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「………んぁ…あー……、ん?お前まだここに…なんだこれ」
「見れば分かるでしょ」
目元は一点を留まらず、上に下にと動き回る。図書室で適当に借りた本だけどこれは当たりだ、面白い。
やはりいくつになっても冒険譚っていうのはいいよね…少年少女が主人公で、成長しながら物語が進むこの様…!
「分かんねーよ」
「…今いーところだから邪魔しないでよ」
「お前か?これ」
ぴらぴら指でつまんで見せているのは、小さめのブランケットだ。
いきなり寝始めたので起こすのも忍びなくて、慌てて部屋から持ってきて彼のお腹にかけておいた。
全身隠せるほど大きな物は持って来れないけど、ブランケットも十分暖かいから無いよりは絶対いいだろうし…。
「そー、私が持ってきたの」
「別にいいのに」
「何言ってんの、今3月よ?風邪でも引いたらどーするの」
「引いてもお前に関係ねーだろ…」
「ていうかさっきからお前、お前って!名前分かってるでしょ?いい加減やめてくれない?」
「…まー…分かるけど」
「私もイレネオって呼ぶから。次お前って言ったらぶつわよ」
「は?俺の名前、お前ーー」
"パァン!"
「………」
「分かった?」
「いや…俺…一応年上なんだけど…」
「同じ公爵家でしょうが。…ま、いいわ?どうしてもって言うなら?イレネオ様って呼んで差し上げましょうか?」
「イレネオでいい…口調だけ丁寧にして馬鹿にされそうだ…」
「ええ、やろうと思っていたわ」
さすがに顔面平手打ちは可哀想なので、私のお気に入り手作りブランケットをつまんで遊んでいた右手をはたき落とした。
布屋さんで見つけて肌触りが気に入って、自分でこしらえた自信作なのに…石畳に直置きとか…くう…。
「少し寒くなってきたから、私はもう帰るわ。そのブランケットはあげるからお昼寝の時にでも使って。あ、二度寝はダメよ、本当に風邪とか肺炎とかになるからね」
「え?ああ…」
「じゃあね」
するすると木から降りて、寮へ向かう。ふう、読書って最高。天気の良い日は出来るだけ外に出ないと、本格的に引きこもりになっちゃうからなー…。
ということで。
「おい」
「え?」
「なんで今日もいる?」
「なんで、って…良い天気だからだけど?」
休日のお昼前。ぽかぽか天気は風も穏やかで絶好の外日和だ。
つまりは最高の読書日和!
「…もういいや…」
今日は随分と諦めが良いようで。しかもちゃんと私があげたブランケット持ってきてるな、よしよし。
男の子はお腹緩いからね、冷やしたら大変だしね。
今日中にこの本は読み終わるだろうからー…帰りに図書室でまた何冊か借りてこよう。
「そのでかいバスケットって何?」
「私のお昼ご飯よ」
「…量多くね?」
「失礼ね」
多めに作ったのは、余った分は食堂のおばちゃん方へ差し入れにあげようかと思っただけだ。
決して全部1人で食べるわけではない!
"グゥー…"
「………」
「………なんだよ…」
「顔、赤いわよ」
「ばっ…!」
「…食べる?」
「は…え、いいのか…」
「1人で全部食べれる量じゃないし…余ったら誰かにあげようと思って作ったの。男の子好みの具じゃないけど、文句は言わないでね?」
「…何入ってるんだ?」
バスケットを開ければ、中にあるのは色とりどりのサンドイッチ。
食べやすいサイズごとに、手が汚れないよう紙で覆ってあるので取り出しやすく口に運びやすい。
具材は主に卵と野菜とチーズ。
「これ…自分で作ったのか」
「そうよ」
「侍女とかじゃなく?」
「私、付き人連れてきてないし。作るの好きだから」
「…いただく」
手に取ったのは黒胡椒入りチーズを挟んだレタスとベーコンのサンドイッチ。
「ん!…うまい」
「でしょ?」
「うん…」
続けて、卵サンドを口に運んだ。
「うまい…!いつもの卵じゃない」
「でしょでしょ」
なんといっても、死ぬ気でマヨネーズ作ったからね!
