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学園に入学してから早1か月。(体は)同い年の子達に囲まれて青春をこれから謳歌していきたいところだけど…。
「ぼっちだ」
ぽつん、と教室に私だけいる中で呟いた。
もうとっくに終業時間を過ぎている中で読書なんてしているのだからそれはそうなんだけど。
いやいや好きでぼっちなんじゃない。
もちろん話しかけたり話しかけられたりしたけど、つい目線が大人からになってしまうというか…。
授業中に手紙の回し読みが来て、「今は授業中なので遠慮しますね」と返したり
ホームシックで連れてきたメイドに八つ当たりしてしまっているのを「ちゃんと謝った方がいいわ」とか言ってるうちに皆んな去っちまったよ…。
伯爵未満の子達なんて、上位の爵位持ちにはほっとんど近寄って来ない。
そんなこんなでぼっちです、はい。
鋼メンタルなので挫けはしませんが。
ヘザーとは教室が遠いし、仲のいい友達も出来たようですれ違う時に挨拶する程度になってしまった。
アデラール王子とはたまーに話すけど、2人きりになるととたんに愚痴っぽくなってくるから最近こちらから近寄ってない。
友達は欲しいけど、やっぱり中身が皆んな年相応だからなぁ…、高等教育に入った後から作るのもいいかもしれない。
「よし、帰ろ」
ぱたん、と読みかけの本を閉じていそいそとバッグへしまった。
帰っても1人なのはやっぱり少し寂しいなぁ。昨日来ていた手紙でも読もう。
まだ入学して1か月しか経っていないのに、実家からは毎週誰かしらからの手紙が届いた。ジルに至っては毎週届く。しかも、連れてこなかったのをよほど根に持っているのか、手紙の終わりには毎回『今からでも遅くありません。私を呼んでください』で締めくくっている。
貴族の子息令嬢ということもあり、メイドや執事を学園寮に連れてこれるので9割の生徒は寮に帰っても上げ膳据え膳が受けられる。
私はといえば、基本1人でなんでも出来るので遠慮した。大反対されたけど。
しかもその大反対してきたのが両親じゃなくて使用人なんだもんなあ。
一人ひとり説得して諦めてもらっていったけど、案の定ジルとアリーサは最後まで中々諦めてくれなかった。
もう本人そっちのけでお互いのバトルおっぱじめてた。バトルしたいだけなのではないだろうか。
学園では朝早くから夜遅くまで食堂もやっているし、公爵家用の部屋はバストイレはもちろんキッチンまで付いているので自分で料理も作れる。
もはや寮じゃない、アパートだよあれ。
帰りしなに食堂に寄ると、ちらほらと生徒が入っているのを横目に従業員用出入口で厨房手前に行く。
「おばちゃーん、ユーメリーよー」
「はいはい、そろそろだと思ってたとも。今適当に詰めるからね」
笑い皺の多いこじんまりとした女性は、厨房長のリザ・ダンドリオン。
まさに食堂のおばちゃん!といった感じで、人望も食事の味も確かな人だ。
せっかく家にキッチンがあるのに料理しない、なんて選択肢は無かったんだが、いかんせん食材を買いに出られない。
学園の周りは塀に囲まれており、昼間なら自由に出られるけど夕方以降は執事か騎士が付いていないと出られないのだ。
休日の昼間すら1人では出られないのだから堅苦しいにもほどがある。
まあ、仮にも生徒は全員貴族だし、いくら騎士が見回りをして犯罪率の少ない王都とはいえ、誘拐や諸々の犯罪を心配するなら当たり前だろう。
ちなみに執事やメイドは買い出しがあるので外出は自由。
そんな感じで、お父様と学園の許可を取って食堂の野菜を分けてもらっている。もちろん代金は実家持ちだよ!
冷蔵庫がないのと、毎日料理と洗い物するのは嫌なので大体2〜3日に1度のペースで貰いに来る。
「今日はカブが美味しいよ。煮ても漬けてもよしだ!」
「ありがとう!帰ったらさっそく調理するわ」
「まだ1年生だっていうのに、一人でなんでもやってて偉いねえ…。一人じゃ朝起きられない高等教育生だっているのに」
「一人暮らしなんて学生の時しかできないから、すっごく楽しんでるわ」
「そうかいそうかい。なんかあったら頼りな!友達は出来たかい?」
「…今後の最大の課題よ」
「あはは!頑張りなね!」
バンバンと肩を力強く叩かれて激励された。友達、欲しいともさ、友達…。
新聞紙にくるまれた1食分の野菜を抱えて女子寮へ戻る道中、「返して!」と懇願するような高い声が後ろからかすかに聞こえた。
振り向くと、複数人の男の子がこちらに走ってきたのが見えた。
「っはあ、はあ、返してったら!」
「奪ってみろよ、のろま!」
「男なのに運動もできねーのか!」
一番後ろから走ってくるのは線の細い、ブルーグレーの髪色の男の子だ。
恐らくはその子から奪った本をもって先を走るのは、反対に日焼けした活発そうな男の子2人だった。
なんとなく同じ学年のようだが顔に一切見覚えがないので、離れたクラスの子たちだろう。
「これ、池に投げてこようぜ!」
「じゃあ池まで競争し…うわっ!?」
私の真横に来る瞬間に足をそっと横に出すと、見事なまでに綺麗に転んでくれた。
走ってる最中によそ見しちゃダメだよ。
「いってーな、なにすんだよ!」
「お前さっき足出してたろ」
転んで手から放り投げられた本を拾い、表面についた砂ぼこりを軽く払った。
物を取り上げてからかうとか、やっぱりどこに行っても子供は子供らしいんだなぁ…。
「そうだけど、それが何?」
「何って…、早くそれ返せよ」
「でもこれ、あなたの物じゃないでしょう?」
大きく息を切らしながらやってきた男の子に、先ほどの本を渡した。
「げほっ、あ、ありがとう…ございます」
「勝手なことすんなよ!」
再度、本を奪おうと伸ばしてきた手を掴んでぎゅっと握ってみた。
「!?」
「え、な、なにやってんの?」
「君は、この子の何がうらやましいの?」
「はあ?こんなやつ別に…」
「嘘。自分は持ってなくて、うらやましくて、でもどうしようもなくて、イライラしてたんでしょ?」
「違う!っていうか手離せよ!」
「認めるなら離してあげる」
「違うって言ってんだろ!いいから離せ!」
「じゃあもう本を取り上げないなら離す」
「わかった!わかったから!」
パッと離すと、「なんなのあいつ!?」「頭おかしいんじゃねえの!」とかなんとか言いながら男の子達は去っていった。
頭がおかしいとか言うなや、傷つくなあ。
ブルーグレーの男の子を見ると、一瞬の間があった後に慌てたように頭を下げてきた。
「あのっ本当にありがとうございました!」
「たまたま通りがかっただけだからいいわ。それより大丈夫?いつもあんなことされてるの?」
「いいえっ同じクラスですけど、あんまり話したこともないのに…」
「そう。クラスが違うから私は何もできないけど、あまりひどいなら先生に相談した方がいいわ。一人で悩みすぎないでね」
そのまま去ろうとしていたが、歩き出そうとしたときに男の子から呼び止められた。
「あ、あのっ」
「?どうかした?」
「セ、セントポーリア様ですよね?僕、侯爵家のエリク・シュンランと言います。よければ、その、ぼ、僕とお話ししてくれませんか!?」




