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「お誘いありがとう。パーティが終わるまで壁の花になることを覚悟していたの」
「自分の家よりも身分の高い女性を誘うのは勇気がいりますからね。あなたほどの綺麗な方を放っておくのは、紳士としてどうかと思いますが」
あらあら…。商人って口が上手いイメージだったけど、まさにだ。こんなにスラスラ女性への誉め言葉が言えるとは…8歳なのに末恐ろしい。見た目はちょいポチャだけど。
ダンスしてる間は踊るのに集中してもいいんだろうけど、つい手持無沙汰で話しかけてしまう。
「口が…お上手ね」
「本心を言ったまでです」
「あのー、私にはかしこまらなくていいのよ?うちの噂は知ってるでしょ」
「ええ、知っていますよ」
「じゃあ、お互い堅いのは無しで」
「それは僕と友人になってくれる、ということでしょうか」
「もちろん」
目指せ友達100人。
「では…遠慮なく。自己紹介が遅れたけど、アルノー・プルメリアです。ごめんね、本当はエミールとかに誘われた方が良かったんだろうけど…」
「え?どうして?」
「ほら、あいつって、かっこいいだろう?」
「あ、うん…まあ、そうね」
ちらりと、近場で踊るエミールを見る。エミールといえば、代々学者を輩出しているアルストロメリア家の子だ。サラサラでほんの少し癖の入った水色の髪が動くたびになびいており、目が大きいからか中性的なアイドル顔でとても見目麗しい。
「でも、私を誘ってくれたのはあなたでしょ?あなたに感謝してるの」
「そう…なんだ、ありがとう。やっぱり君のとこって、皆変わってるんだね」
「え、皆?」
「あーごめん、変な意味じゃなくって…!父さんがセントポーリア領とは商売がし辛い、って言ってたんだ。単なるいい商売だけじゃ取引してくれなくて、義理だったり人情だったりとかを優先させるから」
「…っふふ!うちの領らしいわ」
「うん、そういうのもあって、ちょっと話してみたくて誘ったんだ」
「大歓迎よ」
あ、お父様とお母様も踊ってる…。とても8歳の子持ちには見えないくらい、美男美女だ。ダンスもすごい上手、って、体勢が崩れそうになったお父様をお母様がフォローしてるだと…。リードされとるやないかい。
「でも意外だったな。オークションで使う手形がわかるなんて」
「あ、あー…お父様がね、前にそういう話をしてくれたことがあって」
「博識なんだね」
「そうでもないわ。それを言うならアルノーの方が…、ところで、呼び方はアルノーでいい?」
「うん。僕も、ユーメリーさんでいいかな?」
「ええ。アルノーはもうお仕事とかに行っているの?手形、知ってるのよね」
「公務で何度か、ね。あと、うちは商人の家だからさ…、6歳くらいのときから覚えさせられたんだ」
「流石ね」
「特色が違うにせよ、どこの家も大変だろうから。僕だけじゃないよ。エミールなんて赤ちゃんのころから先祖が見つけた数式や元素記号なんかを読み聞かせられているし、イキシア家では4歳から精神統一の仕方を学ぶんだって」
…うちって結構自由なんだなあ。やばい、感謝しておかないと。ジルに、勉強させすぎ!とか思ってたけどぜんっぜんでしたごめんなさい。
「っと、王子様の婚約者と長時間踊るわけにもいかないよね。そろそろ終わろう」
「ええ、誘ってくれてありがとう」
どうにか、最初から最後まで壁の花で終わらずに済んだ。
ふぅ、しかしこうずっと立ちっぱなしだと疲れるなぁ。ん?ホールにいる人の数が減ってる気がする。
「ねえ、ちょっと休まない?」
「そうね。庭に行きましょう」
通りすがりの女の子たちの会話が耳に入る。休むのに庭に行くの?と、なんとなく後ろを付いていくとホールを出てすぐの中庭にベンチが置いてあり、ちらほらと座っている人が見えた。中庭の周りは騎士が囲んでおり、どうやら正式な休憩所となっているらしい。
パーティ会場が明るくてそこまでの時間経過は感じなかったが、外はとっぷりと暗くなっていた。けれど庭には等間隔に灯台が置いてあり、薄明かりが調度品を照らして雰囲気の良いところになっていた。
ほーう、なるほど。ここで休憩するわけだ。お!あそこの8歳の男女、手をつないでいるだと…。既に恋人同士か何かだろうか、なるほどけしからん。
木陰の目立たないところにあったベンチへ腰を下ろす。はぁ…足に血液が戻っていく感じがする。パーティというものに(前世から数えても)生まれて初めて参加してみたけど、煌びやかでなんだか落ち着かないなぁ。早く、どこを見渡しても山が見える自分の家に帰りたいよ。