一応この世界にもマヨネーズはあるみたいだけど、屋台飯とかの庶民向けでしか食べられないもので貴族には縁が薄かったから。
しかしマヨネーズの代償として腕は死んでしまったけれど…、電動ミキサーさえあればもう少し楽に作れるのに…。
この卵サンドには蒸したじゃがいもを挟んであるから相性抜群でさらに美味しいはず。
「………」
す、すごい食べっぷりだ。でも食べ方は超綺麗、さすが貴族様。
見てるこっちまでお腹減ってきたし、読書は一旦切り上げて私もお昼にしよう…。
「はあ…」
「はい、お茶」
「あ…うん…」
結構多めに作ったと思ったけど、成長期の男子はすごい。ぺろりと平らげてしまった。
「ふふ。お腹いっぱいだから、良いお昼寝が出来るわね」
「…まーな…」
ぷいとそっぽを向いてしまい表情は分からないけど、照れてるだけかな?
ツヴァイにちょっと似てて可愛く思えてしまう、やばいやばい。
「…うまかった…ありがと」
「どーいたしまして」
ま、うちのツヴァイの方が可愛いけどね!
あの子は目つき悪いんじゃなくて猫目なだけだし!
「よほどお腹が空いてたのね。ちゃんと食べないと大きくならないのよ」
「ほっとけ…うちの侍女みたいなこと言いやがって」
「何言ってんの、健全な精神は健全な身体からって言うじゃない。嫌なことがあった時に、心では受け止められても体が育ってないと疲れて倒れちゃうよ」
「…なんで…」
「いつか逃げられないくらい嫌な目に合うかもしれないんだからちゃんと食べてちゃんと夜に寝ること!でないと私よりチビになるかもよ」
「うわー絶対嫌だ」
「ほら、私の借りてきた本貸してあげる!夜寝られないくらい面白いの!」
「さっきちゃんと夜寝ろって言ってなかったか?」
「いーから。あ、読んだら私に返してね?私から図書室に返さないといけないし」
「本か…最近読んでないな」
どうやら活字は嫌いじゃないようだ。眠そうな目をすることなく、ページをめくる指は一定の速度で反復していた。
残り60ページという最高に盛り上がっていたシーンでイレネオに貸してしまった本が気になるものの、別の本で気を紛らわす。
程よい満腹感と、頬を撫でる暖かな風。彼の隠れ家に来てしまったのはちょっと申し訳なくも思ったけれど、元来人好きの彼のことだ。おそらくは1人じゃない方が考えすぎることなく休めるだろう。
世話焼きも、たまには焼かれてもいいということで。
「…面白いなこれ」
「寝る気も起きなくなるくらいにね」
そのまま会話するでもなく、ただ2人で読書をした。
少し風が冷たくなった頃、長時間同じ体勢で凝り固まった下半身をゆっくりとほぐしていく。
「いたた…また夢中になっちゃった…」
「帰るのか?」
「そうね、寒くなる前に。本は貸しといてあげる」
「借りとく。明日も来るのか?」
「明日は…予定があるから無理ね。次のお休みも天気が良ければ来ようと思ってる」
「ふぅん…じゃ、本はそん時に返すよ。飯と一緒に来るのを待ってる」
さらっとご飯要求してきやがった。まったく、あんなにいっぱい食べたのにもう来週のご飯を考えるのか。
成長期の男児とはなんとも恐ろしい。でもイレネオが17歳になる頃には身長180超えに育つから、食欲が凄いのも頷けるかな…。
それにたくさん食べる子供を見るのは気持ちが良くて好きだ。美味しいものを作ってきてあげよう。
素直に美味しかったからまた作ってって言えばいいのに、なかなか可愛いやつめ。
とかいうイレネオに対する好感度は、翌週の出会い頭に本のネタバレを喋ったことによって砕け散ったが。
「これすげー面白かったよ!まさか主人公のイヤリングが鍵になっててしかもずっと一緒に旅してた女の子が実は母親の前世とか…」
「バカーーーー!」




