60
「確かにメリーに王家から婚約破棄に関する書簡が届くと知らされていたけど、まだ何も届いていないね」
「うそぉ…」
夕食後、お父様の執務室に赴いて例の件を聞いてみればこの返答。なぜだ、なぜ届かない!?
「メリーは2ヶ月以上前に婚約破棄を了承したはずなんだよな」
「学園ではアデラール王子から何か聞いていないのですか?」
一緒に来たツヴァイとジルもそれぞれ言うけれど、なーーんにも聞いていない。心当たりもない。
てっきり届いているものだと思って念のためお父様に破棄の合意をしたのか聞いたのも先週のことだし。
「何も聞いていないわ…。リーズさんとは仲直りしたような感じだったし、てっきり……」
「…それよりメリーには直接聞きたかったんだ。アデラール王子との婚約は、本当に消えてもいいんだね?」
お父様が優しげに問う。いいも何も婚約が決まった時から目指していたことだもんで。
「ええ。謹んで(喜んで)婚約破棄をお受けしたいです。…いいでしょう、お父様?」
「…アデラール王子とはあまり良い関係を築けなかったようだ。僕たち大人の都合で振り回してしまって…すまないね」
お父様の顔が一気にしょんぼりしてしまって、むしろこっちが申し訳ない気持ちになる。
…こんな顔をさせたかったわけではないんだけど。そういえば最初からお父様はこの婚約に乗り気ではなかったっけ。
「いっいいの!アデラール様とは…仲良くはなれたけど、恋愛のようなそれではなかっただけ。あの方に愛する人が見つかって良かったと思う」
「…そう、だね。メリー…次こそは君の愛する人との婚約を望んでいるよ」
「ええ、ありがとうお父様。…でも王子との婚約がどうなったのか気になる…」
「ではクンシラン公に僕から手紙を書いてみよう。きっと何か知っているはずだ」
宰相のクンシラン公爵なら確かに何か知ってるかも。流石に王族に手紙を出すのは憚られるもんね。
「ありがとう!返事が来たらすぐ言ってね!」
「もちろん」
ま、手紙の事は一旦置いといて…これから夏休みを満喫しないとね!せっかく家に帰ってきたんだし!
********************
「………えっどうして?」
翌週。クンシラン公爵からの返事の手紙を、先に内容を確認した少し困惑気味なお父様から受け取り読んだ。
内容を要約すると、王子から破棄の申し出があったが本当かという事と、私に破棄の意思がなければ婚約を続行してほしいという事。クンシラン公爵が王子に言い聞かせるので破棄はせず今一度婚約続行を考えてほしい…との事だった。
…私が王子の婚約者に選ばれたのは単に他に良い婚約者候補が居なかったから、では無いの?
この文面を見るとクンシラン公爵は王子と私の結婚をとても望んでいるような…。
リーズと王子の間柄は既に把握しているだろうし準男爵家では不適格だと思っている?
「メリー。何日か考えてみるかい?」
「いいえ、お父様。クンシラン公爵には申し訳ないのですが王子が望まれている以上、私はその意向に沿うわ。破棄の旨を伝えてくれる?」
「…うん。返事は今日にでも出す事にしよう」
「ありがとう」
これでやっと縁を切れるのかな。…どうしてだろう。何か嫌な予感がするような…、言いようのない不安が、まだ晴れない。
…そしてその悪い予感は1ヶ月後に…最悪な形で現実となる。




