181.戦争(5)
国境の砦を落としたシガンは、ガエルミュラント兵500を率いて帝国領に侵入した。
軍事衛星から進軍の様子を伺えるため、道に迷うこともなく手近な村々を王国の傘下に従えて、遂に近隣で最も大きな街に辿り着く。
「まあまあの発展具合だが……ここは主に砦の兵士の落とす金で潤っているだけの補給拠点。街としての産物は娼婦と酒。まったくもって旨味はないが、取っておかなければ背後を突かれた時に面倒が増える。寡兵の悲しさだな。――よし使者を立てるぞ。降伏勧告だ。速やかに門を開けよ、さもなくば街は砦の二の舞となろう。……よし行け!」
使者を行かせると、シガンは街の目の前に陣を張った。
もし抵抗する場合でも、敵ではないぞ、という意思表示だ。
しばらくすると、門が開いた。
しかし居並ぶ兵士たちが、陣地に向けて進軍してくる。
抵抗するつもりだ。
「まあこっちは500しかいないからな。しかしあちらも大した兵力じゃないのに、打って出るか。……〈ソル・フレア〉が見たいということか?」
「シガン様、恐らくはその通りでしょう。砦を焼いた魔術師が誰か、どんな魔術を使ったのか。それを知るために、敢えて街から打って出たのだと思います」
シガンの言葉にベルが賛同した。
「そしてそれを帝都に報告に行くわけか。打って出てきた連中は死ぬためか……いいだろう。見せてやる」
「いいのですか? 恐らく帝国はアティを暗殺しようとしますが」
「だからこそだ。誰彼構わず俺の傍にいる魔術師を片っ端から狙われるより、アティだけが狙われる方が守りやすい。さて、――グリフォンを用意しろ!」
グリフォンにアティとタンデムし、空から〈ソル・フレア〉を落とす。
白い炎が門から出てきた兵士たちを焼き尽くした。
「シガンさま、街の方はどうやって制圧するの?」
「既に『長い手』を派遣してある。門周辺は綺麗に掃除されているはずだ。このまま全軍で街に入り、領主館を制圧する」
シガンは伝心の形代を取り出すと、地上のベルと連絡を取った。
領主館も『長い手』が入り込み血の海になっていたため、兵士に損耗はなく制圧が完了した。
数日を街で過ごすことになった。
というのも、兵士500ではこの街を制圧し続けるのに手一杯だからだ。
せっかく分捕った街を開放するわけにもいかない。
そこでこの街を制圧し続けられる兵力をもった援軍を待っているのである。
アドリアンロット伯爵が軍を引き連れてきたのは、そんな時だった。
「ガエルミュラント男爵、上手くやっておるようだな。砦を溶かしたり、この街の兵士を焼き払ったと聞いているが……アティ殿はそんなに凄い魔術師だったのか」
「ええ。アティは斥候として一流なのに、魔術の才能まであるんですよ。しかも今じゃ対軍魔術の使い手です」
「宮廷魔術師よりも腕がいいのではないか? まあいい。この街の制圧には私の騎士らを当てよう。……後続の貴族たちは手柄をこれ以上、取られまいと急いで駆けつけてくるだろうから、とっとと先に進みたいだろう?」
「ありがたい。新興の貴族ゆえ、兵力ばかりはどうにもなりません」
「そこは義父を頼ってくれていいのだよ。さあ、次はどこを狙う?」
「片っ端から街を制圧して支配下に加えていく予定です。さすがに後方を疎かにして帝都を狙いに行くほど無謀じゃありませんよ」
「ほう、まあ仕方ないか。補給路も必要になるから、地道にやるしかないわけだ」
「そうですね。補給線が途切れたら敵中に孤立しますから。アティの魔術は略奪に不向きですから、そうなると面倒です」
「全部焼いてしまうのでは、確かに略奪は不便か。では堅実に戦争をしよう」
「このまま領土を塗り潰すようにして進軍したいのですが」
「指揮官はシガン、そなたに任せる。戦争はどう考えてもそなたの方が得意だろう? それに総大将はひとりの方がやりやすい」
「ありがたいです。伯爵が指揮下に入ってくだされば、大きく領土を奪える」
アドリアンロット伯爵の兵5000を配下に組み込み、シガンは帝国の街の旗を片っ端から王国旗に変えていった。




