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「神話が好きなのね」
「ええ、とても!」
本を取り上げられているところを助けた、次の日の放課後。
図書室の隣にある談話室でエリクと話をするために来たのだ。
昨日、なんで話をしたいかと聞いたところ、創世記の神話がとてつもなく好きなようで、特にセントポーリア家が気になっており話を聞きたいということだった。
「でも、私は確かにセントポーリア家だけど…そういった神話とか創世記の話はあまり詳しくはないのよ?」
「いいえ、いいんです。古の華の貴族様とお話し出来るというだけでも、胸がいっぱいです!」
キラキラした目で、本当に嬉しそうに語るエリク。
寮に帰ってから貴族録で探してみたところ、シュンランの花言葉は控えめな美。侯爵家ということもあってあまり説明はなかったが、劇団を経営しているらしい。
確かに彼は派手な美形ではない。けれど、長めのブルーグレーの前髪が少し揺れる度、クオーツのような透き通る目に見つめられるとドキリとする。
目立ちはしないが、一度存在を気にしてしまえばどうしようもなく囚われてしまいそうな。うーん…10歳でこれなんだもの。将来が恐ろしい。
「あの、領地ではどのようにお過ごしになられていたのですか?」
「あー…エリク?私、あまり堅苦しいのは好きじゃないから普通に話してもらっていいんだけれど。敬語じゃなくてもいいのよ?」
「そんなっ恐れ多いです!でも、あんまり堅くならないようにしますね!」
常に本を持ちながら、恐縮しっぱなしといった態度を見るとなんだか神格化されているような気がして大変恥ずかしくなる。
ただの人間なんでね、あの、しかも中身こんな感じなんだ。なんかごめん。
「学園に入る前は、そうね。あまり皆と変わらないんじゃないかな?朝お祈りして、ごはんを食べて、授業を受けて…。終わったら弟とよく遊んでいたわ。花壇の水やりとかメダカ取りとか」
「花壇の世話なんて、僕はしたことがないです。ユーメリー様はやんちゃなんですね!」
「…ふふっ、そうかもしれない。あとは使用人の仕事を手伝ったり、邪魔しに行って怒られたり、いたずらして逃げたりとかそんな感じだったわ」
「興味深いです。やっぱり別名の通りのお家なんですね」
「ええ。そういえば、お父様からは怒られたことがないわね。毎日、いつも使用人たちに怒られていた気がするわ」
「すごい…!やっぱり僕の想像した通りだったんだ…!」
何やら真剣な顔でメモ取り始めたけど、一体どこに記録に残したいほどの情報があったというのだろうか。
開かれたメモ帳に何気なく目をやると、細かい字でびっしりと何かが書かれていた。
「あ…!は、恥ずかしいのであまり見ないでください…」
「あぁ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくって。つい目がいってしまって…」
「いえ、分かってます、すみません」
照れているようで耳が少し赤く染まっている。
…で、談話室に入った時くらいからずっと気になっていたことを聞いてしまおうかな。
「ねえ、エリク」
「なんでしょう?」
す、っと少しだけ顔を近づけて声を落として話しかけた。
「あのね、少し離れたテーブルに座ってる女の子…、ずっとチラチラこちらを見ているんだけれど。知ってる子なの?」
「…ああ、伯爵家のお嬢様ですね。入学してきたときから僕をチラチラみて、他の子とひそひそするんです。きっと僕の悪口です…」
「そ、そんなことないわ」
シュン、と抱きしめてあげたくなるくらいしょげてしまっているが、なんということだ。本人の認識とは180度丸っきり違っているものだっていうのに。
だってチラチラとエリクを見てるときは、うっとりとしているような顔だし、チラチラと私を見るときは怪訝な顔しているんだから。
「うちの家は、代々変な人に執着されやすいみたいなんです…。小さい頃も同じ年の女の子にずーっと連れまわされたり、他の貴族の女の子が毎日手紙を書いて送ってきて釣書と一緒に押しかけてきたり…」
めっちゃ大変そうな人生送ってるなあ。異性運悪そう…可愛そう…。
きっとあまり意思が強くなさそうなせいか、独占欲がそそってしまうんだろうなあ。
「だからあんまり…他の人と話さないようにしてるんです。姉様も小さいころからいろんなことがあって、学園入学の時に同じ年の人と婚約してずっと一緒にいたみたいです」
「お姉様がいるの?」
「はい。すごく優しくて頭がいいんです。もう結婚しているんですけど」
「いいわね。弟はいるけど、たまに上の兄弟も欲しくなってしまう時があるの」
「ああ、僕は下の兄弟が欲しいと思ったことがあります。きっと、いないからそう思っちゃうんですね」
クスクスおかしそうに笑っている彼に、どうか早めに常識のある優しい女の子が来てくれますように…。
「…さて。ごめんね、予定があるからもう行かなきゃいけないの」
「大丈夫です!むしろ、アデラール王子とご婚約もしているのに…僕みたいなのとすみません。あの時はそこまで頭が回らなくて…」
「それは大丈夫よ。アデラール様には許可を取っているし、あまりそういったことは気にしない方なの。こういった解放されたところならまたお話してもいいと仰っていたし」
「うわあ…!さすが王族の方ですね!これも書き留めなきゃ…。あっあと、その、お言葉に甘えて…またお話ししてもらってもいいでしょうか」
「もちろん。楽しかったわ、ありがとう」
「はい!」
あの様子だと興奮してずっと何かをメモ帳に書いていそうだ。ふう、ぼっちなのに今日は2つも予定が入ってる。間が悪いよなあ、あの人も…。
「失礼いたします」
「ああ、メリー。そろそろ来ると思ってちょうどお茶を淹れてもらったところだ。かけてくれ」
読んでいた本から、ゆっくりと顔を離してこちらを見る姿も絵画から出てきたかのような優雅さと気品さが漂う。
2年前より少し大人な顔立ちになった彼は、少年さが少しだけ抜けていて女の子ならだれでも一目見て心を奪われてしまいそうだ。
「ええ。アデラール様」




