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「ジル、ツヴァイ」
「はい、メリー様」
「…メリー」
大広間で使用人全員のお茶をジルに淹れさせた後。
私は自分の部屋に二人を呼んだ。二人とも心配そうな目で私を伺っている。
あの時私が助かったのも、この二人が助けを呼んでくれたおかげだ。それからも二人はどれだけ私のことを心配してくれたんだろう。
それなのにあの時私は自分のことで手一杯で、二人を拒否してしまった。
「ごめんね…本当にごめんなさい。二人とも、ありがとう」
二人に抱きついた私を優しく受け止めてくれた。抱きしめ返す力が強くて、どれほど心配をかけていたのかが伝わってくる。
「っメリー…本当に無事で良かった」
「どうか謝らないでください。誰もあなたを責めませんから…」
「いやよ。二人には心配をかけてしまったし、何よりあの時…拒否してしまったから」
「いいんです、あなたが無事ならそれで。またお側に居させてください」
「俺も、俺もずっと隣にいるから…今度はちゃんと俺が守るから」
声が震えているツヴァイの頭を少し撫でた。どれほど怖かったろう、目の前で私が居なくなって。
人一倍責任感を感じやすいツヴァイのことだから、ずっと自分を責めていたんだろう。
もう大丈夫だから、と声をかけながら、頭を撫で続けた。
二人と少しお喋りをしていれば、不意にノックの音が聞こえた。
「はい」
「メリー?少し話をできるかしら」
「ええ、もちろん」
お母様は部屋に入ってくると、申し訳なさそうにジルとツヴァイに部屋を出ていくよう伝える。
お母様は私が部屋に引き篭もった後も、毎日様子を見に来ては手を握ってくれた。
あの時のことを思い出して眠れない夜は、ずっと隣に居てくれて。これが母親なのかと、うとうとしている中で思っていた。
「メリー、体調は大丈夫?」
「全然大丈夫!心配をかけてごめんなさい」
「ううん、それはいいの。メリーが笑顔でいることが一番なんだから」
「お母様…」
「…それでね。部屋から出られるようになってすぐで本当に申し訳ないのだけど…、お父様を、止めてくれる?」
「え?」
少し泣きそうな顔で言う母の顔を、私は初めて見た。
お母様はいつも豪胆でどんな時でもしっかりしていて、お父様よりよほど頼りになるようなこの人が、どうしてこんな顔をするのだろう。
詳しく内容を聞いた後、早速お父様の執務室に行けば手紙を書いているところで。
「ああ、メリー。顔色が良くなったみたいだね」
「ええ、おかげさまで。お父様は今何を?」
「今?ふふ、お母様から何かお願いをされたのかな」
一見優しげに見えるお父様の表情。だけど、こんなに怖いと思ったのは初めてだ。
これから人を殺しに行くと言われても驚かないほど、冷酷な笑みだった。
「お母様から聞きました。王室から婚約破棄の書簡が届いたと」
「そうだよ」
「前に言っていた通り、婚約破棄を了承するのでそのようにご返答くださいますか」
「メリー。聡い君になら分かるはずだよ、なぜ今になって書簡が届いたのか」
鋭い目線が私に向く。答えを間違えば、私の言う通りには動いてくれないのだという確信がある。
「私が誘拐事件後、屋敷の外に出ていないからでしょう?」
「その情報が王室に届き、早速送られてきたのがコレだ。どうしてだと思う?」
「王室は私が賊に純潔を奪われたと思っているのでしょうね」
「そうだ」
先ほどまで繕っていたはずの笑顔が消える。
いつも柔和で優しく、どんな時でも笑っていたお父様とはかけ離れたこの顔に、酷く嬉しさを覚える。
「奴らは散々僕たちの意思を無視して婚約までさせておきながら、メリーが一番傷ついている時にこんな物を送ってきたんだ。ねえメリー、君はどうしたい?王室の威厳を地の底まで落とそうか?それとも今の王家を最後に血筋を絶させようか」
王都で言えば王室侮辱罪で即刻処罰される発言をさも当たり前のように言う。
でも私には、お父様のこの態度だけでお腹いっぱいになるほどにただ嬉しい。
王室なんかどうだっていい、この家族さえいれば私はそれでいい。
「お父様、こっちに来て抱きしめてくれる?」
「もちろん」
ふわりと香るお父様の匂いは、少しだけお母様に似ている。
心が落ち着いてほっとする。そんな人に私のためだけに王室に喧嘩を売ってくれなんてことはとても言えない。
ただ平和にこの日々が続けばいい。私のことは外になんと思われてもいい。
「ずっと、ずっとここで暮らしたい。王室なんて行きたくない。だからそのまま婚約破棄してほしいの。お父様、私のわがままを聞いてくれる?」
「………メリー、本当にそれでいいのかい?私も家族も、領地の人だってメリーのためならなんでも出来るんだよ」
「それでいいよ。王室なんかよりお父様の方が大事だもん、このままの生活を私はしたい」
「僕の娘は天使だったか…」
困ったように笑うお父様は、すっかりいつも通りで。
その顔を見て私はにっこりと笑った。




