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「ランタナ家といえば、イキシア領のところだったかしら?」
「そうよ。うちは代々養蜂場をやっているの。あ、とはいっても、王家とかに渡すような高級品じゃなくって、品質も値段もちょっと良いくらいのやつなんだけど…」
「じゃあきっと、とっても広い花畑があるんじゃない?」
「もちろん!ちょっと高い丘からの景色はすっごく良いのよ」
「素敵ね。いつか見てみたい」
「ユーメリーならいつでも大歓迎よ。お父様もとっても喜ぶと思うわ」
やっぱりこういう場所で友達っていると落ち着くわあ。一人でお茶を飲んでても特段気にならない程度の神経はしてるけど安らげるかと言われればノーだし。
特に年末年始の飲み会やら歓送迎会やらなんてもう、いつのまにかグループになって一人ぽつねんと…。ああやだやだ、思い出さないでおこう。
その時、しばし止んでいたドアの開く音が聞こえた。
「アデラール様、こちらに来ずとも…」
「いい。他の者はここで待つのだろう?メリーにも会いたいからな」
入ってきたのは金髪キラキラ少年…もとい、アデラール王子だ。
うん、王家用の控室は絶対あるだろうからそっちを使ってほしいんだけどな。申し訳ないが、君の好感度を上げる予定はないんだ。
「メリー!久方ぶりだな!」
パァっとこちらを見て花が咲くような顔をしながら近づく少年。顔見せの時からいくばくか背が伸びたようで、子供の成長って早いなあとしみじみ感じた。
「お久しぶりです、アデラール様」
「ご、ごきげんよう」
ぺこり、と私に続き慌てて頭を下げるヘザー。まあ急に王家の人来たらびっくりするよね。礼儀を欠かさないだけこの子は頭は動くようだ。
確かに王子と会うのは久しぶりだけど、ほぼ隔週で王子から愚痴の手紙が来ていたから全然久しぶりって感じはしないんだけどな…。
今まで気軽に心のうちを言える相手がいなかったからか、飢えていたからか、アデラールからはとめどなく弱気な姿勢や日頃の愚痴を延々と手紙で語られている。
へーそーふーん大変ねー、という言葉をオブラートで20枚ほど包んで毎度言葉を変えつつ返信しているが、こちらの意図をくみ取る気は無いのか一向に愚痴手紙は止まない。
「ああ。ずっと会いたかったんだ。またゲームでもして遊びたいところなんだが…残念だ。王都には長く滞在するのか?」
「いいえ、明後日の朝には帰路へ発ちます」
「そうか…」
一気に花がしぼんだ。アデラールの背景にはもちろん何もないんだけど、なんだろう、背後にいっぱい背負っていたキラキラした花々が一斉に枯れていく様子が目に浮かぶ。
少年好きのご婦人にこの顔を見せたら盛り上がりそうだ。
「しかし、10歳には学園入りしますから。そうなれば毎日顔を合わせることになりますよ」
「…そうだな。今よりもっと話す時間も増える、それを楽しみにしておこう。…そろそろ始まるな、私は戻ろう。また後でな」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう!」
その背中を見送り終わったとき、整列するようにという声が聞こえた。
どうやら、本当にこれから始まるらしい。人生で初めての舞台が。
ちょっと大げさに言ってみたものの、あまり緊張することなく王様への謁見も済んだ。
列の並びは家によって決まるので、公爵家たる我が家は前から4番目。
最初はクンシラン家、次にアルストロメリア家、プルメリア家と続いて我が家だ。王家は既に舞台の上に鎮座しており、王様の隣に第一王子と王太子妃。王妃の隣にアデラール王子が座っていた。
私の前にいるプルメリア家のアルノーはややぽっちゃりとした体形の黄色髪の男の子だ。緊張しているのか少々呼吸が荒い。
王様に名前を呼ばれたら目の前まで行き、両膝を付いて祈りのポーズをする。大体2秒くらいしたらさっさと立ち上がり男性は一礼、女性はカーテシーをして反対側へ去る。
先ほど呼ばれて王様の前まで行くと、王様と王妃様の椅子の後ろに来た当初は無かったはずの太陽をモチーフにしたでかい置物が真ん中に置かれていた。
神と王へ挨拶をするから両膝をついて祈りを捧げている意味でやっているのか、又は最初の祈りは神へのこれまで生きていられた感謝をささげて次の一礼は人間の作法をすることで神の子から人間の子へと降りる手段なのか。
日常の何気ない動作や慣習にも目を向けて考えているとなかなか面白い。もちろん持論であって正解しているか分からないし、正解があるのかもわからないけど。
流石にこの動作の意味まではジルから教わらなかったし。帰ったら聞いてみようか、でも帰ったら忘れていそうだ。
眠気覚ましに色々考えていると、もう最後の1人まで挨拶は終わったらしく王様からの有難いお言葉をいただく時間になっていた。
「また今年も今日という日を迎えられたことを神に感謝する。神の采配故か、私の息子アデラールと同年代に古の貴族の子息、子女が誕生しこの国は実りある時代へと成ろう。なんといっても…」
はーーーー眠くなってきた。校長先生のお話みたいな時間故かどうにも睡魔が出張ってきてしまう…。これは他の子供にはもっと辛かろう…って思ってたけどみんな王様目の前にしてすんごい緊張してる、目ランランになっとる。
どうやら私の眠気は緊張感の無さかららしい。偉いなあ…こんな小さいのに…それに比べて私ときたら…。
ジルへの嫌がらせピタゴラスイッチ作るときに自分が泥水被らないように慎重に仕掛けを設置してた時のほうがよほど緊張感漂ってたわ。
あれは傑作だった…。とりあえずは残り2年ほど学園入学への猶予はある。その間に一生分遊んでおかなきゃなー。
公務が始まってしまうのがなんとも面倒だけれど、貴族の娘でもなきゃこんなに毎日遊んでもいられないし、領民への義務と思えば仕方ない。
ふと隣を見るとプルメリア家のアルノーもどこかつまらなそうにしていた。指を何やらせわしなく動かしているけど、なんだろう…どこかで見たことのある形だ。
「!」
思い出した!競売とかセリで使う時の指の形じゃないだろうか。手を挙げて指の形を示すことで値段を提示するっていう…、築地市場のセリ人をテレビで見たときに似ている気がする。
指の形は独特だからなんの数字を示しているかはわからないけど、プルメリア家といえば商人の家だからアルノーが覚えているのも無理はない。
すすす…と怪しまれないように隣のアルノーに近づく。
「ねぇ…それってオークションで使うやつ?」
「!」
こそりと前を見ながら小声で話すと、少し驚いた様子で一瞬こちらを見た。
「…1、2、3、4…」
アルノーの声に合わせて指の動きが変わる。なるほど?人差し指と中指をクロスさせた形が1、人差し指と小指を立てた状態が2…か。
日本では指1本で1、2本で2…とかだったと思うしやはり少々変わっているみたい。
自分も一緒に指を変えてみるが、慣れないせいであまりうまくできない。隣を見るとなんと左手も使って数字を表し始めた。え!?しかも両手別々の数字にしている上に1秒ごとに数字を変えてるんだけど指の神経どうなってるの?
ぐぬぬ…悔しい。生まれてから正真正銘8年しか経ってない子にも出来るんだから私にも出来るはずだ。
待ってろ、すぐに私もその域に達してやる。
こうして、アルノーのおかげで退屈だったはずの時間は闘志を燃やす時間に替えられた。




