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「さあメリー?最終確認でもう一度ドレスを着てみましょう」
「お母様…もう5回は着たのでよろしいのでは」
「何を言っているのですか!我が子の晴れ舞台なのですから、何度衣装合わせしても満足なんてできるわけないでしょう?アリーサ、手伝ってくれる?」
「もちろんです」
どことなく鼻息が荒いお母様とアリーサに、私は何度目か分からない着せ替え人形にさせられている。
というのも、明日はいよいよ王族謁見パーティの日。無事、8歳を迎え神の子から人間の子へと変わる儀式が待っているのだ。
こうして王都入りした3日前から、やっぱりこっちの髪飾りが、いやいやアイメイクはこっちにしよう、まてよネックレスはあっちの方がよかったのでは!?なんて白熱しながら語り合う目の前の女性たちを、魂の抜けた目で見つめるしかなかった。
「ああメリー、なんて罪な子なのかしら…。衣装合わせするたびにどれも似合いすぎていて決められないわ!」
「全くです!」
「言い過ぎ」
親ばかとお嬢様ばかを掛け合わせてはいけない。話がまとまらなくなる。
「今年はなんといっても、メリーと同じ年の公爵家の子息も多いから。きっと一段と絢爛になると思うの。うちも負けてられないわ!」
「お嬢様は緑色の御髪をお持ちですから、どの色の髪飾りを乗せてもまるで花が咲いたように華やかになってしまって…奥様、だめです決まりません!」
「アリーサ、私もよ!いっそ全部盛っちゃいましょうか」
「良い案です!」
「勘弁して」
こんな感じでパーティ前夜は大変騒がしく進んでいき、いよいよ当日。王城へと乗り込んだ。
予定時刻より早めに来てはみたものの、王城入り口は馬車で既に列になっている。招待状を確認しながらの入城となるのでそれも致し方ないか。
「連日の衣装合わせの騒ぎようで、どうなることかと思っていたけど。メリー、とても素敵だよ」
「ありがとう、お父様」
「メリーから助言をもらったおかげですんなり決まったわ」
うん。お母様、舞い上がりすぎてたからね。このままだと頭部も衣装もモリモリアップでとんでもないことになると思ったから、『セントポーリアのいいところは素朴な花の可愛らしさでしょ?ここはいっぱい付けるのではなくて、あえて選び抜かれたものだけでシンプルにしたらどうかな?お母様』と思わず口を出してしまった。
それを聞いた二人は、盲点だった!って顔をしながらうきうきと『そーよね元々が可愛いんだもの着飾らなくていいんだわ』『髪飾りはこちらの一つで、髪もサイドアップではなく一部編み込みでいきましょう!』って感じでようやく落ち着いた。
ドレスの刺繍も、胸元と左側の足元だけに小さなセントポーリアが可愛らしくちりばめられており、少女らしさと女性らしさの間をとったとても素敵な仕上がりだった。
お母様の刺繍してくれたドレスは、きっとどの令嬢にも負けないくらいの素晴らしいものだ。
ツヴァイも王都には来ているが、パーティはめんどくさそうだからと宿でミラとお留守番をしている。
ようやく王城にも入城でき、お父様のエスコートのもと会場へと入る。
「…わぉ」
お母様の言っていたとおり、豪華絢爛、としか言いようのない内装だった。大きなシャンデリアは己が放つ光で反射し、淡い銀色の光を放っており壁際には海外のものと思われる見慣れない調度品や、王家の花をかたどった彫刻品。
上座に位置する豪華な椅子とその背後の壁には一面王と王妃の素晴らしい絵画が。
執事もメイドも数は多くないが動きに無駄がなく、既に置かれている料理も色とりどりで調度品に負けないほどの豪華さ。
「うーん、メリーの晴れ舞台にぴったりね!」
「こらこら、緊張させるようなことを言っちゃダメだろう」
「いえ…こんなに豪華だとむしろ私は目立たなくなるから安心します」
「ふふ、この子ったら何を言っているの?もうあなたの噂がされてるっていうのに」
「えっ?」
母の言葉に驚き周りを見渡せば、確かにこちらを見てひそひそとしている人たちが見て取れた。…どういう意味での噂なんだろう。"ププ、何あの子貧相ね"みたいな意味じゃなかろうな。
いや、そんな卑屈になることもないか。ユーメリーの今日の恰好は大変美少女で髪もドレスも似合っているし。ていうか元の顔がすんごい良いし。可愛いし。
「ご子息、ご令嬢の皆さま方。控室をご用意しましたのでそちらへ」
「ありがとう」
「頑張ってね、メリー」
「君なら大丈夫だ」
「ええ、行ってきますわ」
会場の執事へ案内され、ドアの一室を開けるとそこは控室というより広い応接間のようなところだった。
既に何人かの子供が思い思いに座っており、中には数人固まって話している人もいた。
…で、なんで私が入ってきた瞬間みんなこっち見るんですかね。
「ごきげんよう」
とりあえず挨拶だけして適当な椅子に座る。さ、っと近くのメイドから紅茶を差し出された。
「ありがとう、いい匂いね。あまり覚えのない匂いだけど、なんのお茶かしら?」
「こちらは海外から取り寄せたアッサムオレンジペコという紅茶でございます。王妃様のお気に入りの茶葉になります」
「…うん。美味しいわ」
後味にほのかに残る渋みも美味しさを引き立てている。子供が嫌いなほどの渋みでもないので好きな子も多そうだ。
「セントポーリア家ではアッサムの茶葉も飲んだことがないのかしら?我が家では毎日飲んでいますのよ」
おおっと。なんかいきなり突っかかる高飛車女の子来た。茶髪の髪をアップにしていくつかの宝石付き髪飾りを付けた金色の刺繍入りドレス。ザ★ご令嬢、って感じ。けどよく見る取り巻きは見当たらないけど。1人で突っかかってくるってなかなかの神経してる。嫌いじゃないよ!
「私のことをご存じなのですか?」
「もちろんでしょう!どこにでもあるような緑色の髪を持つ子なんてセントポーリア家の子だけだわ」
「くすくす…あの子可哀そうね」
「あんな子に標的にされて…ま、お似合いかもね」
「またやってるよ、あそこの子」
「絡まれてるのって公爵家の子だよな、助けたら恩売れるかな」
「でもセントポーリア家だし…放っておこうって」
…おおよそ8歳とは思えないような会話を窓際でしている数組の子供たち。そんな、子供のうちからドロにまみれた権力や派閥や汚い本心の思惑なんて考えなくてもいいじゃないの…。
ちなみに耳がとてもいいから聞こえますよ、もちろんね。大方、突っかかってきた子はみんなにこんな感じで嫌われているのかな?
「覚えてもらえてうれしい。ユーメリーですわ、よろしくね」
「えっ…あ、ヘザー・ランタナよ…」
にっこり笑って手を差し出すと、毒気を抜かれたような顔で同じように手を差し出してきた。はい、握手完了。
ランタナ家といえば侯爵の家の子だ。確かイキシア領の所だったか…。うん、この子は友達になれそうだ。だって、ランタナの花言葉といえば…。
「ヘザーさんね。私、実は同じ年ごろのお友達も知り合いもいなくて不安だったから、声をかけてくれて安心したの。ありがとう」
「そう…なの?お母様たちの交流会とかに行ったことは?」
「うちは田舎なせいかあまりそういうのは…」
「…貧乏なのは本当だったのね!せっかく公爵家のお嬢様なのに可哀そうだわ…、私の髪飾りひとつ貸してあげる」
あっうち貧乏だと思われてる…ついでに可哀そうな子扱いされてる。つーかさっきまでの突っかかりようはどうした。
「大丈夫よ。これはあなたの方が似合うもの。うちは素朴さが売りだからこのままでいいのよ」
「…でも馬鹿にされてしまうわ。着飾って、上だって思われないと…自分の行いで両親のことまで言われてしまうんだから…」
つまり、自分のせいで両親が馬鹿にされたことがあるから高飛車な態度を取っていたってことだろうか。なんだ、根はいい子じゃん。
「あなたは…両親想いの優しい人なのね。大好きな人が悪く言われるのは確かに辛いわ」
「そうでしょう?だから今日も宝石いっぱい買ってもらって…」
「でも…本当のあなたはこんなに可愛いんだから、たくさん着飾る必要はないと思うの。この大きな翡翠は、髪に差すより…ほら。胸元へ付けた方がとっても似合う」
「そ…そう?」
「ええ。きっとあなたの両親も、あなたの着飾った見た目や権力で作るお友達より、本当のあなたを知っているお友達を作ってほしいと願っていると思う」
「…うん。今日も、お母様はこんなにたくさんつけなくていいって言ってたの…」
「きっとあなたの可愛さが隠れてしまうからね。大丈夫、ヘザーさんはすごくかわいいわ。公爵の私が言うんだもの、間違いない」
「……ふふふ!あなた、変な人ね!でも好きだわ。ヘザーでいいわ。うちの方が格下なんだもん」
「私のところはそういうのは気にしないのよ」
「お母様から聞いていたけど、本当なのね。…ねえ、お願いがあるの。その…2人だけの時は、ユーメリーさんって呼んでいいかしら」
「ユーメリーでいいわ。…私たちお友達でしょう?」
「………うん!」
ランタナの花言葉は、協力と心変わり。
多分将来、この子は私のいい友達になってくれる。
感想、ブクマ、ポイントありがとうございます。励みになります。
なかなか物語が進展しなくて申し訳ない…。