「…ねえ、見た?セントポーリアのあの子。公爵家なのにすっごく貧相だったよね」
「うん。やっぱ貧乏なのかな?あはは」
私のいる木の反対側に置いてあるであろうベンチから、あどけない少女の声が2つ。えぇ、声はあどけないのに内容ときたらね。
うーーーん盗み聞きはしたくないんだけど、今動くと私がいることがバレそうだし…じっとしておこう。
「あれなら私の方がアデラール様の婚約者に向いてると思うー」
「絶対そーだよ。マノンちゃんすっごく可愛いもん」
「ふふっだよね!」
あらあら…王子のこと、親しくもないのに名前で呼んじゃって。誰かに聞かれたらどうすることやら。
「それに緑色の髪なんて、確かに珍しいけど田舎の家にお似合――」
「その辺にしておけ」
…ん、聞きなれない声だ。
「…フェ、フェルナンド様…」
「あ…」
宰相の…クンシラン家の子らしい。
「お前たちの会話、王家への侮辱ととってもいいくらいだ。もう8歳になる年だろう?なら子供の戯言では済まされない。ついさっき、大人への仲間入りしたばかりなんだからな。確かカルミア家の者だな、このことは父上に報告させてもらう」
「そんな、や、やめてください!」
「あぁ…あと、隣にいるお前も同罪だ」
「えっ…あれはマノンちゃんが言ったことで、私は別に…」
「ちょっと!」
あーあーあー大ごとになってきちゃった。あの子たちもまさかこんなことになるとは思わなかっただろうに…。止めに入ろうかな…。
「…あのー」
「!」
「え!?」
「!?」
木の裏からぬっと顔を出してみると、三者三葉に驚きの顔が見えた。
「えー、っと。私、ユーメリー・セントポーリアなんだけど…その子たちのこと、許してもらえない?」
「…それはなぜだ?噂通り、ただ単に同情心が厚いお人よしだからか?」
カッチーン。
「ちょこっち来い」
「…は?」
「来いっつーの」
ぽかんとするフェルナンドの腕を掴み、さっきの女の子達に見えないように木の裏へ再度戻る。
「あのさあの子らも別に悪気があったわけじゃないの、分かる?本当に文句あるならパーティ会場で堂々言ってるわよ。それをこんな目立たないとこで言ってるってことは本人も現実は分かってんの。友達におだててもらえればそれで満足するからここで言ってんの、わっかんないわけ?それに悪口言われた私がいいっつってんだからいいでしょうよ何に文句あるわけ?王族には何も文句言ってないし、あんたは友達同士の会話も盗み聞きして全部取り締まろうっての?」
「いや、何もそこまでやろうとは…」
私に気圧されてか、たじたじな反応を見せるフェルナンド。しかしまだ言い足りん。
「男には男同士の世界があるように女には女同士の世界があんの!…はぁ。それに、あの子たちはただアデラール様に憧れていただけだと思うわ。なのにまぁ、こんなあんまり着飾っていない女が婚約者で、悔しかったんでしょう。王族を悪く言っていたなら看過は出来ないけど…、淡い恋心から来た可愛らしい嫉妬くらい、許してくれてもいいじゃない?」
「………そこまで言うのなら、いいけど…」
「…はいっ!じゃあこの子たちに言うことあるよね?フェルナンド様」
言質は取ったとばかりに、もう一度ずいと女の子達の前にフェルナンドを押しやる。
「っ…どう、なるのでしょうか、我が家は…」
顔を真っ青にしながら俯いており、私は急かすようにひじで隣の男の子をつついた。
「…先ほどの話は、王家を悪く言っていたわけではないことは分かった。会話も大勢には聞こえない場所で話していたことだというので…前言撤回しよう。今後気を付けるように」
「…はい!ありがとうございました!行こう、マノンちゃん!」
「………ご配慮、ありがとうございます」
ぱたぱたと婦女らしからぬ動作で会場へ戻っていく2人。
「これでいいのか」
「ええ、これでいいわ。人の口には戸が立てられないんだから、多少の風通しは許した方がいいわよ。その方が、色々と耳に入ってくるようになるから」
「……君は、もしかしてそれを狙って…」
「さぁ、どうでしょう。私は休憩も済んだからそろそろ会場へ戻るわ。ごきげんよう、フェルナンド様」
「…フェルナンドでいい。同じ公爵家だろう、ユーメリー」
「そうね。また会いましょう、フェルナンド」
「っはぁ、はぁ、良かったね、マノンちゃん」
「触らないで」
「っ!」
「友達だって言ってた癖に、嘘つき。二度と私に話しかけないで」
「…ごめ、なさ……。…さよなら」
「……絶対、許さない。ユーメリー・セントポーリア…」
不穏な空気になりましたが次回は全く引きずりません。
次回は年内に…もう2話か3話は更新したい……。




