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「見て、アデラール王子よ」
「あちらにはエミール様もいるわ」
「アルノー様、エミール様と仲が良さげね」
「王子と笑いあってるフェルナンド様も最高」
「ラルフ様、立ち姿が素敵…」
ここは学生が主催し、3月に初等教育を卒業した学生のみが参加できるパーティ会場だ。学園のホールを借りてさながらどこかの舞踏会のように本格的なものとなっている。
パーティ会場の一角、ひと際煌めく男性陣の塊が出来ていた。
女性たちは遠目でキラキラと各々が憧れる人へ目を向けて、頬を染めている。
…毎秒ごとにスチル絵になりそうな華やかさだ。きゃいきゃい言ってる女の子も幸せそうで、なんだか生暖かい目で見てしまう。
王家のアデラール・ゼフィランサス
宰相のフェルナンド・クンシラン
騎士のラルフ・イキシア
学者のエミール・アルストロメリア
商人のアルノー・プルメリア
1周目でクリアできる攻略対象とともにこの場にいる身としては、どうにも浮かれた気分にはなれなかった。
ちなみに2周目で攻略できるのは先輩であるイレネオ・アゲラタムと義弟のツヴァイ・セントポーリアの2人。きっと高等教育中に出会うシーンがあるだろう。
さあ、いよいよここから私の知る物語が始まる。開始から既に30分ほど、そろそろこのあたりで…。
「遅れてごめんなさい!もう始まっていますか?」
扉を開けると同時に、大きな声で人が入ってきたので思わずみんなの視線が向く。その先にいるのは、紛れもなくこのゲームのヒロイン"リーズ・カトレア"だった。
「綺麗な子…」
「誰?」
「あんな人、いたっけ…」
…やっぱり。なんとなく危惧はしていたけど"この場面も"違う。ゲームと全く一緒じゃない。
ツヴァイの時と同じ違和感は、形容しがたい焦りとなって全身を駆け巡る。
ゲームでは胸元まである髪の毛はそのままに、初めての化粧とパーティドレスでみんなが開花したカトレアの花の魅力に気付くところから始まる。
けれど今の彼女は、薄紫色の髪を編み込み、髪の所々にカトレアの花飾りをあしらい華やかだ。アイメイクもカトレアの紫色と同系色の青色で、大きな瞳は妖艶な大人らしさを出している。頬の桃色は少女らしく、唇の艶は目の華やかさを色濃く出すために抑えめではいるが、バランスが取れている。
ドレスも、準男爵家の彼女ではおよそ用意できないような流行りの高級品を身にまとって、さながらどこかのお姫様のよう。
みんながザワつくのも無理はない。彼女はとても綺麗だった。おそらく…この場の、誰よりも。
ゲームで初登場時の彼女の恰好がシンプルなのは初期アバターっていうのもあるのだけれど、明らかに2周目か何かとしか思えない恰好。もしかして結構課金しました?
「リーズ!」
「!カリーネ!」
会場の奥でリーズの友達であるカリーネが片手をあげた。ゲームでも登場した数少ないリーズの友達である。
そして、リーズは友達のもとに小走りで駆けていき………。
「っ!」
ちょうど王子たちの横で転んでしまう。ここだ、ここで攻略対象を選択する。そうすれば選択したキャラが手を差し出して起こしてくれる。
さあ、誰の前で転んだかな?
「…君、大丈夫か」
「あ…っすみません、ありがとうございます」
っしゃあ!王子の前で転んだ!!
