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「一体どういうつもりですの?」
どういうつもりも何も、なんのつもりもした覚えもないのだが。
目の前には目を釣り上げた女児が3人、こちらを睨みつけていた。
どの子もむくれた顔をしており機嫌が良いとは言い難い。
どうでもいいけど早く終わらせてほしい。旅疲れが抜けてないのに一体なんなんだ。
「アデラール王子と婚約もしているのに…」
「意外と欲張りなんですね!」
話が一向に見えてこないので見つめるしかない。
確かこの子たちは隣のクラスの子だったかな?どの子も伯爵家以上のご令嬢のはずだ。
夏休みを実家で満喫し、最終日の3日前には寮に帰ってくるつもりが弟並びに使用人たちがあまりにも寂しそうにするのでずるずる居座ってしまい、結局寮に着いたのは昨日の夕方頃。去り際にみんなから持たされた荷物を荷ほどきしたり服やらなんやらをクローゼットにしまったりしてるうちにあっという間に夜になり、旅で疲れた体を癒やす時間もなく登校日を迎えてしまったのだ。
しかも日用品が結構減っていたので明日は出かけなきゃいけないし。
早く帰りたい、この一言に尽きる。
「ええと…なんのことでしょう?」
「先ほどのジェラルド様とのことです!」
「ジェラルド様はコレット様の想いびとなんですのよ」
「今、わたくしとの婚約もお父様に頼んで進めてもらってるんです」
ぽ、と頬を赤らめながらそう呟くのは侯爵家のコレットだ。
「最近、ユーメリー様がジェラルド様をお供に指名してしまうので、断られているんです!いくらジェラルド様が素敵だからって、取らないでください!」
「そうです!公爵家だからって、横暴ですわ」
………あー。噂じゃ、お気に入りの騎士を彼氏感覚で連れ回す女子学生もいるとは聞いていたけど。
モロじゃないですか。あちらさんも暇ではないだろうに、しかも騎士って身分は爵位としてほぼ最下位だから断りづらいだろうに、おしごとってたいへんだなぁ。
「そ…そうだったんですね。コレットさん?私、あなたの想いびとだとは知らなかったのです。ごめんなさいね」
「知らなかった、ですって?みんな知っていることですよ?」
「みなさんコレット様のためにご遠慮してくれているのに…」
本当に知らないよ、ぼっちだからそういう情報入ってこないんだって!
「………お2人とも、いいです。知らなかったのなら、今後は一切、ジェラルド様に関わらないでくださいませ!」
「コレット様、お優しいですわ」
ぷりぷりした表情で、ふん!と髪を揺らして去って行った。
………さて。
あの3人が去って行った場所とは正反対の、廊下の角へ足を運ぶ。
「と、いうことで、ジェラルド様?私はもう壁役にはなれそうもないです」
「うっ!?き、気付いていたんですか…」
苦笑いをしながらこちらへ上から目線を送るのは、かの中心人物、イケメン騎士ジェラルドだ。
先程の一件で腑に落ちたことがある。前々からやけにジェラルドが私に付いていきたそうにしてた理由は、先程のコレットだ。
コレットの家は侯爵家で身分も高く、他の生徒はそれに遠慮してジェラルドには近づかない。でもジェラルドはコレットをあまり好いてはいない。
体良く2人きりのデートを断る理由として、公爵家の私との用事があるとでも言うのが一番良い。
コレットより身分の高い女子生徒は今のところ、学園に私しかいないし。
「あの……申し訳ありませんでした」
「え!?あ、いいんですよ頭を下げなくても…」
「いえ…言葉を悪く言えば、ユーメリー様を利用していたことになりますし…」
「助けていただいているのはこちらですから。侯爵家のお嬢様ともなればお断りするのも大変でしょう?」
「はは…まあ…あまりそういうのは得意ではないんです、成り上がりなもんですから」
心底苦手そうに語ってはいるが、むしろ爵位を外れて街騎士から成り上がって学園付きになるほどにこの若さで出世した、ということはかなり人望と腕に自信があるのだろう。
成り上がりなら断るのが苦手なのも無理はない…貴族社会は嫌なことをのらりくらりいい感じの言葉でかわし続けてなんぼだし。
「けれど…ご婚約の話もありましたが、大丈夫ですか?」
「ああ、そこら辺は手を打ってあるのでご心配なく。今所帯を持っても、放っておいてしまいますしね…」
家庭を顧みないくらいまだまだ出世したい、ってことだろうか。やるねえ。
「…大変でしょうが、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます…、はは!ユーメリー様はなんというか、大人びた方ですね。だからつい頼ってしまったのかもしれません…。もちろん、この国を守る為に邁進し続ける所存です」
その3ヶ月後、臨時招集された山賊討伐にて輝かしい功績を挙げたジェラルドは学園付きの騎士から離れることになった。
もちろんコレットが泣き暮らしたのは言うまでもない…。
もう会えなくなってしまったしどこにいるかも分からないけど、頼もしい男性だった。
…ていうか、友達がほしいんだけどうまく行かないよなー…。
「ユーメリー様?どうかしましたか?」
「え?ううん!なんでもないわ、ごめんねエリク」
「いいえ!お付き合いいただいてありがとうございます!」
大好きな神話の本を胸に抱えながらキラキラ笑う少年は、最近癒しになりつつある。
…アデラールって婚約者がいるのに他の異性で癒されるのもダメだとは思うんだけど、…頭では分かってるけど…!
屈託のない笑顔って本当、癒されるよね…。やっぱり貴族の学園だからか、あまり学園内でもこんな笑顔は見られないような気がする。
ホームシックの1番の理由は笑顔なのではないだろうか…私も思いっきり羽を伸ばして笑いたいわぁ…。
「ユーメリー様って、少しですけど姉様に似てる気がします」
「エリクの…結婚したお姉さんよね?」
「はい。いつも、神話の話を聞かせてくれて…たくさん僕の話を聞いてくれるんです。僕、あまり喋るのは得意じゃないはずなのに…ユーメリー様は聞いてくれるので…なんていうか…」
「それはエリクがいつも楽しそうな話をしてくれるから、私ももっと聞きたくなるんじゃないかな?きっとお姉様もそうだと思うわ」
「…僕…、…。ありがとうございます!」
「いいえ、私こそありがとう。……ところで、その怪我のこと…聞いてもいい?」
「あ、これですか?」
会った時から気になっていた、頬の青痣だ。そこまで酷い見た目ではないが、じんわりと頬に色がついている。
殴られた痕…だよね…?いつも通りすぎる笑顔で話始めるもんだから切り出せなかったけど、一体何が…。
「前に僕のことをチラチラ見てた女の子なんですけど…実はその子、僕のこと好きだったみたいなんです」
「そうなの」
知ってた。
「しかも、前に僕の本を取り上げていた男の子はその女の子を好きだったみたいで…」
「…まあ」
それでいじめられてたのか…八つ当たりじゃん…。
「ある日呼び出されて、あいつのこと好きなのか、って聞かれて、まさか!って言ったらなんだと!どこが気に入らないんだよ!って殴られて…」
「な、殴られたの?やっぱり?大丈夫?」
「はい!前までなら、きっと泣くだけだったんですけど…自分でなんとかしないと意味ないって思って、僕も殴り返したんです!」
えっそんなアグレッシブだったっけ。
「…まあ、結局負けちゃったんですけど…でも初めてやり返しました!あっちも、もういいよ!って言ってあれから絡んで来ないんです」
「そ…そう?結果良かったなら…安心したわ」
「…へへ…まだ押すと痛いですけど」
「あまり無茶はしないでね?手当てはしているの?」
「寮には侍女もいるので、薬を塗ってもらってるので大丈夫です」
ニコニコと変わらぬ笑みを絶やさぬエリク。これが少年の成長ってやつなんだろうか。
口の悪い義弟を思い出して重ねてしまい、思わずポンポンと頭を撫でた。
ツヴァイもこんな風に、真っ直ぐ育ってくれたらいいなあ。
「!…あ、あの…」
「あ…ごめんなさい。ちょっと弟を思い出してしまって…」
「確か…来年入学されるんですよね」
「ふふ、そうよ。私の可愛い弟なの。ちょっと口は悪くて素直じゃない時もあるんだけど…」
「わあ!ぜひ聞きたいです!」
そのまま家族の話に花が咲き、久しぶりに癒される時間を過ごした。




