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全てを否定する力

 俺の人生はこんなもので終わりなのか? 

 目の前で泣いていた女の子一人救えずに、その女の子に幕を下ろされるのか。


 京介の意識が絶望に閉ざされた。


「ヤ、ツの焔、ようや、く解析できたよ。まさか極光以前の旧言語で構成されて、いるとはな」


 薄れていく意識の中で朔の声が聞こえたと思うと、自身を包んでいた焔は切り裂かれていた。

 そしてエマ自身も剣に貫かれて、血を吹き出していた。


 が、エマを貫いた剣は砂のようになって、消えた。見ると朔の息は荒く、苦しそうで。


 しかし


「お愉しみが、過、ぎたな。私を捉えたその時に、すぐにお前は私を殺すべきだった」


 朔はそう言って新たに生み出した剣を握り直す。対して剣に貫かれたはずのエマは平然とその事実を無視し、さらに焔を生み出し両手に纏い、対峙する。


 二人は共に立っているのがやっとの状態であった。このままだとどちらかが確実に死ぬ。


―――終わる。この戦いも遂にエンディングを迎える。あれだけすさまじいエマの力も、朔は遂に解析し尽くした。きっと朔がエマを斬ることで物語は幕を引く―――


「もう、俺は何もしなくて良い。さっきもエマに殺されかけたじゃないか。もう、俺が手を出せる状況じゃ、ない……」


 全てを諦めた言葉を、知らずうちに京介は口にしていた。それは誰に訴えるでもなく、自然と漏れた言葉だった。


 だが、言葉とは裏腹に、京介は涙を零していた。その矛盾に気がつかないまま、涙は地面を濡らす。


 エマは自分の生い立ち、能力の暴走、全てを仕方のない事とあきらめて、受け入れているように言ってたけど、きっとそれは違う。


 人と違う力を持ってしまったからって、どうしてそれで不幸にならなければいけないんだ。


―我々銀色の魔弾は常に命を賭して戦わねばならない―


 いつの日か、屋上で朔はそう言ってたけど、本当にそうなのか。朔も、エマもこんな命がけの戦いをするために生まれてきたっていうのかよ。

 ハッキングができるってだけで、あとは普通の人間と変わらない。

 

 この世界から戦争は消えたんじゃなかったのか? 

 みんな平和に生きているじゃないか。どうして変な力を持ってしまった俺たちは戦わなければならない。死ななきゃならない? 

 どうして、名前を聞かれただけで、エマはあそこまで喜ばなきゃならないんだ!?


「俺、助かるんだよな。……ハ、あは、あはハはは」


 乾いた笑いを浮かべ、京介は空を仰ぎ見る。

 いつの間にか、空は昏い影を落としていた。


 その時、ポツリと音がしたかと思うと、その音はさらに輪唱を始め、それは雨粒となって降り注いだ。


 あるいはそれが合図となったのか。

 朔とエマ、二人は同時に地面を蹴った。


―――何でこんな、殺し合いをしている?

 何で、俺。こんな時、情けなくただ泣いているんだ?

 何も、できない。それは。………そんなのは、嫌だ―――


 全てを救うことはできない。そんなこと、誰が決めたんだ?


「…………くだらない。こんなくだらない世界、俺が、俺が全部、否定してやる!!」


 静かに、しかし力強く京介は口にした。


 辺りに響き渡る、ガラスが割れるような、耳障りな高音。


 二人の動きが止まる。そして朔は頭を押さえ、苦悶の表情を浮かべたかと思うと、剣を握りしめたまま崩れ落ちた。


 だが、標的を失ったもう一人はその色を失った瞳だけを京介に向けたかと思うと、壊れた人形のような動作で京介に向き直った。


 そのまま静止したかと思うと、何かに抗うように両手で頭を掻き毟るようにして。


「き、ょう、すけ。わタ、シ、止メ、テ。殺し…て」


 エマは掠れたそう言って涙を零した。そして、その瞳からまた色が失われ、再び焔に包まれたかと思うと、ゆっくりと京介に向かって歩を進めた。


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