表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/42

第35話 疑い



「……こんなの、学院に持ち込めるのか」


 ルーカスの言葉が、静かな舞台に落ちた。

 誰も、すぐには答えなかった。

 二センチほどの黒い多面体。

 強化タイルの目地に埋め込まれるようにして割れている。


 小さい。

 けれど、そこに残る気配は軽くない。


 リリアはしゃがみ込んだまま、それを見つめていた。


「残留波形があります」


 ウェーブマッピングを行い確認する。


「同一系統です……。予行演習で観測した増幅と一致します」


 エリオットが眉を寄せる。


「つまり、これが一つ目か」


「多分」


 リリアはうなずいた。


「少なくとも、外部干渉魔道具(アーティファクト)の一端です」


「一端、ねえ……」


 クラリスが腕を抱く。


「じゃあ、これを見つけたってことは、誰かが埋めたってことよね」


「そうなります」


「学院の中に?」


「断定はできません」


 リリアは即答した。


「ただ、設置には、演習場への接近が必要ですね。一般の学生には難しい」


 ルーカスが低く言う。


「でも、不可能じゃないぞ」


「……そうですね」


 エリオットもそれを継いだ。


「演成会の準備期間は、人の出入りも多い。道具の搬入、舞台点検、教官の立ち会い、上位者の事前確認。紛れ込む余地はある」


 クラリスが顔をしかめる。


「それ、全然安心できないんだけど」


 事実をそのまま置く声だった。


「……で、どうする」


 ルーカスが周囲を見た。


「学院に出すか?」


 みんな沈黙する。


 答えたのはエリオットだった。


「出せば、表向きは調べるだろうね」


「でも」


 視線が割れた黒い多面体に落ちる。


「本当に拾いたいものまで拾ってくれるとは限らない」


「もみ消されるってこと?」


 クラリスが聞く。


「そこまでは言わない」


 エリオットは穏やかに返した。


「ただ、“演習者の過失と管理不備で処理された”事故の続きを、学院がどこまで望むかは別問題だ」


 リリアはそこで、やっと顔を上げた。


「本番まで一日あります」


「もし同じことが起きるなら、もう一度仕掛けられる可能性があります」


「その前に、残りを見つける必要があります」


 ルーカスが息を吐く。


「残りがある前提なんだな」


「はい」


 リリアは迷わなかった。


「一点だけでは成立しません」


「距離と角度が固定されていました」


「少なくとも複数です」


 沈黙。


 風が抜ける。


 観客席のざわめきはもうない。


 残っているのは、空になった演習場と、四人だけだった。


「……本番は予定通り行われると思う?」


 クラリスがぽつりと言った。


 ルーカスが先に答える。


「行うだろ」


「予行の事故だけで中止にはしない」


「そういう場所だ」


 その言い方に、リリアは少しだけ目を細めた。


「なら、止めなければなりません。二度目は……」


 そこで、一瞬だけ言葉が詰まる。


 舞台に倒れたレオンハルトの姿が、頭をよぎったのだろう。


「……二度目は、もっと大きいかもしれません」


 エリオットがリリアを見る。


「誰をを狙っていたと思う?」


 リリアは答えなかった。


 すぐには答えられない、ではない。


 答えを慎重に選んでいる沈黙だった。


「まだ分かりません」


「でも」


 割れた多面体を見る。


「目的はわかりませんが、殿下が止めたことで、結果的に観測対象になった可能性はあります」


 ルーカスの表情が変わる。


「最悪だな」


「はい」


 リリアは静かに言った。


「最悪です」


 その一言だけ、少し感情が入っていた。


 クラリスがそっと息をつく。


「じゃあ、決まりね」


 三人が見る。


「学院に渡すのは、今はやめる」


「でも本番まで黙って見てるのもなし」


「残りを探して、次を防ぐ」


 ルーカスが肩をすくめた。


「お前がまとめるのかよ」


「常識人だから」


「自称だろ」


 小さくやり取りはあったが、誰も反対しなかった。


 エリオットが黒い多面体を布で包む。


「これはとりあえず僕が持つ」


「研究室の保管箱に入れておけば、少なくとも学生の目には触れない。それで、ルーカス君、お父様に連絡して欲しい。指示を仰ぎたい。」


「わかった」


 ルーカスが答えた。


 

 四人は、日が傾くまで舞台の周囲を探した。


 北側。


 西側。


 強化タイルの目地。


 外周の継ぎ目。


 観客席の死角。


 見取り図に沿って、順に潰していく。



 そして、見つかった。


 二つ目。


 三つ目。


 同じ黒い多面体。


 同じように、割れている。


 残留波形も一致した。



「……これで、全部ですね」


 リリアが言った。


「配置としては、これで閉じる」


 エリオットも小さくうなずく。

 

「少なくとも、予行演習で使われた分はこれで揃ったはずだ」


 クラリスがようやく息をついた。


「じゃあ……もう、大丈夫なの?」


 ルーカスはすぐには答えなかったが、やがて低く言う。


「少なくとも、明日すぐに同じことはできないだろ」


 四人は目線を合わせた。


 その時の四人は、たしかに思っていた。


 これで、防げると。


 

ここまでお読みいただきありがとうございます。


明日以降も【毎日20時更新】予定です。


この物語とは別に、違う世界を扱った作品もあります。

もしご興味があれば、そちらも覗いてみてください。


『光を背負った王』〜神力を宿す王太子エルドウルフの戦記〜

https://ncode.syosetu.com/n0410lr/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