思わず心の中でガッツポーズを出してしまう。
あらあらリーズさん?頬染めちゃって満更でもないんじゃないですの?のしつけてあげるからぜひ私から王子を奪ってくれよ、頼むから。
ちょっと登場シーンに焦ってしまったが、無事王子の前で転んでくれた。これだけでもかなりの収穫だ。思わずにやけてしまう。そういえば料理に手を付けてなかったけど、そろそろ何か食べようかな。
王族もいるとあってか、ただの学生だけ参加のパーティだというのにかなり豪華な料理の数々だった。
おお…なんだか見たことのないスイーツまである。上に乗ってるのは木苺かな…?ちょっとスイーツから食べ始めてみよう。すごくおいしそうだ。
何種類かスイーツを皿に盛り、適当な場所で食べようかと歩いていると近くから声がした。
「デザート食べたくならない?」
「うん、私もそう思ってたー」
「ね、ドロテーア様もそう思いませんか?」
「え、ええ。美味しそうですものね」
3人組…じゃない、4人組の女の子だ。どう見ても仲が良さそうなのは3人で、1人だけ少し浮いている。
1人だけ今日知り合ったばかりなのかな。
「…取ってきていただけません?」
「みんなで食べましょうよ」
「ドロテーア様の方が美味しそうなもの、選んでいただけそうですし」
「私たちと違って侯爵家の方だもの。きっとそうよね」
「美味しいものを期待していますね」
くすくす笑う女の子達。これは…明らかに意地悪してる。聞く限りだとドロテーアって子が一番爵位が高いだろうに…せめて何か言い返すとか。
「……では、少し失礼して取ってき…」
「デザートでしたら、こちらが美味しそうでしたわ。あなた方に差し上げますわね」
「え!?あ、ありがとうございます…?」
長いまつげが悲しそうに伏せているもんだから、思わず間に割り込んでしまった。せっかく美味しそうなものだけを吟味したデザートプレートを失ってしまったが、仕方ない。また取ってこよう。
「ドロテーアさん?私、ちょうどあなたとお話したかったんです。ご一緒してくださるかしら」
「は、はい」
もうちょうどいいから連れ出してしまえとばかりにドロテーアの手を取り、さっきの子たちから見えない場所へ誘導した。
黒い艶のある髪に、真っ黒な目と長いまつげ。西洋人形をそのまま黒く染めたような彼女はとても可愛らしい。
…さすがはあの乙女ゲームの絵師さんの世界だ。好みドンピシャです、とっても可愛いです。
「あの…ユーメリー様、ですよね」
「うん、そうよ。急に連れ立ってしまってごめんなさい。なんだか親し気な雰囲気ではなかったから…迷惑だった?」
「そ、そんな…こちらがお礼を言いたいくらいです…」
大人しい子なのか、語尾が消え入りそうなほど小さくなる。怯えさせてしまっただろうか。
「………」
黙り込んじゃったよ…!
「えっとね、あなたと話したいと言ったのは嘘じゃないの。私、あまりお友達がいなくて手持無沙汰だったから…良ければ一緒に居てくださらない?」
「私と…ですか?」
「ええ。胸元のブローチ、アンティーク物かしら?すごく素敵だったから」
「あ…これは、代々受け継いでいる物なんです。嬉しい…みんな古臭い、としか言ってくれなかったから…」
ドロテーアが控えめに微笑む。よかった、笑ってくれた。
「申し遅れてすみません、私、ドロテーア・コデマリと申します」
「ユーメリー・セントポーリアよ。よろしくね」
「はい…!」
右手を差し出せば、少しだけ嬉しそうに手を取ってくれた。良かった、やっと女の子の友達が出来そう。
「あー!こんなとこにいた。ユーメリー、何してるの?」
少々の非難を含んだ声とジト目でこちらを見ているのは、ヘザーだった。
「ヘザー、私、新しい友達が出来たの」
「ド、ドロテーア・コデマリと申します」
「友達って…、もう。王子の方をずっと見てたからてっきり、話しかけに行くんだと思って終わるの待ってたのに。ああ、私はヘザー・ランタナよ。よろしくね」
「え?そうなの?」
「さっさとユーメリーのとこ行くんだったわ」
「ヘザーの友達は?もういいの?」
「いいのよ、あんまり話し合わないし」
随分とばっさり切り捨てるな…。ヘザーも友達といたから話しかけづらくて一人でいたんだけど、どうやらその必要はなかったらしい。
「ねえ、テーブルあるし座らない?」
「いいわね。行きましょう」
「あ……」
数歩、ヘザーと進んでみたがドロテーアはその場に立ったまま、動かなかった。伏し目がちな目が何か言いたげに揺らいだ。
「ドロテーアさん?どうしたの、立ってた方がいい?」
「え?」
「早く来なさいってことよ」
「ヘザー、ちょっと口が悪いわよ」
「だって分かってないみたいだし」
「ご一緒します…!いえ、させてください!」
声をかければ、最初よりも明るい顔で付いてきてくれた。




