしている。
「こんなところから城内にはいれるなら、本出入口に門番をおいて警戒していても無駄だな」
「行ってみましょう」
勝手口に近づいて、城内に入ってみると中は倉庫になっていて城内への通路が倉庫とは別に一つあった。
そこには門番が立っていて商人や運搬人は倉庫までしか行けないようになっていた。
「城の外から来る人は、倉庫までしかはいることができないようね。
そこから城内にはいろうとすると門番に止められそう」
こんどは倉庫の中を見回すと食料や日用品のようなものが倉庫の中に置かれていて、商人や運搬人がひっきりなしに倉庫に物を置いたり、空箱を持ち去ったりしていた。
宗古が門番に何か尋ねている。
後ろから勝吉の姿が見えた。
「お二人、朝早くから運搬の手伝いですか」
宗古はスマホの武器は説明せず、昨夜忍びの月の気配を城内で感じたとだけ勝吉に説明していた。
「普通なら城内へ続く出入口は開いているときには一日中、見張りが見張っており、見張りの更にお国も兵を置いている。
あらかじめ城主の堀尾殿や小那姫様の許可がなければ何人たりとも城内にはいることはできない。
それに普段、夜は閉められている。
また、城内の出入り口にたどり着くまでに虎口で兵や城下にも門と兵を配備しているから、そこから不審者がはいりことは至難の業だ。
忍びの月の気配は幻か何かを見たのであろう」
「勝手口のほうは割と出入りがあるのですか」
「ある。ただ日の入りと日が沈んだら、倉庫も勝手口も閂でしめるから夜中に商人たちは出入りできない」
「そちらは見張りが手薄で、忍び込むことはできませんか。
「勝手口はから城内にはいる通路も見張りがいるから商人たちが出入りできるには倉庫迄だ」
「日が沈んだら、勝手口の見張りはどうなるのですか。誰も出入りできないから見張りは引き上げる」
「倉庫には野菜や生鮮物もあるそうなので、換気孔が倉庫にあると思いますが、そこから出入りできませんか」
「見てみよう」
三人は倉庫の中をぐるりと見回した。
「確かに倉庫の上のほうには換気するための穴があるな。ただ倉庫から換気孔の入るところは非常に狭いし、換気孔は途中で鉄の格子があるから、換気孔から城内に人間がすり抜けはできないな」
宗古は考え込んでいた。
「戻りましょう。考えたいわ」
こうして宗古と吉川は再び宗桂のおっさんの部屋に戻ってきた。
「忍びの月のアイコンから声は聞こえないわ」
宗桂のおっさんは朝食を食べていた。あと二人分の用意もある。
「食べてから考えましょう」
確かに。それと宗桂のおっさんの奥さんについて聞かないと、それから月の小面は結局どこにあるかも考えないといけない。
食事のあと、宗古がおっさんに聞いた。
「そう言えば、母はどこにいるの。私たちが結婚してから一回も姿を見ていないわ」
おっさんが答えた。
「旅に出ている」
ということは、見たことは無いか、このおっさんに奥さんがいるのだ。
まあ、奥さんいないと子供は生まれないが。




