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「たまにはテラスに行きましょう?」
「いいですね!」
パタパタと軽やかな足取りで、私を横切る少女2人。
さりげなく、片側の少女の顔を見た。生まれる前から知っていた、その顔を。
彼女は"リーズ・カトレア"。ゼフィランサスの愛を、という乙女ゲームの主人公だ。
ゲームの舞台は高等教育からになるが、もちろんその前に彼女は入学している。
転校や途中入学といった描写はゲーム中には無かったので憶測ではあったものの、校内ですれ違って一目でわかった。
なにせ何度も見てきた顔だもの。たとえ10年経っていても、忘れはしない。私の運命を握っている存在なんだから。
あどけなさの残る顔は幼く可愛らしい。今はまだ、他の攻略キャラの視線にも入らないほどに平凡だ。
カトレアの花言葉は魅惑的。まだつぼみでいるうちは気にならずとも、開花すれば一体どうなることか…。
学園に入学してからもうすぐ1年が経つ。私は、現状に悩んでいた。
自分からヒロインに関わっていくべきかどうか…。良好な関係性を築ければこのまま平凡に過ぎていくのでは?
だが現段階で接触するとなると今後の行動は全くの未知。ある程度ストーリーに沿って進んだ方が進捗を把握しやすいのでは…。
…とかまぁ、色々考えてはいたけど結局何がいいか分からず行動を先延ばしにした結果、1年が経とうとしているわけだけれども。
「…よし!」
もう、考えてたって仕方ないし!現状維持でいこう!
来月にはツヴァイも入学してくるし、自分とその周りととりあえず楽しく暮らしていこう!
テクテクとどこに向かうでもなく廊下を歩く。図書館から本を借りてきたからもう帰ってもいいけどー…、今日すんごい暖かいからちょっと外で読みたい気分。
王都は実家と違って南にあるから雪もなくて過ごしやすいなぁ。
外で読書するならテラスだけど、ヒロイン行ってたから遠慮しよう。
後は適当にベンチで読むのもいいけど…ベンチで1人座って読書とか、モロぼっちです!って言ってるようなものじゃない?
さすがに多少恥ずかしい!でも家で読むには勿体ない天気なんだよなあ…!
「あ」
中庭に行きましょう!
で、来たのはいいけど中庭ってベンチとか無いのよね。
ていうかそこまで広くもないし。木、生えてるだけで特に花壇とかもないし。
…ん、でも待てよ?この木、校舎沿いに生えてるから登れば屋根の上に行けるのでは?
少し左右を確認してみたが、よし誰もいないな。登ろう。
年季の入っているそれは、多少足に体重をかけても折れそうもないほどに頼もしいものだった。
木の窪みに足をかけて一気に踏み込む。少し飛ぶように右手で上の枝へ手をかけて、さらに足で駆け上がる。
ほいきた枝の上。
そしてちょうどよく、屋根もありますねと。
石造りの屋根は、雪が降らない地方なので傾斜もかなり緩く歩きやすい。
実家の屋根の傾斜は崖みたいなもんだから、こうやって歩くのは無理だろうな…。
うまい具合に日陰になっている所を見つけて、腰を下ろした。
ああ、太陽があったかい。春が来たって感じがする。
パラパラとページをめくり、さて読み始めようかとしたその時ーーー。
「は?誰?」
「え゛っ!?」
まさか声をかけられるとは思わず、緩み切った体は一気に縮こまり思い切り声を上げた。
「っ叫ぶな!」
大きな声に慌てたように、自分の口元に人差し指を当てているのは声をかけてきた男の子だ。
私が来た道にいるので、おそらく同じ方法でここに登ってきたのだろう。
なんてことだ、せっかくの穴場だと思ったのに。
「…………」
「…なんだよ。叫ぶなとは言ったけど黙るなとは言ってないぞ」
つーかなんか見覚えあるような?ないような?
「そこ、俺の昼寝場所だからどけよ」
「は?嫌」
「は?」
ピシ、と2人の間に何かの亀裂が入った音がした。
「私が先にいたんだもの。遠慮するのはそちらでしょう」
「令嬢が屋根の上になんか何の用があるんだよ。言い触らさないでやるからどけって言ってんの」
「そもそも、人に頼む態度じゃないでしょ?せめてもう少し下手に出たら?」
「そしたら降りんのか?」
「いいえ?」
ピキピキと今度は顔にシワが出来る。
どこのどいつだか知らんがこういうのは先着順って決まってるんだよ!一昨日きやがれ!
「……セントポーリア公爵家だろ?こんなことしていいのか?」
「うちの家は寛容だから気にしないわ」
「…仮にも第4王子の許嫁だろ…」
「王子も特に気にしないもの。それより読書したいから黙ってくれないかしら?」
「…お前な…!」
ていうか、私が公爵家だって知ってるのにお前呼びするってどういう………、あっ。
「…これだから雑草の家は…」
「……首刈り人に言われたくないわ…」
「………」
「………」
藍色の、短髪。鋭い目つきに口の悪さ。それで思い出したのは、攻略対象であるイレネオ・アゲラタム…。
同じ公爵家の子息だ。ただし、年は1つ上だが。
乙女ゲームだと口は悪いけど面倒見のいい先輩キャラで、こんなに体の線も細くなくて頼りがありそうな感じだったから気付かなんだ。
「…何よ。謝らないわよ。先に言ってきたのはそっちでしょう」
「…………はぁー。めんどくせ。ま、確かに俺から言ったけど…もういいや、好きにしろ」
「!ありがとう!あなたの分まで大事にするわ!」
「今日だけに決まってるだろ…!」
「チッ…ケチね…」
「…なんなんだよ…お前…」
なんだか呆れたようにため息吐かれたけど一体なんのことだろうか。
「もーいー…去ってやろうかとも思ったけどやめた。俺寝る」
「寝るって、ここで?石だから固いしいくらなんでも外で寝るのはやめたら?風邪引くかもしれないじゃない」
「ほっとけ」
ごろん、と日陰で横になる。確かに今日暖かいけど、まだ3月だよ!いつ急に寒くなるか分からないのに!
「ぐぅ…」
いや寝るの早いな!もう!




