第十一話
家康が浜松城に到着するまで、宗桂のおっさんと男装の宗古、戦国時代では、さつきの名前で女装している吉川は城の下で待機をしていた。
城の虎口出入口付近が騒がしい。荒々しい声がする。
家来と紐で手足を拘束された夜盗らしき人影が現れた。
堀尾吉晴の家来が勝吉に大声で報告している。
「勝吉殿、昨日宗古殿が襲われた夜盗を殲滅し、降伏した夜盗を一人捕まえました」
「ご苦労であった。早速取り調べを始めたい」
想子も参加しようと捕虜に近づくと、勝吉に止められた。
「客人には取り調べを見せられないので、あとで報告させていただく」
「残念ね。首謀者がわかればいいけれど」
宗古たちは追いやられ、勝吉と堀尾吉晴の家来が再び荒々しい声で取り調べを始めた。
首謀者を言えば命だけは助けてやる、というような大声が遠くからも聞こえてくる。
宗古が上のほうを見ている。
すると城内の下のほうから、うっすらと赤い狼煙が見えた。
「火事か」
「調べろ」
「水は」
「煙は、どこだ」
複数の家来の声や移動する足音が城の下にいても聞こえてくる。
虎口近くに算砂がたたずんでいて、月という女が虎口から出ようとしている。
「月、どこに行く」算砂が月に声をかけた。
宗古は吉川と再び、勝吉の近くの捕虜に近づいた。
「そろそろ取り調べが終わったと思うわ」
今度は勝吉に止められなかった。
捕虜は男で、顔がはれ上がっている。
勝吉の前で捕虜はうなだれていて観念した様子だ。
手が後ろで拘束され、着物の前がはだけている。
「金目当てのようだが、首謀者はよくわからない。不思議なことを言っている」
その時、吉川と宗古の間で何本かの何かが横をかすめた。
捕虜が呻く。
「大変だ。
夜盗の足に矢のようなものが刺さっている。
伏せろ」
勝吉が叫んだ。
吉川は宗古に被さり、地面に伏せている美少女を守る体制を取った。
吉川と宗古の近くにまた矢のようなものが飛んでくる風切り音がした。
吉川のすぐ横を通って、捕虜の夜盗の首に何かが刺さった。
夜盗の体が崩れ落ちた。
家来が叫んだ。
「虎口の外に怪しいやつがいるぞ」
三度矢のようなものが飛んできたような気がしたが、勝吉は刀を振り被り、飛んできた矢を切り落とした。
確かに勝吉はすごい剣の腕前だ。勝吉は矢を切り落とせるのか。
虎口の外の怪しい影が遠ざかろうとしている。
家来があとを追う。
「追え。逃すな」
吉川は宗古を見ると、着物の下半身部分に穴が開いていて矢のようなものが貫通したようだ。
「間一髪みたいね。まだキスしてないのに」
不服そうな宗古の身体の無事を確認すると、吉川は血中にアドレナリンが大量に放出してくるのを感じた。
吉川は刑事モードに切り替わり、怪しい人影の足を狙って短筒の火縄銃を発砲した。
「当たった」
怪しい影の足がもつれる。
怪しい影がふらついて立ち止まった。
「追え」家来が追いかける。
そのときどこからか何かが飛んで、怪しい影の背中を通過した。
「怪しいやつが倒れたぞ」
勝吉と堀尾吉晴の家来が、倒れている怪しい人影を確認した。
家来が動かなくなったあやしい人影を抱えて城内に戻ってきた。
勝吉が宗古と吉川に向き合った。
「無事か。敵の襲撃はいったん収まったようだが、捕虜の夜盗も捕虜の夜盗を殺した忍びも死んでいる。
捕虜の夜盗は小さな矢で足と首を刺されている。
忍びは膝にかすり傷があり、後ろから小刀のようなものが背中に刺さっていた。
捕虜の夜盗は忍びにやられたのだが、忍びがどこから誰にやられたのかはっきりしない。
だからまだ警戒を解くわけにはいかない。
早く城内に入ったほうがいい。堀尾殿に報告しなければならない」
宗古が勝吉に聞いた。
「忍びは女ですね」
家来が死体の胸を広げ、股を見た。
胸からは乳房と乳首が見えた。下半身には茂みだけがあった。
「そのようです」
城から別の家来がやってきて、
「狼煙は城の下のほうの厠から何者かがヨモギを香にして焚いたようです。ヨモギの火は消し止めました。
城に出入りする御用達業者の可能性もありますが犯人はわかっていません」
そのとき、虎口に見かけない男が居た。
「小那姫様、居られますか。能楽師の来電でございます」
また月の小面消失のときに居た新たな人物が登場した。
来電の横に、算砂の娘の月がいる。
宗古が吉川に囁いた。
「これで怪しいやつオールスター勢ぞろいね。
私、なんだか異常な興奮に襲われているわ。
今が閨だったら確実に」
勝吉が吉川と宗古を呼んだ。
城内に戻り、堀尾吉晴、小那姫に、状況を報告するようだ。
宗古と吉川は勝吉に付いて行った。




