第10章:祈りの後、祈りを(第2部・完結)
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クリスタル:副大統領
緊急の連絡が入った。あの黄金の瞳を持つ青年を残してきた避難所へ、私は引き返さざるを得なかった。
警察の手には余るほどの惨状だった。私と同じく「預言者」であるアリアナは、私の「視界」で現場を再構築してもらうことを期待して、私を呼び寄せたのだ。
背後には特殊粛清部隊を従えていたが、足を踏み入れるのに一秒もかからなかった。そこがどれほどの惨劇に見舞われたのかを察するのに。
最初に目に飛び込んできたのは、軍服を着た青ざめた死体だった。信号機から無残に吊り下げられている。
何十台もの装甲車からドアが開く音が響き、後続の捜査官たちが必死の形相で飛び出してきた。私はその先頭に立っていた。
『惨劇の現場に到着したのだ』
テントは跡形もなく破壊され、物資が周囲一面に散乱していた。
難民たちの遺体は、黒ずんだ大きなシミとなって避難所の隅に何百と積み重なっている。
リスクの低い家族や子ども、無辜の民は、その間に別の場所へ移送されていた。
『だが、何かが決定的に私の精神を苛んでいた』
避難所へ続く入口の扉を開け、見下ろしたその時——
『煙のように爆ぜる灰が、風に乗って揺らめいていた』
避難所の門の前で、アリアナが私を待っていた。
「何があったの?」私は尋ねた。
「分からないわ。私は非番だったから……」素っ気ない返答だった。
「進め!」私はすべての捜査官に命令を下し、現場を接収させた。
「あなたの視界で、何が起きたか確かめられたの?」アリアナに問いかける。
「ええ……試してみたわ……けれど、邪悪で、暗く、深く歪んだ『何か』が、私の視界を強引に引きずり込んだの。不意を突かれたわ。これ以上試す気にはなれなかった……だから、私よりこの状況に適任のあなたを呼んだのよ」
「分かったわ」
私はアリアナを後ろに残し、階段を降りて行った。
難民たちが押し込められ、容易に管理されていたあの低地へと辿り着く。
だがそこは、前代未聞の大屠殺を証言する地獄絵図だった。
切断された腕や脚、干上がって黒ずんだ血液が大地を覆っている。
階級や名前など関係なく、死体が幾重にも積み上げられていた。
だが、何よりも私の目を引いたのは、男子キャンプの入口から始まり、上層の街路を通って隣接するビルの屋上へと伸びている一本の巨大な「亀裂」だった。
『あのビルには、両側を貫通する巨大なクレーターが穿たれている』
『避難所の防護壁に叩きつけられ、押しつぶされた肉塊』
『崩落し、あるいは半壊した壁』
すべてが物語っていた。男用キャンプの内部から、恐ろしいほどの暴力的な力が解き放たれたのだと。
『アリアナは言っていた。「何かが視界を引きずり込んだ」と』
『私まで引きずり込まれるのだろうか?』
私は、その唐突な衝撃の起点と思われる場所へ意識を集中させた。
『私の視界が、制御を失って激しく引きずり込まれ始めた』
『一瞬だけ、かつて私を魅了したあの黄金の瞳が見えた』
『だが、すべては内臓を絞り出すような咆哮によって断ち切られた』
(「俺が……!! ヒーローだ……!!!」)/ i ! AM ! THE ! HERO !!!
『そして、すべてを覆い尽くす漆黒のシミ』
『その轟音がこれ以上視界を引きずり込むのを許さず、私は能力を強制停止した』
私の精神感応能力で、ここで起きた殺戮を再構築しなければならなかった。
視線を脇へ向けると、避難所の横にまだ新しい3つの死体が、黒いシミとなって横たわっていた。肉体そのものは存在せず、風に蒸発してしまったかのような人間の残骸だった。
『私はもう一度試みた』
(「俺こそが、破壊の象徴だ……!!!」) / I AM THE FACE OF DESTRUCTION!!!
『一瞬で引きずり込まれる』
『重ね合わさった黒い影のせいで、鮮明には見えない』
『けれど、捉えることはできた』
『再び視覚を停止させた。引きずり込まれる力が強すぎて、その歪んだ存在の内部へと飲み込まれそうだったからだ』
『……ようやく理解した』
強烈なエネルギーの衝撃が、複数の軍人たちを壁に叩きつけて押し潰していたのだ。
『すべては、この異常現象から放たれたものだった』
どれほど視界を引きずり込まれようと、この殺戮の現場を一つずつ再構築していく。
ズタズタに引き裂かれた男子キャンプの内部へ足を踏み入れる。その中央には、血を流し尽くして息絶えた一人の青年が横たわっていた。誰かが布切れを詰め込んで、出血を止めようとした痕跡があった。
私は極限まで近づき、能力を発動した。
重なり合う黒い影に急速に覆われていく青年が見えた。影は息絶えた青年の腕を掴んでいた。彼らが交わしていた言葉を聞き取ろうとしたが、異常現象の歪んだ引きずり込みが視界全体を歪ませ、言葉の音声を塗りつぶしてしまった。
(「アアアアアアアッ!!!!」)
即座に脳を麻痺させるような、痛烈な悲鳴。
『私は再び視覚を遮断した』
深呼吸をし……思考を巡らせた。『一体全体、ここで何が起きたというの?』
この場所は、サイオニック(精神感応)異常に汚染されていた。
「出所は分からない。だが、私がこれと似た光景を目にした場所は、記憶の中にひとつしかなかった……」
『そしてそれは、地球(この星)の上ではない』
『一刻も早く、この異常現象の発生源を特定しなければならない』
「私は再び発生源へと意識を戻した。正気を失わないギリギリの許容量まで、視界の引きずり込みに身を任せることにした」
鼓膜を刺すような破壊的な音響が、私の全感覚を麻痺させる。
(「俺は無限に砕け散る空の王だ……!」)/ I am the king of the endless shattered skies!
続いて——
(「俺こそが、繋ぎ止める鎖を断ち切る者だ……!」/ I am the one who breaks the chains that bind!
黒い影の背後で、目に見えない鎖が弾け飛ぶのを感じた。次の瞬間、一撃のもとに、当直の軍人たち全員が血と埃、そして燃え盛る灰となって壁や近隣のビルへと吹き飛ばされ、蒸発した。
だが、その直後——
絶対的な静寂が、 私をその内部へと引きずり込んだ。
危険を冒してでも、これで少しは手がかりが得られるかもしれない。
黒い影が私の視界のすべてを乗っ取り、私は永遠の夕暮れが広がるビルの屋上へと辿り着いていた。
視線を巡らせると、彼がいた。
彼の黄金の瞳が私を見つめていた。私は手を差し伸べ、水晶の心臓をその手に委ねていた。私の途切れ途切れの言葉が、街の頂上で風に浚われていく。
「私を変えて……お願い……誓って……」
私の手から、彼へと渡された水晶の心臓。
彼の手がそれに触れた瞬間、視界は唐突に停止した。
胸に手を当てると、私の手の中にその水晶の心臓があった。
『破損した時空間マイクロデバイス』
『質素なペンダントに見えるが, その内部には私だけが知る技術が秘められていた』
『それでも、内側も外側も壊れていた』
私は誰にも気づかれないよう、捜査官たちが命令に従って慌ただしく動いている隙にその場を離れた。
劣悪な状態の列車に乗り込み、できる限り身元を隠した。
数時間後、私はあの見捨てられた場所へと辿り着いた……。
反乱を起こした街からは、電気も水道も、あらゆる人権も剥奪されていた。
さらに数時間徒歩で進み、あの廃屋へと辿り着く。
明かりもなく、人の気配すらない。
私は、ずっとそうであったように、幽霊として戻ってきたのだ。
柱の脇に立ち、背中に夕日を浴びる。
目を開けると、そこに彼がいた。
ひび割れたプールの中にぽつんと座り込み、ただ諦めたように地面を見つめていた。
「調子はどう?」私は尋ねた。
「……」返事はなかった。
「大丈夫?」
「ああ……大丈夫だ」
「ここで何をしているの?」
「奇跡を待ってる……それか、ここで死ぬのを」
「ひび割れたプールの中で死ぬつもりなの?」
「ああ……」
「どうして?」
「留守の間に家を荒らされた……かつて愛したものは、もう何一つ残っちゃいない……ギターすら無事じゃなかった」
「救いを求めるべきだって? 何のために? 神が俺に奇跡を起こしてくれるか、それとも神の腕の中で静かに死ぬかだ」
「避難所へ戻るつもりはあるの?」
涙に濡れ、けれど恐ろしい光を宿した瞳が私を射抜いた。
彼の黄金の瞳は色を失い、血の赤によって濁りきっていた。
『息が詰まるほどの憎悪が、そこに渦巻いていた』
……
…
…
彼は首を振ると、干上がった、ひび割れた孤独なプールの中で死ぬことに意識を戻した。
「明日の日の暮れ頃、また訪問してもいいかしら?」
「……ああ」
この章をきちんとした形で締めくくるのが自分の務めだと感じ、無理をして徹夜で書き上げました。
皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
「少しずつ、物語がその目を覚まし始めています」




