第3章:硬度と冷気、破れぬ金属、断ち切れぬ鎖、一つずつ耐え忍ぶ肢体(第1部)
風が猛烈に吹き荒れていた。
クリスタルは、今だ完璧な戦闘の構えを維持したまま、そこに立ち尽くしている。
その瞳には、世界のすべてを見下すかのような、底知れぬ挑戦的な光が宿っていた。
まるで、彼女の圧倒的な意志の強さだけで、降り注いでいた雨をねじ伏せて止めてしまったかのように。
やがて、止んだ雨に代わって、震えるビル群の隙間から、無数の紙切れが虚空を舞い、地面へと降り注ぎ始めた。……それは、おびただしい数の「紙幣」だった。
私は足元に落ちた紙切れを一枚拾い上げ、その瞬間にすべてを理解した。それらの紙幣は、過去に起きた壊滅的な経済崩壊によって、とっくの昔にその価値を失ったただの紙クズだったのだ。
数千、数万もの死んだ紙幣が、呪われた空から降り注ぎ、街の地面を埋め尽くしていく。
だが、誰も声を上げなかった。
その死んだ金に対して、好奇心すら示す者は誰もいない。この異様な光景に目を奪われているのは、世界で私一人だけだった。
暗闇のベールを引き裂き、6つの影が姿を現した。彼らは、クリスタルの一撃によって完全に粉砕され、瓦礫の中に沈んだあの金髪の少年を救出すべく、一斉に動き出す。
クリスタルは広場の中央で、依然として傲然と立ち尽くしたまま、その様子を冷ややかに見つめていた。
6人の影たちは、瓦礫を退け、息絶え絶えの金髪の少年を這い出させる。
彼らが必死に少年を蘇生させようとしたその時、衝撃で一人のフードが頭上から滑り落ちた。露わになったのは、同じく金髪をなびかせた、銀色の瞳を持つ一人の少女の素顔だった。
彼女の両腕には、あの少年と同じプロトタイプと思わしき2つの白いブレスレットが装着され、怪しく回転を始めている。彼女はその力を用いて、倒れた仲間を必死に繋ぎ止めようとしているようだった。
6つの影が一斉に立ち上がり、怒りと敵意に満ちた視線でクリスタルを射す。
しかし、銀の瞳と金の髪を持つその少女は彼らを制し、崩壊した瓦礫の山を、ゆっくりとした足取りでクリスタルの方へと歩み寄ってきた。
残りの者たちは素性を隠したまま後ろに控え、傷ついた仲間を庇うように静観している。
銀の瞳の少女は、小さな山のように行く手を阻むコンクリートの残骸を一つずつ踏み越え、確実に前進してくる。
そして、クリスタルから約6メートルの距離、瓦礫の頂点に立ったところで、彼女は静かに口を開いた。
「――クリスタル。私の兄カインをここまで深く傷つけたこと、私たちは決して忘れない。……だけど、もし私たちの間に横たわる違いを、言葉によって解決できる余地が僅かでもあるのなら。私は理性を携えてここに立っている。この最悪の出会いの後であっても、あなたにそれを差し出す用意があるわ」
「――エイル。……いいえ、フランマリー。それがお前の本名だろう? お前たちが何を求めていようと、私が差し出せるものなど何一つない」
クリスタルの冷徹な言葉を浴びたエイルの瞳に、一瞬だけ恥辱に似た色が走った。しかし、彼女の表情はすぐに、硬質な岩石のように冷たく強張っていく。
「……何かしらの方法があるはずよ、クリスタル」
「――そんなものはない。お前たちは、顔と名前を隠してコソコソと動いているただのテロリストだ」
クリスタルは微動だにせず、自らの言葉に絶対的な確信を宿したままエイルを凝視している。
「――そうして、私たちを追い詰め、最後の一人になるまで殺し尽くすつもり? ねぇクリスタル、あなたたちの政府は、反逆者を捕らえた時一体何をしているの? 何年も地下で拷問を続け、ある日突然『何かの病気で死んだ』とでも発表するの? それとも、ただの不慮の事故だったと大衆に嘘を吐くの? あるいは、自らが犯した罪を民衆に告白して許しを乞えば、それだけでこれまでのすべての傷が癒えるとでも思っているの?」
「…………」
クリスタルは一言も返さず、ただ沈黙を守った。
「――少年」エイルの鋭い視線が、突如として私に向けられた。「あなたは、クリスタルと行動を共にしているの?」
「……あ、あ頭、そうだ」私は声を絞り出した。
「――少年、彼女はあなたにとって決して良い影響を与えない。十分に警戒しなさい」
「…………」
私は何も言い返せなかった。
その時、クリスタルが会話を遮るように、私にはその意図が理解できない鋭い問いを投げかけた。
「――エイル! お前たちは、そのブレスレットを一体どこから手に入れた?」
エイルの口元が、一瞬だけ歪んだ。まるで、その問いがあまりにも明白で、あるいは愚直すぎるとでも言いたげな、微かな嘲笑の動き。
彼女はクリスタルに冷ややかな視線を落とし、その言葉を重苦しく大気の中に漂わせた。
「――そんなこと、わざわざ聞くまでもないでしょう、クリスタル?」
エイルは背を向け、崩壊したビル群の不気味な空白の中に、その最後の言葉を残したまま歩き出した。
彼女は一歩一歩瓦礫を戻り、静かに自らのグループへと合流していく。
すると遠方から、エイルの冷たい声がエコーとなって響き渡った。
「――通るがいい」
「――気が変わらないうちに、さっさと失せるのね」
その声を合図にするように、クリスタルは全身の強張りを解き、少し手荒に首を振って乱れた髪を整えた。そして、何事も起きなかったかのような顔で私を振り返ると、どこか悪戯っぽい、小馬鹿にしたような笑みを浮かべてみせた。
「ほらね、何ともなかったでしょ? 行こう、ジオ」
私は彼女の身が本当に心配になり、思わず問い詰めた。
「大丈夫なのか……!?」
「ええ、かすり傷一つないわよ」
「でも、私は確かに見たんだ。あのカインの鎌が、君の背中に突き刺さるのを」
「服が少し破れただけ。それとも、最先端のデザインカットに見える? あんたはどう思う?」
「……ハハ、なるほどね。本当に心配したんだ。君が無事でよかった」
「行きましょ。エイル……いえ、『フランミお嬢様』が、お兄様の顔面をリフォームされたことに本気で怒り出す前にね」
私たちは、崩壊したビル群によって塞がれた、あの歪なミニ広場を横切った。
再び死んだストリートへ戻り、私たちは歩みを再開する。
「ふふふっ! お兄様、ねぇ!」
クリスタルが小さく吹き出した。
「……何がそんなに可笑しいんだ?」私は尋ねた。
実際、私には笑えなかった。カインは自力で立ち上がることすらできないほどの重傷を負っていたのだから。エイルのあの時の瞳には、明らかな困惑と焦燥が浮かんでいた。
「そうね……」クリスタルは深く息を吸い込み、聲音を落とした。「……あんたがあいつらに同情することは、あまりお勧めしないわ」
「彼らは一体、何者なんだ?」
「テロ組織『12匹の蝉』。……さっき見た通り、もう7人しか残っていないけれど。彼らは、いつか一羽の天使が自分たちを救ってくれると盲信しているの。死ぬ前に、私たちの指導者を最低でも一人ずつ道連れにすることだけが、死んだ仲間や家族への贖罪になると信じ込んでいるのよ。自分たちの故郷は政府によって消され、ゴーストタウンにされたと主張しているわ。もちろん、政府側はそれを完全なデマだと否定しているけれど……。私が知っているのはそれだけ」
「おまけに、ボスのカインは自分のことを本気で救世主メシアだと思い込んでいる大馬鹿野郎よ。今回のことで、自分が悲劇の英雄だってさらに思い込みを強めたに違いないわ」
「なるほど……」
私が家で孤独に過ごしていた間にも、このレヴィアタンでは本当に多くの出来事が起きていたのだ。
「目的地までは、あとどれくらいかかる?」
「もうすぐそこよ、私の可愛いジオ」
確信に満ちた表情の少女が、眩いほどの笑みを浮かべて私を見つめていた。
読んでいただき、ありがとうございます。もうすぐ寝ます。




