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誘拐事件から2ヶ月後、私はようやく学園へと戻ってきた。
けれどそこでは私への現実が待ち受けていて。
「おい…例の誘拐されたっていう…」
「王子との婚約も破棄されたんだろ?」
「もう結婚はできないでしょうね…」
ヒソヒソと噂される話のうち、本当なのは婚約破棄されたという点だけ。
でもむしろ、婚約破棄されたのだから既に無理やり襲われた後なのだろう、と世間は思うわけで。
まあ、実際は殴られたくらいなんですけど。
「メリー!」
「ユーメリー様!」
「ヘザー、ドロテーア!」
そんなヒソヒソも、友達と会えた喜びに比べたらどうってことはない。
二人とも、私を気遣って手紙も送ってこなかった。私に心理的な負担をかけないようにしてくれたのだろう。
けれど私は知っている。自室に引きこもっていた時に毎日飾られていた花瓶の花の中に、二人の家の花があったのを。
二人とも自分の家の花を贈り続けてくれたのを知っている。
「心配かけてごめんね、もうぜーんぶ大丈夫だから」
「そんなこと言って!無理してたら怒るからね!」
「わ、私…私、毎日お祈りしてました。ユーメリー様が元気になるように、って…それで…」
泣きそうになりながら話す彼女たちを愛しいと思う。
やっと戻ってきた。それに、ここでやることもある。
「ほら、もう授業が始まっちゃう。また放課後に話しましょう」
「え、お昼は?」
「少し用事があるから。ごめんね」
「いえ、それなら放課後にまた。またお話ができること、すごく嬉しいです」
「ふふ、私も」
それぞれの必須科目の授業を終えて、お昼休みになった時…同じ教室の後ろ、ラルフの隣にいるリーズに声をかける。
「リーズさん、少しお話があるんだけどいいかしら」
「ユーメリー様が私に?」
「ええ」
「ふーん…いいですよ!ラルフ様、それじゃ先にお庭に行っていてください」
「あぁ…」
チラチラとこちらの様子を見るラルフ。声をかけたそうにしていたけど、申し訳ないが無視する。
リーズと共に少し歩き、適当な空き教室の中へと入る。
あまり人目はない方が良い。きっと、お互いに。
「それでお話って?」
「アデラール王子との婚約は破棄したわ」
そう話すと、少しキョトンとした後…彼女は笑い出した。
「あはは!そのくらい知ってます。それで何が言いたいんですか?まさか婚約破棄が私のせいだとでも?」
「いいえ。アデラール王子に未練は無いわ。あなたに譲る。だからもう満足でしょ?」
「はい?」
「これからは好きにアデラール王子と一緒に居ればいい、私は何も言わない。だから、これ以上私や私の家族に手を出さないで」
部屋を出られるようになったあと、私を誘拐してきた山賊の裁判記録が載っている新聞を読んだ。
そこには手頃な馬車を狙ったこと、高く売れそうな女がいたため金品より女を優先して誘拐したこと、本拠地へ戻る最中で騎士団に見つかったことを証言していたけれど、実際は違う。
あの時の男たちは明確に誰かから支持されて私を襲っていた。
だがどれだけ裁判記録を追っても…ジェラルド様へ手紙を送ってみても、裏側にいる人物には辿り着けなかったようだった。
私に恨みを持ち、私が死んで得をしそうな人は現状…リーズしか考えられない。
「はあ?何を言っているんですか…?」
「え」
だが、その予想は大いに外れたようだ。
本気で何も知らなそうな、呆れた顔をしたリーズを見ながら、それなら誰が?と考える。
「ユーメリー様に興味なんてないですよ。婚約破棄されたんならもうアデラール様には近づかないでくださいね」
「え、えぇ」
それだけ言うとリーズは教室を後にした。
……あれ、推理が外れちゃった。証拠が見つからず追い詰められないなら、せめて牽制だけでも…と思ったのに。
そうなると、もう当てはない。でも家族のために真犯人は絶対に突き止めたいから…リオネル先生に助言をもらいに行こう。
「リオネルせん…」
「ユーメリーさん?!」
「おわびっくりした!!!」
あれ、なんかデジャブな気がする。いや今は特に気にしないでおこう。
声をかけたと同時に勢い良く開かれた扉は、前と変わらず猫背の先生が立っていた。
リオネル先生って、猫背なだけでちゃんと背筋を伸ばしたら多分もっと背が高いんだよね…もしかして今まで側にいた男性の中で一番高いのかな?
くそ、羨ましい。私も誰にも負けない身長が欲しかった。
「ああ、久しぶりですね。顔色も…うん、前と変わりない」
「はは…ご心配をおかけしました」
「いえいえ、あなたが無事ならそれでいいんです」
私が無事ならそれでいい。何度言われたことだろう。言われる度に心の傷が少しずつ癒えていく。
まあ王室は…私の全部が無事じゃないとダメだったみたいだけど。仕方ないね、高潔な王室の血筋にもしも野蛮な血が混じったら大変だからね。滅びろ。
「今日はちょっと先生と話したくて来まして」
「おや、嬉しい。なんでもどうぞ」
「えと…私の誘拐事件のことでご相談が」
「ああ、なんだ…友達のような世間話をしに来てくれたわけではないんですね」
「流石に先生にそんな気軽な話は…」
「次はぜひ気軽な話を。それで、相談とは?」
書類が高く積まれた狭い通路を進み、促されてソファへ座る。
手慣れた様子で紅茶を淹れる先生を横目に、懐かしいインクの香りに少しうっとりとした。
この紙とインクの匂い、結構好きだったんだよね…落ち着くなあ。
「私の事件のことはずっと新聞で読んでいたのですが、あれは襲ってきた奴らの他に…絶対に裏で指図した人間がいるはずなんです」
言った後、先生はいつものにこにこした顔から顔色が変わった。




