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王城でアデラールとの対面を果たしてから、大体2週間に一度のペースで手紙が届くようになった。手紙の外側はとても立派な字で書いており、まさに王族からの書面って感じだが中身は結構砕けている。

内容はほぼ愚痴、あと日常のなんでもないこと。


ああ、そうそう。友達を作りたければ素の部分で会ってみろと言ったところ、無事フェルナンド・クンシランと仲良くなれたらしい。メリーのおかげだと文面からでもにじみ出るほどに喜んでいた。

そんなわけで、現在アデラールとの関係は良好だ。


そうして無事、8歳の誕生日を迎えた私は、初めての公務となる収穫祭へ執事のジルと共に訪れた。

初めての公務だから両親と一緒かと思えば、「メリーはお父様よりしっかりしているから心配いらないわ」というお母様からの言葉のもと、いきなり1人で行動している。



ジルのエスコートで馬車から降りると、司祭様が出迎えていた。


「これはユーメリー様。ご足労いただき、誠に感謝いたします。本日の収穫祭を迎えられたこと、太陽神、並びに領主様へ心より深く御礼申し上げます」

「ミッド司祭、お礼を述べるのはこちらの方ですわ。収穫祭という素晴らしい日に、ともに司教とお祈り出来ること、楽しみにしてまいりました。領地に住まう方々との顔見えもとっても楽しみです」

「おお…噂通りのお方のようです。まだ8歳になられたばかりだというのに、しっかりしておられる。さ、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


自宅から数個目の少し離れた教会の司祭は、とても優しそうな恰幅のよいおじさんだった。年の頃は50より手前ほどだろうか。笑い皺が目立ち、人のよさそうないい老け方をしている。

司祭とともに、収穫祭に向け準備をしている教会の人たちの間を通り抜ける。まだ花の手向け時間より前のため、領民は見当たらない。


「私、実は初めての公務ですので…何か粗相があれば申し訳ございません」

「いいえ、ユーメリー様は女神像の横に座っておられるだけでよろしいのですよ。おそらくは、領主様がたも初めての公務ということで、司教のいる大きな教会ではなく私のいるような小さな教会へユーメリー様をお送りになったのでしょう」

「十分立派な教会ですわ」

「ええ、ありがとうございます。祈りには教会の大きさは関係ありませんし、ね」

「その通りですわね」

「まだ開始には時間がありますので、退屈なされないように何か小噺でもいたしましょうか」

「小噺…ですか」

「そうです。実は私、昔は手を付けられないほどの荒くれものでしてねえ」

「っま…本当ですの?」


あぶね。まじで!?って言いそうになっちゃった。日頃の行いの悪さがとっさに出ちゃう…。


「ははっそうなんです、この話をするとよく驚かれるんですよねえ」


にやり、先ほどの人の良さそうな顔とは一変して子供っぽい、悪戯に成功したかのような笑みを浮かべた。

つまりは元ヤンから一転、教会司祭へとなったってわけか…。


「若気の至りってやつなんですがねえ。あの頃は、自分以外はとにかく気に食わなかったんです。仕事場の上司や、役人、領主、国のお偉いさんとかね。ああ、ただ子供は昔から好きでしたから。弱いものをいじめたりは神に誓ってありませんでしたが」

「昔から変わらないところもあるのですね」

「そうですね。昔、私はプルメリア領のとある男爵が治める地区に住んでいたのですが、プルメリア領というのは商人の強い地域でして。読み書きそろばんが出来るのが当たり前、そうでない者達は下に見られ、下男として使いっ走りをするしかありませんでした」


プルメリアって言えば、あの名産品がたくさんある商人の血筋のところだ。なるほど…地域でも公爵の血の特性が出ていたりするのか。


「昔は寺子屋なんかも今より少なく、読み書きを勉強しようにも1日18時間働いてやっと暮らしていける程度の給金。勉強する余裕もなく…。当時、親を亡くし妹たちを養うのにいっぱいいっぱいで。幼い妹や弟も働いて、やっと家族で食べていけるものでした」

「そんなことが…」

「ある時、男爵様が賭け事に失敗しまして。その補填をしようと、新たに人員税なるものを作りましてね…それが、家族の人数に対して1年に2回、お金を取るというものでした」

「そんなの、許されません」

「当時は許されたのですよ。いや、今もセントポーリア領以外のところでは領主権限が強い地区もまだまだあるでしょう。表向きは公道を使用している分の管理料としてでしたが、誰がみても明らかに理不尽な税です。私は我慢なりませんでした。もともと気性が荒く、無理な要件を言いつける雇い主を殴ってはクビになっているような奴でしたから。男爵様が趣味の鷹狩りに行く道中、馬車の前に立ちはだかり"人員税は不当な取り立てだ、税金を課す前に贅沢をやめろ"と叫びました」

「ごもっともですわ。でも…」

「そう。聞き入れるわけがないのです。男爵様は、不敬だ、侮辱罪だと言い即刻打ち首を騎士へ命じ、私はその場で押さえつけられたのです。これで自分の人生が終わる、と思ったときに現れたのが、今の領主様です」


「お、お父様?」

「ええ。ちょうどご学友のところに遊びに行く道中だったようでして…、たまたま騒ぎを聞きつけ、何事かと男爵様に問うたのです。男爵様は、"領主が決めたる法は神が決めたる法と同じ。そこの者はそれをあろうことか不当といい、神の血族である貴族へ歯向かった。故に打ち首に処すのだ"と言い放ち、邪魔するならばお前も処刑するぞ、と領主様へ言いました。その時はお付きの方も馬車もなくなぜかおひとりでしたから、ただの領民と思ったのでしょうね」

「それでどうなったのですか?」

「領主様は、"貴族が神の血筋で絶対ならば、お前は上に立つものが絶対に揺るがぬ唯一の正しいものだと思っているのか"と問うたのです。そして、男爵様は、不躾な口調の領主様に怒りを表しながらも、そうだ、と断言しました」

「…なんとなく展開が分かりましたわ」

「何度思い出しても、すっきりとしますよ!"ならばお前が思う絶対を、私が示してやろう。セントポーリア領次期領主、セルジュ・セントポーリアの名のもとに。己の私利私欲のため不当に税を課し、勇気をもって誤りを進言した者を不当な罪にて裁こうとした貴殿の所業、貴族たる者の振る舞いではない。よって爵位永久はく奪とする。あ、ついでに財産もね"って…くぅ~~いつ思い出しても痺れますねえ!」


「お父様、かっこいいですわ!」

「そこからは早かったです。真っ青で地面に頭を打ち付ける男爵様を、騎士に連れて行かせて、あれよという間に本当に爵位はく奪してしまい、隣の地区の真面目な伯爵様が代わりとなってその地区を治めるようになりました。みんなで大喜びしたもんです。事態が落ち着いたころに、その後の生活はどうかと伺いに来てくれた領主様をみんなで胴上げしたりして、受け身が下手な領主様が腰をひねってしまって3日間寝たきりになったり…」

「お父様、かっこわるいですわ…」

「はは!私たちが胴上げしたせいなのに、笑って許してくれましてねえ。連日、寝たきり領主様の周りで宴会騒ぎでした。その時に、私は領主様について行かせてほしいって頼みました。あなたの領に住み、あなたのために働きたいとね。恩を感じる必要はないなんて言ってましたが、私も引くつもりはなく…当時、老齢の神父しかいなかったこの教会に住まわせてくれたのです。ここにきてから、もう20数年経ちますか…。あの時の領主様はまだ12歳でした。私はね、偉い人達っていうのは上の立場になればなるほど腐りきってると思っていたんです。それがどうですか。今の領主様は、あの頃と同じく領民のために身を粉にして働いている。あの人のために働くことが出来て、私は本当に幸せですよ」


しみじみと、遠い記憶を思い出しているのかここではない遠くを見ているような目で語る。


「本当に、あの頃とはくらべものにならないくらい良い暮らしになりました」

「兄も、ここに越してきてからとても丸くなりましたし」

「ふふ、確かに」


先ほどまで教会内部を掃除していた修道女たちが会話に入ってくる。


「え。兄…ということは」

「そうです。私たちは家族で越してきまして。私の妹たちですよ」

「セントポーリア家の方々にはいつもお世話になりっぱなしで。今日来ていただけて、本当にうれしいです」

「いつもありがとうございます」


全員で頭を下げられた。お父様がやったことで、私は関係していないのだけど…。


「あ、あの、私がしたわけではないですし…。これから頑張ってはいきますが」

「あの方のご家族というだけで、私どもには同じく恩人です。領主様はご自分のことより、領民のことを気遣ってくれています。週に一度は必ず地区ごとに御用伺いにいらっしゃってくださいます」


お父様、いつも外出して忙しそうにしているもんな…。


「ただ、領民を大切にする気持ちは長所であり、短所にもなっていますが…」

「え?それはどういう…」

「ああ、いけない。もう時間ですね、教会の外で領民が待っています。さあ、収穫祭を始めましょうか」



領民を思う気持ちが短所にもなる…?司祭の言葉が引っかかったが、収穫祭が始まってしまい聞く機会はなくなってしまった。





初めての公務は、何事もなく役目を終えることが出来た。お父様の知らない部分を知るいい機会にもなったが、やはり司祭の言葉が棘のように刺さり、一日頭から離れなかった。



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