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王様の話が終わる頃、静かに音楽隊が動き出した。紡がれる曲はとても綺麗で、それに合わせて自然とホールの真ん中から人が消えた。


つまりはダンスのお時間ですね。ふぅ、とりあえず転ばないように気を付けよう。


目の前に手を差し出す王子を見ながら、早くご飯が食べたいなぁなんて思ってしまう。




「メリー、手を」

「えぇ。エスコートをお願いします」



最初に踊るのは王子と私だけ。婚約者のお披露目と、お手本という意味らしい。音に合わせて一歩、また一歩と真ん中へ近づいていく。

ダンスは嫌いじゃないし、むしろ好きな方だ。しかし性分なのか、どうにも目立つのはあまり好きでじゃない。

ああ…そこのうらやましそうにこっちを見ている女の子に代わってあげたいくらいだ。8歳ほどの女の子といえば、異性へ興味を示し始める頃だろうか。夢を見始める頃かもしれない。目の前に素敵な正真正銘の王子様がいたらそりゃあ目も輝くよね。

あ…っといけない。また目が死にそうになってた。あれほどジルに注意されたんだから本番くらいは我慢しないとね。


「緊張しているか?」

「アデラール様は導くのが上手ですから。2人だけの世界になったみたいです」

「誰にも聞こえないんだし、気を遣わなくてもいいぞ」

「早くご飯たべたい」

「ははっ、…そうだな。俺も早く終わらせてゆっくり喋りたい。フェルにもメリーを紹介したいし」


フェル…といえば、クンシラン家のフェルナンドかな。どうやら手紙に書いてあった通り、かなり仲良くなれたらしい。略称で呼ぶくらいだし。


「フェルと、一緒に作ったゲームをしたんだけどあいつも頭がいいんだ。なかなか勝てない」

「王子と良い勝負をするなら私でも勝てないかもしれないですね」

「む…王子じゃなくて名前で呼んでくれって言っただろ」

「ああ、ごめんなさい。呼びやすくて…つい」

「呼び方変えても気にしないぞ?」

「誰かに聞かれたらまずいので、遠慮します」



踊りつつ喋っていると、途中から少し曲調が代わり華やかなものになった。それを合図に、周りからダンスのペアがどんどん出てくる。



「…人数も増えたし、そろそろはけてもいいだろ。少し休もう」

「そうですね」


観客に軽く一礼した後、子供たちが控える壁際へと戻る。

よっしゃ、ごはんだ。


「フェルは…やっぱまだ踊ってるなあ」

「では私は休憩しますので」

「食い物取るの早すぎだろ。両手に抱えてどうする、いったん置けって」

「…そうでした。食べるためのテーブルとか無いんですよね」

「全く…前よりお転婆になったか?」

「もともとです」



しぶしぶ一度皿を戻して一口食べる。ふぉぉ…なんと美味しいローストビーフ。冷めても美味しそうな料理ばっかり並んでるから全部美味しそうでもうダメ。今だけ胃袋3倍になってほしい。

…だがしかし。今日のためにかーなーりコルセットで絞られてしまったために、食べれても3皿ほどしかならないだろう。

非常に遺憾である。ほんと嫌、コルセット文化よ廃れろ。

奥様方とかはさ?お胸を強調するためにウエストを絞り上げるのはまだわかるよ?でも8歳ってまだぺたんこだよ?無いものを強調しようとしたって駄目でしょうに…全く。



「アデラール様も食べますか?」

「…流石にちょっと緊張してたから、腹減ってないや。メリーはすごいな」


年の功ってやつです。


パチパチと、拍手の音が聞こえる。どうやら子供たちが踊るのも一旦ここで終わり、あとは大人たちも混ざって自由ダンスのお時間らしい。


「…みんな戻ってきたな。俺は最低でもあと3回は誰かしらと踊れって言われてるから…じゃあな、メリー」

「えぇ、また」



「ユーメリー!あっ…もう食べてるのね、私も欲しい」


とてとてと駆けよってきたのはヘザーだ。うーん、まだドレスに着せられている感があるけどその慣れない感じもとても可愛らしい。将来きっと美人に育つことだろう。


「ヘザー、お疲れ様。キッシュがすっごく美味しいの」

「食べるわ!」


しばし料理に舌鼓を打つ。周りを見ると女の子たちは飲み物も飲まず、なんだかそわそわしている。


「?」

「どうかした?」

「みんなお腹空いてないのかな…って」

「え…そりゃそうでしょ。誰かにお誘い受けるかもしれないんだもん」


ぱくり、とキッシュの最後の一口を口にしながら言い放つ。


「あ、だからそわそわしてるのね?なーるほどー」

「ユーメリー…」


なんか憐れむような…呆れるような目線で見られている気がする。


「アデラール王子が婚約者だからって余裕なのはわかるけど、それはどうかと思うわ」

「余裕…ってわけではないけど…」

「ま、8歳で婚約者は王族でもないから早いかもだけど、いい候補を見つけておくのは今からでも早くないんだから!」

「随分大人びたことを言うのね…」

「私はあんまり興味ないけどね。絶対自分の家より身分の高いとこのお嫁さんになるって言ってる子、結構いるわよ」


はー…女は小さくても女、ってことですかい。精神的成長は女子の方が早いんだろうけど、おませさんだなぁ…。近所のお兄さんとかに憧れていた方が可愛いってもんよ。


「ヘザーはすごく可愛いから、焦らなくてもいい旦那さんは見つかると思う」

「ちょっと…!そ、そういうの真顔で言うのやめてくれる!?」


ヘザー可愛いよヘザー。言われ慣れていないからか顔を真っ赤にしちゃって。


「…料理無くなってしまったわ。ちょっと取りに行ってくる」

「えぇ…どんだけお腹空いてたのよ、早くない?」


さーて、次の料理料理…っと。ちょうどよく表れてくれたメイドさんに空になった皿を渡して料理を眺めていると…、



「ユーメリー嬢、僕と1曲、踊ってくれませんか」

「え?」



後ろから声をかけられ、思わず振り向くと、そこには綺麗に紳士のお辞儀をするアルノーがいた。




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